【完結】炎の戦史 ~氷の少女と失われた記憶~

朱村びすりん

文字の大きさ
上 下
4 / 165
第一章

4,特殊な二人

しおりを挟む
「放してください……!」

 抵抗する少女。リュウキよりも頭一つ分は背が低く、何よりも細身であった。力の差は比べるまでもないだろう。

「放してほしいなら、剣を下ろしてくれないかな」

 刺激しないようにリュウキは優しく言うが、少女は暴れることをやめない。
 この光景を眺めていた白虎が大きく唸り声を上げ、姿勢を低くしてリュウキの前に立つ。先程よりも更に瞳孔が大きくなっていた。地が剥ぐ程に爪を鋭くし、今にも飛びかかってきそうだ。

「ああ、白虎君。君はそろそろ観念しようね」

 リュウキは少女の腕を片手で固めたまま、右手からじんわりと火の玉を出現させる。

「な、なに?」

 少女は驚きの表情を浮かべた。
 火の玉が少女の腕を掠める。熱を感じたはずだが、火傷を負わせることはなかった。
 この状況に、少女は余計に混乱の文字を浮かべている。

「大丈夫、君たちを燃やすつもりはないんだ。ちょっとだけ大人しくしてほしいだけだよ」

 リュウキは瞳で火の玉を追う。目の前が微かに朱色に染め上がった。火の玉はリュウキの瞳の動きに合わせて踊り始めた。
 みるみるうちに燃える玉は大きくなり、まばたきした次の瞬間には白虎の身体を完全に囲んだ。

「や、やめて。その子を傷つけないで!」
「少し君と話がしたいんだ。白虎君は興奮しているみたいだから、このまま動きを封じるだけだよ。話が終われば火は消してあげるから、その物騒なものを足元に置いてくれないかな」
「お断りします。炎を自在に操る怪しい人の言うことなど聞けるわけがありません」
「僕が怪しい? 君だって同じじゃないか。こんな所で凍っていて、しかもその化け物と仲良くしているようだ。僕の火のお陰で氷が溶けたのに、いきなり襲ってくるなんて。君の方が怪しいし危ないよねぇ?」
「そ、それは……。あなたがハクに酷いことをしたからです」
「僕だけのせいじゃない。この白虎君は僕の大切な長い黒髪をばっさり切り刻んでしまった。ほら、もう肩上にしか髪がないじゃないか!」
「……」

 面倒臭い男だ、と言わんばかりに少女は深く息を吐く。それからゆっくりと長剣から手を放した。

「お? やっと話をしてくれる気になったみたいだね」
「……埒が明かないので。お話が終わったらすぐにあの子を解放してください」
「ああ、分かったよ」

 白虎の全身は円になった炎に囲まれ、まるで押さえつけられたように身動きが取れなくなっている。その様子を、少女は複雑な表情を浮かべて眺めた。

「ソン・ヤエ、と申します」 

 暗い声で、淡々とそう名乗る彼女。その名を聞いた時、リュウキはなぜか心がどくんと唸った。

「僕はまだ何も訊いていないよ」
「どうせ訊こうとしていましたよね?」

 無理やり彼女の顔を覗き込み、リュウキは早口で疑問を投げつけ始めた。

「どうして君はこんなところで凍りついていた? 化け物と人が仲良くしているなんて驚きだよ。それに……」
「ちょっと待ってください。そんなに一気に質問されても困ります」
「ああ、ごめん」と苦笑するリュウキだが、物珍しい光景を目の当たりにして興味がそそられるのだから仕方がない。

「それよりも、あなただって特殊ですよね。炎を自在に操る人間など聞いたことがありません」
「そうだよね、ビックリするよね。僕も驚いているよ」
「と、言いますと?」
「僕もこの炎の力がいつ出せるようになったのか分からないんだ。でも、使えば使うほど扱いに馴れていく。意識を集中させるからものすごく疲れるけれど。しかも今みたいにぶちギレたりすると、巨大な炎が放出されるんだ」
「……恐ろしい妖術みたいですね」
「でもそのお陰で君は氷の壁から助かることができたんだよ」
「それには感謝します」
 
 ヤエは未だに戸惑っているようだ。
 お互いが珍しい人種と言えるので、どこから質問し、どう答えるべきか迷っているのが本音であった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜

みおな
ファンタジー
 私の名前は、瀬尾あかり。 37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。  そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。  今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。  それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。  そして、目覚めた時ー

いい子ちゃんなんて嫌いだわ

F.conoe
ファンタジー
異世界召喚され、聖女として厚遇されたが 聖女じゃなかったと手のひら返しをされた。 おまけだと思われていたあの子が聖女だという。いい子で優しい聖女さま。 どうしてあなたは、もっと早く名乗らなかったの。 それが優しさだと思ったの?

