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第三章
手術当日
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朝の八時すぎ。
点滴を打たれ、ごはんも食べられず、僕は「そのとき」を病室内のベッドで待ち続けていた。
リョウは学校へ行ってしまったので、僕は広い病室で独りぼっちだ。
なんか、落ち着かないな。
携帯ゲーム機を起動させ、オンラインで遊びはじめる。大好きなマリィカート。リオとよく一緒に遊んでるレースゲームだ。
……リオ、元気かなぁ。
もう一週間も会ってない。オンラインで遊んではいるけど、直接あいつの顔を見て話したりできない。
鬱陶しいくらい毎日一緒にいたのに、こんなに離れてる時間が長いなんて人生で初めてだ。
あいつ、きっと寂しがってるんだろうな。仕方がないから、退院したらまた思う存分一緒に遊んでやろう。
なぜか、胸がギュッと締めつけられる。
「あっ」
ぼんやりしていると、レースが終わってしまった。いつの間にか、僕は最下位になってた。
くっそー。いつもならもっと上位でゴールできるのに。もう一回、やろうか。
……そう思っても、全然気乗りしない。
「はぁ」
無意識のうちに、大きなため息が漏れてしまった。そのときだ。
「コウキ」
病室に誰かがやってきた。僕はその声を聞いて、反射的に振り返る。
「母さん。それに、父さんも!」
いつもと変わらない笑顔で、母さんが立っていた。隣では、父さんが顔を強張らせているけど。
二人の顔を見て、僕の心が一気に緩んだ。
「あら、こんなときにもゲーム? ずいぶんとゆとりがあるのねぇ」
「だって暇なんだもん。リョウも学校に行っちゃったし、朝ごはんも食べられないし」
「今日は何も口にできないから辛いわよね……。退院したら、おいしいものたくさん食べましょうね」
母さんは慣れた手つきで僕の着替えを棚の中に入れていき、汚れ物をビニールにまとめていく。
その横で、父さんは眉を八の字にしながら僕をじーっと見つめてくるんだ。
ああ、またいつものが来そうだな。
「コウキ、大丈夫か? 辛くないか? 手術、怖くないか……?」
ほら、やっぱり。父さんの心配性がはじまった。僕の頬に手を添え、声を震わせる。
「お前はまだ十歳なのに、これから大きな手術をするんだ。父さんは不安で不安で昨晩は眠れなかったぞ……!」
たしかに今日の父さん、顔がげっそりしてる。目も充血してて、見るからに絶不調だ。
僕はこれでもか、というほど口角を上げて見せた。
「そんなに心配するなよ。ていうか、僕より父さんの方が不安になってどうするんだ? この前も話しただろ。僕を信じてほしいって。それに、手術をしてくれるのは井原先生だ。経験もたくさんあるって言ってたし、大丈夫だよ」
「コウキ……」
父さんは瞳を潤わせ、目を細めた。僕の頭をわしゃわしゃと激しく撫で回すんだ。
「お前、いつの間にか立派になったんだなぁ……! 父さんよりも強い! 偉い! 退院したら、楽しいところいっぱい行こうな」
「う、うん。分かったからやめてくれ」
髪がめちゃくちゃになってるのが感覚だけで分かる。まあ、いっか。どうせ今からしばらく寝転がってるだけだし。
苦笑しつつ、こんな父さんのリアクションがちょっと面白かった。
「そうだわ、コウキ。あなたに渡したいものがあるの」
荷物の整理を終えた母さんは、カバンから何かを取り出した。
可愛らしい花柄の封筒と、もう一つは茶色い猫が描かれた便せん。
──手紙?
点滴を打たれ、ごはんも食べられず、僕は「そのとき」を病室内のベッドで待ち続けていた。
リョウは学校へ行ってしまったので、僕は広い病室で独りぼっちだ。
なんか、落ち着かないな。
携帯ゲーム機を起動させ、オンラインで遊びはじめる。大好きなマリィカート。リオとよく一緒に遊んでるレースゲームだ。
……リオ、元気かなぁ。
もう一週間も会ってない。オンラインで遊んではいるけど、直接あいつの顔を見て話したりできない。
鬱陶しいくらい毎日一緒にいたのに、こんなに離れてる時間が長いなんて人生で初めてだ。
あいつ、きっと寂しがってるんだろうな。仕方がないから、退院したらまた思う存分一緒に遊んでやろう。
なぜか、胸がギュッと締めつけられる。
「あっ」
ぼんやりしていると、レースが終わってしまった。いつの間にか、僕は最下位になってた。
くっそー。いつもならもっと上位でゴールできるのに。もう一回、やろうか。
……そう思っても、全然気乗りしない。
「はぁ」
無意識のうちに、大きなため息が漏れてしまった。そのときだ。
「コウキ」
病室に誰かがやってきた。僕はその声を聞いて、反射的に振り返る。
「母さん。それに、父さんも!」
いつもと変わらない笑顔で、母さんが立っていた。隣では、父さんが顔を強張らせているけど。
二人の顔を見て、僕の心が一気に緩んだ。
「あら、こんなときにもゲーム? ずいぶんとゆとりがあるのねぇ」
「だって暇なんだもん。リョウも学校に行っちゃったし、朝ごはんも食べられないし」
「今日は何も口にできないから辛いわよね……。退院したら、おいしいものたくさん食べましょうね」
母さんは慣れた手つきで僕の着替えを棚の中に入れていき、汚れ物をビニールにまとめていく。
その横で、父さんは眉を八の字にしながら僕をじーっと見つめてくるんだ。
ああ、またいつものが来そうだな。
「コウキ、大丈夫か? 辛くないか? 手術、怖くないか……?」
ほら、やっぱり。父さんの心配性がはじまった。僕の頬に手を添え、声を震わせる。
「お前はまだ十歳なのに、これから大きな手術をするんだ。父さんは不安で不安で昨晩は眠れなかったぞ……!」
たしかに今日の父さん、顔がげっそりしてる。目も充血してて、見るからに絶不調だ。
僕はこれでもか、というほど口角を上げて見せた。
「そんなに心配するなよ。ていうか、僕より父さんの方が不安になってどうするんだ? この前も話しただろ。僕を信じてほしいって。それに、手術をしてくれるのは井原先生だ。経験もたくさんあるって言ってたし、大丈夫だよ」
「コウキ……」
父さんは瞳を潤わせ、目を細めた。僕の頭をわしゃわしゃと激しく撫で回すんだ。
「お前、いつの間にか立派になったんだなぁ……! 父さんよりも強い! 偉い! 退院したら、楽しいところいっぱい行こうな」
「う、うん。分かったからやめてくれ」
髪がめちゃくちゃになってるのが感覚だけで分かる。まあ、いっか。どうせ今からしばらく寝転がってるだけだし。
苦笑しつつ、こんな父さんのリアクションがちょっと面白かった。
「そうだわ、コウキ。あなたに渡したいものがあるの」
荷物の整理を終えた母さんは、カバンから何かを取り出した。
可愛らしい花柄の封筒と、もう一つは茶色い猫が描かれた便せん。
──手紙?
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