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第五章
42・探した先に
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ユウトは、最後の最後まで僕の身を案じていた。心配してくれるのはすごくありがたいし、そこまで思っていてくれてるのは素直に嬉しい。
でも──僕は、決断できずにいる。
放課後になり、僕は誰よりも早く学校をあとにした。
サヤカに会いたい。ひと目でいいから、とにかく会いたかった。
電車に乗り込み、家の最寄り駅を降り、彼女のアパートへ向かった。
今日は一日中、彼女からのメッセージはきていない。本当に体調が悪いのかも。最悪の事態にだけはなっていてほしくないと願った。
無我夢中で帰り道をたどり、アパートの前に行き着いた。
急いだせいで、息が上がってしまった。呼吸を整える間もなく、僕はエントランスのインターフォンでサヤカの部屋番号を呼び出した。
しかし、応答はない。インターフォンの呼び出し音が、数回虚しく響くだけ。
留守か? まさか、本当に倒れているわけじゃないよな?
スマートフォンを手に取り、サヤカの連絡先を表示し、電話をかけてみた。けれど、やっぱり反応はなかった。
どうしたらいいんだろう……
エントランス前からアパートを見上げる。彼女の部屋のベランダを確認してみるが、洗濯物は干されておらず、カーテンも閉まっていて中の様子もわからない。在宅中なのかも確認できなかった。
「……って。なにやってんだ、僕は」
ふと冷静になる。自分の行動が、ストーカーっぽいじゃないかと我に返った。
こんなことなら、帰る前にクラスの誰かにでも聞いてみればよかった。サヤカから連絡はきてないか。どうして今日、休みなのか聞いていないか。本当に体調不良なのか。
彼女とよく話しているクラスメイトなら、なにかしら事情を知っている可能性がある。
でも僕は、サヤカの友人たちの連絡先を知っているわけじゃない。SNSなどで探してみて、誰かとコンタクトを取ってみるのはどうかな。いや、それとも……
と、頭を巡らせているとき。突然、ひらめいた。
『マニーカフェでバイトをはじめたから』
昨日、サヤカはそう言っていた。
そうだ。バイト先に行ってみればなにかわかるかも。
サヤカが働いている場所は、以前ふたりで放課後に訪れたマニーカフェ。捨てられていたろこを、彼女が拾った場所だ。
あそこへ行ってみよう。
踵を返し、僕は急いでマニーカフェへ向かった。大きく両手を振りながら、僕は無我夢中で走っていく。
いま、サヤカがバイト先にいる可能性は極めて低い。学校を休んだのに、働くなんてことは考えにくいから。せめて店の従業員に、事情を説明してサヤカのことをなにか聞き出せたらいい。
やがて、マニーカフェが見えてきた。全速力で走ったせいで息が荒い。僕は呼吸を整え、大きな窓ガラス越しから店内をそっと覗いた。
店のテーブルには数組のお客が寛いでいて、まったりした雰囲気が流れていた。
カウンターには若い男性スタッフが立っており──そのすぐ横で女性店員が接客をしている姿があった。
彼女はオレンジのエプロンをまとい、髪を後ろでまとめ、笑顔でお客のオーダーを受けている。
外から見ても、彼女の愛想のよさが窺えた。
お客の目をまっすぐ見て対応する彼女の瞳は──深い海色。
「なんで。どうして普通に働いてるんだよ」
僕はしばらく、店の外で立ち尽くすしかなった。
──サヤカが、元気な姿で、まるで何事もなかったかのように働いていたのだから。
でも──僕は、決断できずにいる。
放課後になり、僕は誰よりも早く学校をあとにした。
サヤカに会いたい。ひと目でいいから、とにかく会いたかった。
電車に乗り込み、家の最寄り駅を降り、彼女のアパートへ向かった。
今日は一日中、彼女からのメッセージはきていない。本当に体調が悪いのかも。最悪の事態にだけはなっていてほしくないと願った。
無我夢中で帰り道をたどり、アパートの前に行き着いた。
急いだせいで、息が上がってしまった。呼吸を整える間もなく、僕はエントランスのインターフォンでサヤカの部屋番号を呼び出した。
しかし、応答はない。インターフォンの呼び出し音が、数回虚しく響くだけ。
留守か? まさか、本当に倒れているわけじゃないよな?
スマートフォンを手に取り、サヤカの連絡先を表示し、電話をかけてみた。けれど、やっぱり反応はなかった。
どうしたらいいんだろう……
エントランス前からアパートを見上げる。彼女の部屋のベランダを確認してみるが、洗濯物は干されておらず、カーテンも閉まっていて中の様子もわからない。在宅中なのかも確認できなかった。
「……って。なにやってんだ、僕は」
ふと冷静になる。自分の行動が、ストーカーっぽいじゃないかと我に返った。
こんなことなら、帰る前にクラスの誰かにでも聞いてみればよかった。サヤカから連絡はきてないか。どうして今日、休みなのか聞いていないか。本当に体調不良なのか。
彼女とよく話しているクラスメイトなら、なにかしら事情を知っている可能性がある。
でも僕は、サヤカの友人たちの連絡先を知っているわけじゃない。SNSなどで探してみて、誰かとコンタクトを取ってみるのはどうかな。いや、それとも……
と、頭を巡らせているとき。突然、ひらめいた。
『マニーカフェでバイトをはじめたから』
昨日、サヤカはそう言っていた。
そうだ。バイト先に行ってみればなにかわかるかも。
サヤカが働いている場所は、以前ふたりで放課後に訪れたマニーカフェ。捨てられていたろこを、彼女が拾った場所だ。
あそこへ行ってみよう。
踵を返し、僕は急いでマニーカフェへ向かった。大きく両手を振りながら、僕は無我夢中で走っていく。
いま、サヤカがバイト先にいる可能性は極めて低い。学校を休んだのに、働くなんてことは考えにくいから。せめて店の従業員に、事情を説明してサヤカのことをなにか聞き出せたらいい。
やがて、マニーカフェが見えてきた。全速力で走ったせいで息が荒い。僕は呼吸を整え、大きな窓ガラス越しから店内をそっと覗いた。
店のテーブルには数組のお客が寛いでいて、まったりした雰囲気が流れていた。
カウンターには若い男性スタッフが立っており──そのすぐ横で女性店員が接客をしている姿があった。
彼女はオレンジのエプロンをまとい、髪を後ろでまとめ、笑顔でお客のオーダーを受けている。
外から見ても、彼女の愛想のよさが窺えた。
お客の目をまっすぐ見て対応する彼女の瞳は──深い海色。
「なんで。どうして普通に働いてるんだよ」
僕はしばらく、店の外で立ち尽くすしかなった。
──サヤカが、元気な姿で、まるで何事もなかったかのように働いていたのだから。
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