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第二章
辛い検査
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──と、思っていたんだけど。
「なんだ、これ! ムリ、ムリだ! 出してくれ!」
薄暗くて狭い機械の中に入れられ、耳元で爆音が鳴り響き、動くな、と脅される……。恐怖で漏れそうだ。
僕はたまらず喚き叫んで、横たわったままの状態で大暴れしてしまった。
すると、鳴り響いていた耳障りな音がやんだ。僕はゆっくりと機械から抜け出していく。
無機質な部屋のドアが開き、看護師さんが笑いながら僕を見下ろしてきた。
「コウキ君。動かないでって言ったでしょう? これで二回目よ」
「いや……ごめんなさい。でも、ムリなんです」
「五年生だからMRIも大丈夫だと思ったんだけど、難しそうね? 赤ちゃんの頃、受けたんでしょう?」
「だから、それは覚えてないって」
入院前になんか母さんに説明されたけど、全く記憶にない。
MRIは脳の腫瘍とか、何か異常がないか調べるために検査するものらしい。けど、機械の中がとにかく狭くて暗くて音もうるさくて、二〇分間以上もじっとしてるのはどうしても耐えられなかった。
「眠くなるお薬飲んで検査しよっか?」
「寝てる間に終わるなら、そっちの方がいい」
「分かった。それじゃあ、午後にもう一回やってみましょうね」
入院してから一日が経つ。もう朝から色々検査を受けさせられてすでに疲れた。
なんでも、SDR手術を受ける前に色々調べないといけないらしいんだ。身体に何も異常がなく、主治医の井原先生のオッケーが出たら手術を受けられるんだって。
朝六時に起こされ、寝ぼけたままの状態で血を抜かれた。いや、あんな注射針、ボトックスに比べたら痛くも痒くもなかったけどね(本音を言うとちょっとチクッとしたけど……)。
CT検査も受けた。あれも余裕だ。どうってことない。
明日以降にレントゲンや心電図も取るらしいけど、レントゲンは腰から下を療育センターで撮ったことがあるし、心電図は学校の健康診断でやってるから大丈夫だ。
でも、MRIだけは本当に苦手だな。狭い機械の中に閉じ込められるのも苦痛なのに、とにかく音がうるさすぎる。
手術前にこんな大変なことが待ってるなんて思いもしなかったなぁ……。
ユナからもらった猫とひとつ葉クローバーのお守りを握りしめ、病室に戻ってきた僕は一人うなだれる。
そんなとき、コンコンと部屋のドアがノックされた。
ハッとして顔を上げ、音の方を振り向く。
「おい、どうした。泣きそうな顔してるぞ」
看護師さんと一緒にリョウが部屋に戻ってきた。車椅子に座りながら、両手に大きなカバンを持っている。
「コウキ君、気分でも悪いの?」
心配そうに看護師さんに訊かれるが、僕は首を横に振った。
「いえ……ちょっと。検査で疲れただけです」
「手術前の検査ね。たくさんあって大変よね。もうすぐお昼ごはんだから、よく食べてゆっくり休んで」
看護師さんはそう言いながら、リョウがベッドに戻るのを手伝った後に病室から出ていった。
リョウはニヤニヤしながら僕を見るんだ。
「だいぶお疲れだなあ。マジで大丈夫かよ?」
心配の言葉とは裏腹に、その声はどこか弾んでる。
「正直、キツいよ。というか、なんでリョウはそんなに嬉しそうなんだよ……」
「別にそういうわけじゃねぇよ。入院してすぐの俺も同じだったなぁって。理想と現実のギャップってやつ? ちょっと入院して、ちゃちゃっと手術受けて、リハビリ頑張ればいいんだろって思ってたんだよ。でも、実際は違うよなー。入院してみないと分かんねぇこと、たくさんあるよな」
「そうだね。ほんと、その通り……」
入院生活って暇なイメージがあったから、二日目からこんな慌ただしいとは思わなかった。僕は思わず苦笑する。
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