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第三章
22・コハルの態度
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「あんた……大丈夫なの!? ママから連絡あって、急に倒れたって聞いたよ!」
やけにコハルの声が頭に響く。
そんな大声出さないでくれ。まだ個室だからよかったものの、廊下にまで聞こえていそうだ。
「なんだよコハル。そんな慌てて」
「だって、あんた……!」
「もう平気だから」
「でも──」
大袈裟に騒ぐコハルに、僕は厭わしい気持ちになる。心配してくれるのは嬉しいんだけどさ。
コハルは目を見開き、今度は震えた声になった。
「ね、ねえ。ショウジ……」
「ん?」
「あんた、その目。どうしたの?」
「なにが?」
「色が……瞳の色が、変わってるよ!」
瞳の色?
「どんな風に?」
「紫じゃなくなってる! 薄くなってるよ。青色っぽくなってるの……!」
喚くコハルはスマートフォンを取り出し、僕の顔を撮影した。
なにをそんなに焦っているんだ。
コハルはさっと僕に写真を向けた。
すると──写真に映る僕の目は、たしかにいつもと違った。光の加減だとか、そういうもので変わってるとは言えない。明らかに、瞳の色が違う。
サファイアのような、清らかな青色なんだ。
「ホントだ。なんか、青くなってるな」
僕が平然としていると、コハルはベッドガードをがしっと掴んだ。見るからに、冷静じゃない。
「ねえ、ショウジ!」
「さっきからどうしたんだよ」
「おかしいと思わないの? あんた、目の色が変わったことなんていままでなかったでしょ!?」
「まあ、そうだな」
「気絶したこともないわよね!」
「うん。まあでも今回は、いつもより頭痛が強かったからじゃないか」
「だから! それがおかしいんだってっ!」
ホントになんなんだよ、今日のコハルは様子がおかしいぞ。
もう痛みは引いてるんだから、そんなに騒がなくてもいいだろ。
コハルは急に声量を落とす。
「ねえ、ショウジ。まだ、気になってるの?」
「なにが?」
「……サヤカちゃんのこと」
「は?」
なんでこのタイミングで彼女の名前が出てくるんだ?
「あたし……色々と聞いてみたよ。北小出身の友だちに。でも、誰もサヤカちゃんのこと……知らないの」
「……そうか」
「だから、もうやめましょ。彼女のこと、探るのは」
コハルは気まずそうに目を伏せた。
この言葉を聞いて、僕は目を見張った。
「なんだよ、いきなり。やめるって? 意味わかんねえよ」
思わず口調がキツくなってしまった。けれど、言い様のない怒りが込み上げてきた。
「サヤカは、僕を知ってるんだぞ。僕が話していない過去も知ってる。だから、本当に幼なじみのはずなんだ。どんな些細なことだって知りたいんだよ」
「あんたの気持ちはわかるよ。でもさ、もういいと思う。いまだってサヤカちゃんとは仲良くしてるんでしょ? だったら、高校生からの彼女を知っていけばいいじゃない。過去を振り返る必要なんてないでしょう?」
最初に相談したときはコハルは協力するって言ってくれたのに。このタイミングでいきなり諦めろってか? わけがわからない!
「もしかして、母さんになにか言われたのか」
そうとしか考えられなかった。
だが、コハルは首を横に振る。
「違う。ママとはなにも話してない」
「嘘つけ。母さんから言われたんだろ、サヤカのことを。母さんは彼女の件をなにかしら知ってるはずなんだ。けど、僕にはなにも教えてくれない。コハルは母さんに釘を刺されたんだろ?」
そうだ、そうに決まってる。
寝転がりながら叫び、息が上がってしまった。けれど、そんなのどうだっていい。
「違うんだってば。信じてよ、ショウジ……。あんたのためなの」
「なにが僕のためなんだ? 母さんがサヤカの件を話してくれない理由も教えてくれないし、コハルも母さんの味方なんだろ?」
「味方とか、そういう話じゃないの! ママもショウジを守るために必死なの……!」
コハルは涙目になって訴えてきた。
だったら教えてくれ。知ってることを全部、教えてくれよ!