フェル 森で助けた女性騎士に一目惚れして、その後イチャイチャしながらずっと一緒に暮らす話

カトウ
ファンタジー
こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 チートなんてない。 日本で生きてきたという曖昧な記憶を持って、少年は育った。 自分にも何かすごい力があるんじゃないか。そう思っていたけれど全くパッとしない。 魔法?生活魔法しか使えませんけど。 物作り?こんな田舎で何ができるんだ。 狩り?僕が狙えば獲物が逃げていくよ。 そんな僕も15歳。成人の年になる。 何もない田舎から都会に出て仕事を探そうと考えていた矢先、森で倒れている美しい女性騎士をみつける。 こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 女性騎士に一目惚れしてしまった、少し人と変わった考えを方を持つ青年が、いろいろな人と関わりながら、ゆっくりと成長していく物語。 になればいいと思っています。 皆様の感想。いただけたら嬉しいです。 面白い。少しでも思っていただけたらお気に入りに登録をぜひお願いいたします。 よろしくお願いします! カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しております。 続きが気になる!もしそう思っていただけたのならこちらでもお読みいただけます。

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

化け物バックパッカー

オロボ46
SF
自分ノ触覚デ見サセテヨ、コノ世界ノ価値。写真ヤ言葉ダケデナク、コノ触覚デ。  黒いローブで身を隠す少女は、老人にそう頼む。  眼球代わりの、触覚を揺らしながら。  変異体。  それは、“突然変異症”によって、人間からかけ離れた姿となった元人間である。  変異体は、人間から姿を隠さなければならない。  それが出来なければ、待つのは施設への隔離、もしくは駆除だ。  変異体である少女に、人間の老人はこう答える。 お嬢さんはこの世界の価値を見させくれるのか?  ここは、地球とそっくりに創造された星。  地球と似た建物、地形、自然、人々が存在する星。    人間に見つからないように暮らす“変異体”が存在する星。  世界に対して独自の考えを持つ、人間と変異体が存在する星。  バックパックを背負う人間の老人と、変異体の少女が旅をする星。  「小説家になろう」「カクヨム」「マグネット」と重複投稿している短編集です。各話の繋がりはあるものの、どこから読んでも問題ありません。  次回は9月19日(月)を予定しています。 (以前は11日の公開予定でしたが、事情で遅れての公開になってしまいました……) ★←このマークが付いている作品は、人を選ぶ表現(グロ)などがある作品です。

【『星屑の狭間で』『パラレル2』(アドル・エルク独身編)】

トーマス・ライカー
SF
 舞台は、数多ある地球圏パラレルワールドのひとつ。  超大規模、超高密度、超高速度、超圧縮高度複合複層処理でのハイパー・ヴァーチャル・エクステンデッド・ミクシッド・リアリティ(超拡張複合仮想現実)の技術が、一般にも普及して定着し、ハイパーレベル・データストリーム・ネットワークが一般化した未来社会。  主人公、アドル・エルクは36才で今だに独身。  インターナショナル・クライトン・エンタープライズ(クライトン国際総合商社)本社第2棟・営業3課・セカンドセクション・フォースフロアで勤務する係長だ。  政・財・官・民・公・軍がある目的の為に、共同で構築した『運営推進委員会』  そこが企画した、超大規模ヴァーチャル体感サバイバル仮想空間艦対戦ゲーム大会。 『サバイバル・スペース・バトルシップ』  この『運営推進委員会』にて一席を占める、データストリーム・ネットワーク・メディア。  『トゥーウェイ・データ・ネット・ストリーム・ステーション』社が企画した 『サバイバル・スペースバトルシップ・キャプテン・アンド・クルー』と言う連続配信リアル・ライヴ・ヴァラエティショウが、民間から男性艦長演者10名と女性艦長演者10名を募集し、アドル・エルクはそれに応募して当選を果たしたのだ。  彼がこのゲーム大会に応募したのは、これがウォー・ゲームではなく、バトル・ゲームと言う触れ込みだったからだ。  ウォー・ゲームであれば、参加者が所属する国・団体・勢力のようなものが設定に組み込まれる。  その所属先の中での振る舞いが面倒臭いと感じていたので、それが設定に組み込まれていない、このゲームが彼は気に入った。  だがこの配信会社は、艦長役演者に当選した20名を開幕前に発表しなかった。  連続配信リアル・ライヴ・ヴァラエティショウが配信されて初めて、誰が選ばれたのかが判る仕掛けにしたのだ。  艦長役演者に選ばれたのが、今から90日前。以来彼は土日・祝日と終業後の時間を使って準備を進めてきた。  配信会社から送られた、女性芸能人クルー候補者名簿から自分の好みに合い、能力の高い人材を副長以下のクルーとして選抜し、面談し、撮影セットを見学し、マニュアルファイルを頭に叩き込み、彼女達と様々な打ち合わせや協議を重ねて段取りや準備を積み上げて構築してきた。  彼の目的はこのゲーム大会を出来る限りの長期間に亘って楽しむ事。  会社からの給与とボーナス・艦長報酬と配信会社からのギャラ・戦果に応じた分配賞金で大金持ちになる事と、自分が艦長として率いる『ディファイアント』に経験値を付与し続けて、最強の艦とする事。  スタッフ・クルー達との関係構築も楽しみたい。  運営推進委員会の真意・本当の目的は気になる処だが、先ずは『ディファイアント』として、戦い抜く姿を観せる事だな。

処理中です...