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第二章

出会い

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 僕は全力で愛想笑いを浮かべてみせた。

「あの……何か用?」
「おいおい、同じ病室に来ておいてその言いかたはないだろ! 名前、教えてくれよ」
「丘島コウキだよ」
「コウキか! 格好いい名前だな。俺は佐々木リョウスケ。気軽にリョウって呼んでくれ」
「リョウ君っていうんだね」
「おい『君』付けはやめろ。呼び捨てでいい!」
「う、うん。リョウ、だね」

 あー。なんか僕とは真逆のタイプがきた。すごい明るいっていうか、陽キャというやつか? キラキラした笑顔が眩しすぎるし、初対面の僕に対してこんなにがっつける精神力に感心させられる。
 自分で言うのもあれだけど、僕はどちらかというと大人しい性格で、リョウみたいに初めて会った相手にガンガン話しかけることはしない。

 普段の僕なら適当にあしらって逃げるかもしれなかった。でもこれから長い入院生活を送るわけだし、話し相手はいた方がいいかも。
 そう思い、退院するまでは彼と仲良くしようと考えた。

「コウキはさ」

 と、僕が話しかける前に、リョウはどんどん話題を振ってくる。

「なんで入院したんだ? すぐ退院するのか?」
「いいや。来週、手術をするために入院したんだよ。すぐには退院できないな」
「マジか。どれくらいの期間ここにいるんだ?」
「短くても二カ月って言われたよ」
「おお、やっぱり……。手術って、まさかあれか。SDRか? 全身麻酔で眠らされて、背中開けられて電気流されて、神経をちょん切られるやつ」
「あ、ああ。そうだよ」

 いや、言いかた。言葉のチョイスがすごいな、この人。
 僕がぎこちなく頷くと、リョウは更に身を乗り出した。

「やっぱりそうか!」
「もしかして……君も同じ手術を受けたのか?」
「そうなんだよ。二週間前にな」
「へえ。奇遇だね」
「俺、生まれつき両脚に麻痺があるからさ。とくに左側が固すぎて、全然歩けないんだ。でも最近、二、三歩くらいなら歩けるようになってきた。踵は相変わらず浮きまくるけど、やっぱ術前に比べて自分の身体が劇的に変わったことがわかるんだよ」
「それは、すごい……!」

 彼の話を聞いているうちに、僕もワクワクした。
 
 同じ手術をして、同じ病室にいて、何よりも同じ麻痺の症状がある相手との出会いに、僕はなんだか胸が熱くなった。

「ところで、リョウはいくつなの?」
「この前十一になったばっかだ」
「ええ。なんかもう少し年上かと思った」
「よく言われる。話しかたとか見た目が中学生くらいに思えるってな。コウキは何歳なんだよ」
「僕は十歳。来年の三月で十一だよ」
「来年の三月で……? あっ。てことは今、小五か!」
「そうだよ」
「マジかよ、同級生じゃねぇか」

 うん、これはなんだかすごくいい出会いな気がしてきた。

 そもそもこの手術は、もっと小さい子たちに薦められていて、僕たちの年齢で受けるには遅いくらいだ。それなのに、同じ時期に同じ手術を受ける相手と出会えるなんて……これは感謝すべき巡り合わせじゃないか?

 思いがけない相手との出会いに、僕はすぐにリョウと打ち解けた。
 これからの入院生活も手術もリハビリも、彼のおかげでほんの少しだけ希望が持てたんだ。
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