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第六章
51,リュウキの正体……?
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※
燃え盛る村は、悲鳴で溢れ返る。
破壊されていく村を、リュウキはただ眺めることしかできない。
兵たちに追われる村人たちは次々と襲われ、刃で突き刺された身体は真っ赤に染まって地面に倒れていく。痙攣しながら白目を向くその様は、見ているだけで吐き気を催すほど。なんとも凄惨である。
──またやって来た。嘘か誠か分からぬ、幻想の世界。
幻想だとしても、過去の出来事だとしても。目の前で襲われているこの村を、どうにか救いたいと強く思った。
リュウキは足を前進させてみる。しっかりと身体は動かせるようだ。
軍には必ず長がいる。
泣き叫ぶ村人たちを老若男女問わず襲いかかるこいつらの長は誰だ!
混乱に満ちた村はもはや絶望的で、殆どの村人たちの生命が奪われている。子供でも容赦はない。戦乱時代の悲惨な現実であった。
『もうやめろ』
転がる遺体を横目に、そう叫んだはずだった。しかし、リュウキの声など存在しないものとされ、消え失せてしまう。
それでもリュウキは、声を上げ続ける。
『もうやめてくれ。争いなんて、何の意味もない。人々を殺さないでくれ!』
口を大きく動かし、喉が裂けそうになるほどの絶叫。誰の耳にも届かず、リュウキ一人だけが息を上げていた。
するとこの時。リュウキの背後にあるものの気配が現われる。
全身に寒気が走った。
明らかに、ただならぬ空気なのだ。一般兵とは全く違う。殺気立つ気配が、ビリビリと伝わってくるのだ。その雰囲気だけで恐怖すら覚えた。
息を呑み、リュウキはゆっくりと後ろを振り向いた──
『お前は……?』
目の前に炎が燃え盛り、人物の姿をはっきりと捉えられずにいた。熱い炎のすぐ向こう側に誰かが佇んでいる。
リュウキの額から嫌な汗が流れ落ちた。固唾を飲み込み、一歩二歩少しずつ炎の向こう側へと足を向けた。
この炎に触れても火傷のひとつも負わない。幻想のものだ。だから宿敵の姿を確認する為に、リュウキは歩むのを決して止めない。
『お前は誰だよ……。僕にその顔を見せてくれ』
あくまで口調は柔らかく、しかし声は低くしてリュウキは目の前の巨大な炎を掻き分けた。
──すると、ある一人の人物がリュウキの目の前にはっきりと映り込んだのだ。
長髪の黒髪と、水色の大きな瞳。見るからに筋肉質な長身の男は、黒い馬に跨がって大槍を手に持っていた。リュウキがその姿を目にした瞬間、男はニヤリと不気味に笑うのだ。
リュウキは自分の目を疑う。
──この男は。
『嘘、だろ……?』
幻想だと思いたかった。目の前で村を襲撃している男は、リュウキのよく知っている人物だったのだ。
「一人残らず殺せ」
男は冷酷な声で配下たちに指示を出している。村人たちが殺されていくのを、楽しそうに眺めているのだ。
そんな男の姿を見て、リュウキは身体がガタガタと震えた。
『まさか、まさか……!』
残虐に村を襲っている軍の長は、たしかに【リュウキ本人】に見えるのだ。
下品な笑い方で、まるで人が死んでいくのを喜んでいるように──
『嘘だ、嘘だ、嘘だ! そんなはずない、違う! こんなの事実でもなんでもない! 嘘ばかりの世界だ!!』
──そこでハッと意識が戻った。夢を見ていただけなのか、幻想の世界にいたのか結局はっきりしない。
汗が身体中に流れていて気分が悪い。心臓は未だにドクドクと煩く音を立てている。
寝床で横になるリュウキは、ふと腕の中にいる彼女の存在を思い出す。すぐ隣を見ると、静かに寝息を立てるヤエの姿があった。
無防備に眠る彼女の顔を見ただけで、リュウキの胸は締めつけられる。
ヤエは、村を襲撃された記憶が残っていると話していた。大切なものを失う辛さを知っている。
だからこそ、リュウキはたった今見た恐ろしい光景を信じたくなかった。
人の生命を軽く見て虐殺するような人間など反吐が出る。もしもあの幻想の自分が過去の自分であったら、リュウキは間違いなくこの首を斬るだろう。
「ごめん、ヤエ……」
彼女の頬にそっと触れ、リュウキはポツリと呟いた。何に対しての謝罪の言葉か分からない。それでもリュウキは、彼女に謝りたかったのだ。
燃え盛る村は、悲鳴で溢れ返る。
破壊されていく村を、リュウキはただ眺めることしかできない。
兵たちに追われる村人たちは次々と襲われ、刃で突き刺された身体は真っ赤に染まって地面に倒れていく。痙攣しながら白目を向くその様は、見ているだけで吐き気を催すほど。なんとも凄惨である。
──またやって来た。嘘か誠か分からぬ、幻想の世界。
幻想だとしても、過去の出来事だとしても。目の前で襲われているこの村を、どうにか救いたいと強く思った。
リュウキは足を前進させてみる。しっかりと身体は動かせるようだ。
軍には必ず長がいる。
泣き叫ぶ村人たちを老若男女問わず襲いかかるこいつらの長は誰だ!
