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第四章
35,良薬口に苦し
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陽が沈む頃。朱鷺の少女に手伝ってもらいながら、リュウキは夕食を済ませた。
その後、彼女からあるものを差し出される。
「これは?」
彼女の手の中には、ひとつまみ程度の薄桃色の粉があった。僅かに光を放っている。
「さっき言っていた治療薬だよ。骨折にもよく効くの。夜寝る前に飲めば、二日で完治するんだよ」
「え、本当に?」
じっと粉を見つめたまま、リュウキは目を見開く。
「こんな大怪我をたった二日で……?」
「あれ、疑ってる? 飲みたくないならあげないよ」
「いや、そういうわけじゃないんだ」
そんな治療薬があるなんて、見たことも聞いたこともない。半信半疑ではあったが、彼女が嘘をつくのにも理由は見当たらない。
「いつまでも動けないと困るから。君の話が本当なら、ぜひ試してみたい」
「うん。いいよ。一口舐めるだけでいいからね。ただ……」
薄桃色の粉をリュウキの口に運ぶ前、彼女は少し困った顔になる。
「この治療薬ね、すっごく苦いの」
「ああ、そうなんだ?」
「うん。多分、悶えるよ」
「大袈裟だなあ。良薬口に苦し、と言うだろう? それほど効果があるってことだよ」
リュウキはにこりと微笑んでみせる。
なんとも言えない表情で、彼女はじっと顔を覗き込んできた。
「……本当に、大丈夫?」
「なんだよ、君が用意してくれたんだろう」
「うん。それじゃあ……後悔しないでね」
そう言って、彼女は治療薬をゆっくりとリュウキの口元に運んでいく。微かに、指先が震えているような気がした。
数量の粉がリュウキの舌の上にそっと触れる。その瞬間。
「……っ!!」
声にならない、叫び声を、上げた。
リュウキの口の中に侵入した粉は、あっという間に溶けていく。だが強烈な苦味が、リュウキを襲った。
「うわ、なんだこれ! まずい! うぇ!」
「ああ! 吐き出さないで! しっかり飲み込んで!」
「ムリ、無理だよこんな苦いもの!」
「だから言ったのに……」
「み、み、水をくれ!」
戸惑った顔をしながら、朱鷺の少女はリュウキのそばに置かれていた瓢箪を手にする。急いで蓋を開け、それを悶えるリュウキの口に当てた。
慌てて水を含め、なんとかその粉を飲み込んだ。
……とんでもない味だ。
「リュウキ、平気?」
「うぅ」
涙目になりながら、リュウキはこくりと頷いた。
「想像以上に、ものすごい、苦い、薬、だね……」
「そうなの。明日の夜にもう一回飲まないといけないんだけど、やめておく……?」
「いや……そうなると効果がなくなるんだよね」
「うん」
リュウキはふぅ、と大きく息を吐いた。一体何がどうなったらあんなに苦いものが出来上がるのか。思い出しただけで身震いしそうだった。
「きついなら無理しないで治るまで休んでいればいいのに。身の回りのお世話はしてあげるよ」
「いや、それは悪いよ。それに──先を急いでいるんだ」
「そうなの?」
「ある人たちに言われたんだ。次の満月までにこの国の最西端にあるシュキ城に行けと」
「国の最西端って……ここからかなり距離があるよね。間に合うの?」
目を見開く彼女に対して、リュウキは小さく首を横に振る。
「大変な足止めを食らっているからね。正直焦ってるよ。山を越えなきゃならないし。次の村で馬でも買い取らないと大分まずい」
リュウキはそこで事情を説明する。記憶を取り戻す為に旅をしているのだと。そして、彼女の──ヤエの大切な友の行方も追わなければならないということも。他に手がかりがない現状では、あのナナシたちの話を鵜呑みにして行動するしかないのだ。
「うーん」
リュウキの話を聞いた彼女は、そこで神妙な面持ちになる。