しばらくの間コハルと言い合いをしていると、不意に病室のドアがノックされた。
「若宮さん? 失礼しますよ」
聞き覚えのある、男性の声がした。ゆっくりと扉が開かれる。
そこには──長い間僕を見守ってくれている主治医、白鳥先生が立っていたんだ。
やけにコハルの声が頭に響く。
そんな大声出さないでくれ。まだ個室だからよかったものの、廊下にまで聞こえていそうだ。
「なんだよコハル。そんな慌てて」
「だって、あんた……!」
「もう平気だから」
「でも──」
大袈裟に騒ぐコハルに、僕は厭わしい気持ちになる。心配してくれるのは嬉しいんだけどさ。
コハルは目を見開き、今度は震えた声になった。
「ね、ねえ。ショウジ……」
「ん?」
「あんた、その目。どうしたの?」
「なにが?」
「色が……瞳の色が、変わってるよ!」
瞳の色?
「どんな風に?」
「紫じゃなくなってる! 薄くなってるよ。青色っぽくなってるの……!」
喚くコハルはスマートフォンを取り出し、僕の顔を撮影した。
なにをそんなに焦っているんだ。
コハルはさっと僕に写真を向けた。
すると──写真に映る僕の目は、たしかにいつもと違った。光の加減だとか、そういうもので変わってるとは言えない。明らかに、瞳の色が違う。
サファイアのような、清らかな青色なんだ。
「ホントだ。なんか、青くなってるな」
僕が平然としていると、コハルはベッドガードをがしっと掴んだ。見るからに、冷静じゃない。
「ねえ、ショウジ!」
「さっきからどうしたんだよ」
「おかしいと思わないの? あんた、目の色が変わったことなんていままでなかったでしょ!?」
「まあ、そうだな」
「気絶したこともないわよね!」
「うん。まあでも今回は、いつもより頭痛が強かったからじゃないか」
「だから! それがおかしいんだってっ!」
ホントになんなんだよ、今日のコハルは様子がおかしいぞ。
もう痛みは引いてるんだから、そんなに騒がなくてもいいだろ。
コハルは急に声量を落とす。
「ねえ、ショウジ。まだ、気になってるの?」
「なにが?」
「……サヤカちゃんのこと」
「は?」
なんでこのタイミングで彼女の名前が出てくるんだ?
「あたし……色々と聞いてみたよ。北小出身の友だちに。でも、誰もサヤカちゃんのこと……知らないの」
「……そうか」
「だから、もうやめましょ。彼女のこと、探るのは」
コハルは気まずそうに目を伏せた。
この言葉を聞いて、僕は目を見張った。
「なんだよ、いきなり。やめるって? 意味わかんねえよ」
思わず口調がキツくなってしまった。けれど、言い様のない怒りが込み上げてきた。
「サヤカは、僕を知ってるんだぞ。僕が話していない過去も知ってる。だから、本当に幼なじみのはずなんだ。どんな些細なことだって知りたいんだよ」
「あんたの気持ちはわかるよ。でもさ、もういいと思う。いまだってサヤカちゃんとは仲良くしてるんでしょ? だったら、高校生からの彼女を知っていけばいいじゃない。過去を振り返る必要なんてないでしょう?」
最初に相談したときはコハルは協力するって言ってくれたのに。このタイミングでいきなり諦めろってか? わけがわからない!
「もしかして、母さんになにか言われたのか」
そうとしか考えられなかった。
だが、コハルは首を横に振る。
「違う。ママとはなにも話してない」
「嘘つけ。母さんから言われたんだろ、サヤカのことを。母さんは彼女の件をなにかしら知ってるはずなんだ。けど、僕にはなにも教えてくれない。コハルは母さんに釘を刺されたんだろ?」
そうだ、そうに決まってる。
寝転がりながら叫び、息が上がってしまった。けれど、そんなのどうだっていい。
「違うんだってば。信じてよ、ショウジ……。あんたのためなの」
「なにが僕のためなんだ? 母さんがサヤカの件を話してくれない理由も教えてくれないし、コハルも母さんの味方なんだろ?」
「味方とか、そういう話じゃないの! ママもショウジを守るために必死なの……!」
コハルは涙目になって訴えてきた。
だったら教えてくれ。知ってることを全部、教えてくれよ!
しばらくの間コハルと言い合いをしていると、不意に病室のドアがノックされた。
「若宮さん? 失礼しますよ」
聞き覚えのある、男性の声がした。ゆっくりと扉が開かれる。
そこには──長い間僕を見守ってくれている主治医、白鳥先生が立っていたんだ。
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