混乱に満ちた村はもはや絶望的で、殆どの村人たちの生命が奪われている。子供でも容赦はない。戦乱時代の悲惨な現実であった。
『もうやめろ』
転がる遺体を横目に、そう叫んだはずだった。しかし、リュウキの声など存在しないものとされ、消え失せてしまう。
それでもリュウキは、声を上げ続ける。
『もうやめてくれ。争いなんて、何の意味もない。人々を殺さないでくれ!』
口を大きく動かし、喉が裂けそうになるほどの絶叫。誰の耳にも届かず、リュウキ一人だけが息を上げていた。
するとこの時。リュウキの背後にあるものの気配が現われる。
全身に寒気が走った。
明らかに、ただならぬ空気なのだ。一般兵とは全く違う。殺気立つ気配が、ビリビリと伝わってくるのだ。その雰囲気だけで恐怖すら覚えた。
息を呑み、リュウキはゆっくりと後ろを振り向いた──
『お前は……?』
目の前に炎が燃え盛り、人物の姿をはっきりと捉えられずにいた。熱い炎のすぐ向こう側に誰かが佇んでいる。
リュウキの額から嫌な汗が流れ落ちた。固唾を飲み込み、一歩二歩少しずつ炎の向こう側へと足を向けた。
この炎に触れても火傷のひとつも負わない。幻想のものだ。だから宿敵の姿を確認する為に、リュウキは歩むのを決して止めない。
『お前は誰だよ……。僕にその顔を見せてくれ』
あくまで口調は柔らかく、しかし声は低くしてリュウキは目の前の巨大な炎を掻き分けた。
──すると、ある一人の人物がリュウキの目の前にはっきりと映り込んだのだ。
長髪の黒髪と、水色の大きな瞳。見るからに筋肉質な長身の男は、黒い馬に跨がって大槍を手に持っていた。リュウキがその姿を目にした瞬間、男はニヤリと不気味に笑うのだ。
リュウキは自分の目を疑う。
──この男は。
『嘘、だろ……?』
幻想だと思いたかった。目の前で村を襲撃している男は、リュウキのよく知っている人物だったのだ。
「一人残らず殺せ」
男は冷酷な声で配下たちに指示を出している。村人たちが殺されていくのを、楽しそうに眺めているのだ。
そんな男の姿を見て、リュウキは身体がガタガタと震えた。
『まさか、まさか……!』
残虐に村を襲っている軍の長は、たしかに【リュウキ本人】に見えるのだ。
下品な笑い方で、まるで人が死んでいくのを喜んでいるように──
『嘘だ、嘘だ、嘘だ! そんなはずない、違う! こんなの事実でもなんでもない! 嘘ばかりの世界だ!!』
──そこでハッと意識が戻った。夢を見ていただけなのか、幻想の世界にいたのか結局はっきりしない。
汗が身体中に流れていて気分が悪い。心臓は未だにドクドクと煩く音を立てている。
寝床で横になるリュウキは、ふと腕の中にいる彼女の存在を思い出す。すぐ隣を見ると、静かに寝息を立てるヤエの姿があった。
無防備に眠る彼女の顔を見ただけで、リュウキの胸は締めつけられる。
ヤエは、村を襲撃された記憶が残っていると話していた。大切なものを失う辛さを知っている。
だからこそ、リュウキはたった今見た恐ろしい光景を信じたくなかった。
人の生命を軽く見て虐殺するような人間など反吐が出る。もしもあの幻想の自分が過去の自分であったら、リュウキは間違いなくこの首を斬るだろう。
「ごめん、ヤエ……」
彼女の頬にそっと触れ、リュウキはポツリと呟いた。何に対しての謝罪の言葉か分からない。それでもリュウキは、彼女に謝りたかったのだ。
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