「西国の最西端の地って……幻草が盛んに栽培されているんだよね」
「えっ?」
陽が沈む頃。朱鷺の少女に手伝ってもらいながら、リュウキは夕食を済ませた。
その後、彼女からあるものを差し出される。
「これは?」
彼女の手の中には、ひとつまみ程度の薄桃色の粉があった。僅かに光を放っている。
「さっき言っていた治療薬だよ。骨折にもよく効くの。夜寝る前に飲めば、二日で完治するんだよ」
「え、本当に?」
じっと粉を見つめたまま、リュウキは目を見開く。
「こんな大怪我をたった二日で……?」
「あれ、疑ってる? 飲みたくないならあげないよ」
「いや、そういうわけじゃないんだ」
そんな治療薬があるなんて、見たことも聞いたこともない。半信半疑ではあったが、彼女が嘘をつくのにも理由は見当たらない。
「いつまでも動けないと困るから。君の話が本当なら、ぜひ試してみたい」
「うん。いいよ。一口舐めるだけでいいからね。ただ……」
薄桃色の粉をリュウキの口に運ぶ前、彼女は少し困った顔になる。
「この治療薬ね、すっごく苦いの」
「ああ、そうなんだ?」
「うん。多分、悶えるよ」
「大袈裟だなあ。良薬口に苦し、と言うだろう? それほど効果があるってことだよ」
リュウキはにこりと微笑んでみせる。
なんとも言えない表情で、彼女はじっと顔を覗き込んできた。
「……本当に、大丈夫?」
「なんだよ、君が用意してくれたんだろう」
「うん。それじゃあ……後悔しないでね」
そう言って、彼女は治療薬をゆっくりとリュウキの口元に運んでいく。微かに、指先が震えているような気がした。
数量の粉がリュウキの舌の上にそっと触れる。その瞬間。
「……っ!!」
声にならない、叫び声を、上げた。
リュウキの口の中に侵入した粉は、あっという間に溶けていく。だが強烈な苦味が、リュウキを襲った。
「うわ、なんだこれ! まずい! うぇ!」
「ああ! 吐き出さないで! しっかり飲み込んで!」
「ムリ、無理だよこんな苦いもの!」
「だから言ったのに……」
「み、み、水をくれ!」
戸惑った顔をしながら、朱鷺の少女はリュウキのそばに置かれていた瓢箪を手にする。急いで蓋を開け、それを悶えるリュウキの口に当てた。
慌てて水を含め、なんとかその粉を飲み込んだ。
……とんでもない味だ。
「リュウキ、平気?」
「うぅ」
涙目になりながら、リュウキはこくりと頷いた。
「想像以上に、ものすごい、苦い、薬、だね……」
「そうなの。明日の夜にもう一回飲まないといけないんだけど、やめておく……?」
「いや……そうなると効果がなくなるんだよね」
「うん」
リュウキはふぅ、と大きく息を吐いた。一体何がどうなったらあんなに苦いものが出来上がるのか。思い出しただけで身震いしそうだった。
「きついなら無理しないで治るまで休んでいればいいのに。身の回りのお世話はしてあげるよ」
「いや、それは悪いよ。それに──先を急いでいるんだ」
「そうなの?」
「ある人たちに言われたんだ。次の満月までにこの国の最西端にあるシュキ城に行けと」
「国の最西端って……ここからかなり距離があるよね。間に合うの?」
目を見開く彼女に対して、リュウキは小さく首を横に振る。
「大変な足止めを食らっているからね。正直焦ってるよ。山を越えなきゃならないし。次の村で馬でも買い取らないと大分まずい」
リュウキはそこで事情を説明する。記憶を取り戻す為に旅をしているのだと。そして、彼女の──ヤエの大切な友の行方も追わなければならないということも。他に手がかりがない現状では、あのナナシたちの話を鵜呑みにして行動するしかないのだ。
「うーん」
リュウキの話を聞いた彼女は、そこで神妙な面持ちになる。
「西国の最西端の地って……幻草が盛んに栽培されているんだよね」
「えっ?」
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