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第五章
紅く染まる通学路
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翌週の月曜日。
久しぶりに歩く通学路。涼しい空気の中、僕は母さんとリオと並んで学校へと向かう。
これまでは、ロフストランド杖をつきながら母さんに支えてもらっていた。でもこれからは、その必要はない。ただ、まだまだ力が足りなくて重いランドセルを背負うことはできず、母さんに持ってもらっている。
だけど僕はもう焦らない。
卒業までに、きっと自分でランドセルを背負えるようになる自信があるから。
もみじの葉っぱがひらひらと僕たちの目の前で舞い散る。とても鮮やかな景色で、見ているだけで気持ちがいい。
「ねえ、にいに」
リオはニコニコしながら、僕の顔を覗き込んだ。
「やっぱりいいね、こうして一緒に登校するの!」
「えっ?」
「にいにとママと三人で登校できて、すっごく嬉しい!」
そう言うと、リオは僕の二歩前に出て軽快にステップを踏み始めた。背には教科書とタブレットが入ったランドセル、片手に上履きや体操服と給食着が詰まったユニコーン柄の手提げ、それに肩からはピンク色の水筒を掛けている。見るからに超重たいこと間違いなしなのに、よくそんな飛び跳ねながら歩けるよな。そんなに嬉しいか?
と思いつつ、一人で勝手に喜ぶリオを眺めていると、僕まで顔が綻んだ。
母さんはクスッと笑いながらリオに言葉を向けるんだ。
「リオったら。お兄ちゃんと学校に行きたいってずーっと言ってたものね」
「そうだよ。にいにいないとつまんないもん! ねえ、今日から学童も行くよね?」
「ああ、行くよ」
「やったー。じゃあ人生ゲーム一緒にやろう!」
目を輝かせて、リオは更に歓喜の舞を踊る。
そんな様子を前にすると、僕はついからかいたくなった。
「お前なぁ、僕が卒業したらどうするつもりだ? 寂しくなって、またギャーギャー泣くんじゃないぞ?」
「あたし、もう泣かないもん。にいにが小学校にいる間にたくさん遊べば大丈夫!」
いつものように、甘えん坊リオが発動してる。僕はやれやれと肩をすくめた。
そんなこと言ってるけどほんとに大丈夫か?
僕がそんなことを思った、そのときだった。
「リオちゃんー!」
「おはよう!」
背後から、バタバタと走ってくる足音が聞こえてきた。振り向くと、二人の三年生の女子たちの姿があった。
リオの友だちだ。
「ミチちゃん! それにアキナちゃん! おはよう」
「おっはよー! あっ、リオちゃんのお兄ちゃん、退院したんだね!」
「しっかり歩けるようになってる! すごいカッコいいー!」
女子たちにキャッキャ言われ、顔がカッと熱くなる。
するとリオは、僕の隣に並んではっきりとした口調で答えるんだ。
「そうだよ! カッコよくて自慢のにいにだよ」
「あはは。リオちゃん、相変わらずお兄ちゃんが大好きだよね!」
「いいよね~。こんなに優しそうなお兄ちゃんがいて。リオちゃん、羨ましい~」
友だちから何を言われても謙遜しないリオに、僕は更に全身が熱くなった。
なんだよこれ、マジで恥ずかしいんですけど。
無意識に歩くのが遅くなる。
けれど、リオは構わずに「にいに自慢」を続行しながら友だちとの話に夢中になり、僕と母さんを置いてけぼりにしてどんどん前へ進んでいった。
母さんは僕の横で、ずっとクスクス笑ってるんだ。
ああ、もうやめてくれよ。
僕の顔は、きっと紅葉のような色に染まっていると思う。でも、胸の奥で僕は高揚していた。
「──リオなら、大丈夫そうね」
朗らかにそう話す母さんに向かって、僕はふっと微笑む。
「そうだな。あいつ、なんだかんだ友だち多いし」
「ええ。コウキも、ね?」
母さんの口調は穏やかだった。それに対して、僕は躊躇することなく頷いた。
二カ月以上も来ていなかった小学校。楽しみでもあるけれど、やっぱりなんだか緊張する。
校舎の見えるところまで行き着くと、胸のドキドキが強まった。建物自体は何も変わってないし雰囲気だってそのままだ。あちこちで「おはよう」の挨拶が飛び交って、元気に登校してくる児童が今日もたくさん。
僕の教室は三階にあるから、そこまで母さんと一緒に向かう。
校門をくぐり抜け、昇降口へ向かうと──五年一組の下駄箱の前でちょうど靴から上履きに履き替えているクラスメイトに会った。
関だ。
向こうもすぐ僕の存在に気づき、目と目がぶつかる。
今まではお互い無視するか、関がボソッと何か嫌味を言うだけだった。けれど──これからは、違う。
僕はふっと微笑みかけ、口を開いた。
「関、おはよう」
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