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第七章

58,そばにいてほしい相手

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「どうすればいいのでしょうか……?」

 正直、怖かった。もしもリュウキがいなかったら。全てを凍りつけてしまったかもしれない。

 俯くヤエの肩にそっと手を置くと、リュウキは優しい口調で続ける。

「大丈夫。さっきみたいに深く呼吸をするんだよ。実際、ヤエも力を鎮められただろう?」
「はい……ですがそれは、リュウキ様が来てくださったからです」

 おもむろにリュウキの顔を見ると、彼は微笑んでいた。その柔らかい表情に、ヤエは思わず目を細める。
 だが、リュウキの瞳はどこか寂しさ色に染まっている気がしてならない。

「心配しないで。僕も初めて炎の力が溢れた時は同じように焦ってしまった。だけどすぐに慣れるよ。ヤエは自分の力で感情を抑えられる」

 自分の肩に触れるリュウキの手をギュッと握る。放したくなかった。

「それよりもヤエ。足は大丈夫なの?」
「え……?」

 リュウキは足元をじっと見つめてくる。彼に言われて気がついた。そう言えば。

 山賊たちが現れた時は、たしかに捻った足首に痛みがあったはず。それなのにいつからだろうか──おそらく氷の力が放出した時からか──まるで完治したように痛覚がなくなっている。

「いつの間にか、治ったみたいです」
「そうか、それはよかった。力が覚醒して痛みもふっ飛んだのかな」

 ははは、と笑い声を上げるリュウキはさりげなくヤエから手を放す。けれども、次に長剣を見ると突然慌て始めるのだ。

「あれ? 大変だ、ヤエ」
「えっ?」
「剣が刃こぼれしているよ!」

 手に握る長剣の刃先を確認すると──たしかに、ところどころが欠けてしまっているではないか。斬ったわけではないが、氷のせいで刃がやられてしまったのだろう。

 自身の放った氷の威力に、ヤエはぞっとした。

「鍛冶屋へ行こうか」

 そう言うとリュウキは、ヤエの左手を引いて歩き始めた。
 なぜだろう。いつもあたたかいはずの彼の指先が、今は少しだけ冷たくなっているのだ。

 ──聞きたかった。彼は、何か不安を抱えているのではないかと。お調子者のリュウキは、いつもヘラヘラしているのだとばかり思っていた。しかし時折見せる寂しそうな表情、そしてヤエが感じる彼の「冷たい感情」。
 何に不安を感じているのかをヤエが問いただしたとしても、リュウキはきっとこう答える。

『記憶がないから僕もよく分からない』

 リュウキの中には「強くなくてはならない」という言葉が強烈に残っている。記憶の有無に関係なく彼はきっと誤魔化すだろうが。

 どちらにせよ、ヤエはリュウキのそばにいたかった。
 決してこれは「幻想」の想いではない。自分が全てを思い出したとしても。思い出せない想い人を思い出したとしても。これはヤエにとって、大切な感情に違いない。自信をもってそう言える。

 もはや止められない熱い想いだ──
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