【受賞】約束のクローバー ～僕が自ら歩く理由～

第二章

入院生活のはじまり

◆

　こども医療総合センター十階Ａ病棟。
　入院手続きを済ませた後、僕は病室へ案内された。
　父さんと母さんは面会時や入院期間中の注意事項なんかの説明を受けに行っていてまだ戻ってきていない。

　今、僕はナースステーションから一番離れた奥側の部屋にいる。
　ベッドの上に座りながら、周りを見回した。どうやら、ここは二人部屋のようだ。真っ正面にあるベッドには荷物が置かれているけれど、さっきからずっと不在。
　検査かリハビリにでも行っているのか？　どんな子が入院しているのだろう。ちょっと気になる。

　広い部屋にぽつんと取り残されてから一体どれくらいの時間が経ったのだろう。心が空っぽになりそうだ。

（暇だなぁ）

　時計を確認する。針は十一時四十五分を指していた。学校のみんなは四時間目の授業を受けている頃か。

　あまりにもやることがないので持参してきたゲーム機を起動して黙々とやり始める。
　こんな時間に遊べるなんて、なんて贅沢なんだ。しかも病室内で使えるフリーのインターネット回線まであるじゃないか。これならリオと気軽にオンラインで遊べるぞ。

　なんて考えながらゲームをしていたとき──病室内に誰かが入ってくるのが横目に映った。
　反射的にドアの方を振り向くと、そこには車椅子に乗った男の子がいた。看護師さんと一緒に目の前のベッドに止まるんだ。
　見た目からして僕よりもちょっとだけ年上かな。短髪で、つり目が特徴的な顔立ち。両腕ががっしりしていて逞しく見える。
　こっちの存在に気づくなり彼はニコッと微笑みかけてきた。

「おお！　新しい子じゃん！」

　いきなり言われ、僕はどぎまぎしてしまう。ゲームをしていた手が勝手に止まる。
　彼の手伝いをしていた看護師さんが口を開いた。

「ついさっき入院してきたのよ。よかったわね、リョウ君」

　看護師さんにリョウ君と呼ばれた彼は目を輝かせながら僕を見つめ続けるんだ。
　ベッドサイドのガードを一度外してから看護師さんは車椅子のブレーキを掛ける。

「戻っていいわよ」

　そう言われると彼は両手で手すりに掴まり、ゆっくりと立ち上がった。

　そのほんのわずかな時間、僕はたまたま目にした。
　──彼の左足の踵が浮いているのを。

　ベッドから背を向け、ゆっくりとしゃがむ。横を向きながら両脚をベッドの上に乗せてから横になった。
　彼が安全に寝転がったのを確認すると看護師さんはベッドサイドのガードを元の位置に戻す。

「もうすぐ昼食の時間だから、ちょっと待っててね。授業、お疲れさま」

　それから看護師さんは忙しなく部屋から出て行った。

　初めて会った知らない相手と病室で二人きり。人見知りの僕にとって、少し──いや、かなり気まずい状況だ。
　だけど相手にとってはそうでもないようで、ずっとニコニコしながらこっちを見てくるんだ。

「なぁ、君」
「あ……えっと、僕のこと？」
「他に誰もいないじゃん。えっ、まさかお化けでも見えてるのか！」
「いや、そうじゃないけど……」

　僕が唖然としながら答えると、なぜか彼は更に破顔して大喜びだ。