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第一章

僕の想い

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『異常な神経に電流を通すと、反応しないはずの方の脚が反応するんですよ。例えば本来は右脚に伝う神経に電気を流したとき、左脚が動いてしまいます。それらを切除していく手術になります』
『そ、そんな大掛かりなんですか……』
『時間は全体を通して六時間から七時間ほどですね。術後、骨はしっかりと縫合します。しばらくは体を捻ったりしてしまうと変形する恐れがありますので、コルセットを着けて上半身を固定させていただきます』
『先生!』

 もう我慢できないといった様子で、父さんは声を張り上げた。

『そんな大変な手術……うちの息子に堪えられますか? リスクはどれほどありますか? 今までの失敗や、手術をして逆に歩けなくなった例などはありますか? 最悪の事態も……』
『ちょっと。あなた、やめて! 失礼でしょう』

 困ったように母さんが止めに入るけど、父さんは不安で不安で仕方ないようだ。マジで涙目になってる。

『いえ、お父様のお気持ちは分かりますよ。では、リスクや今までSDRを受けた子たちの傾向をお伝えしますね』

 井原先生はパソコンで何かの資料を開き、それを見せてくれた。国内で手術を受けた子たちの例や、韓国での手術例、その後の傾向やどんなリスクがあって、どれくらいのパーセンテージなのかを先生は丁寧に説明する。

 ちょっと僕には難しすぎて半分くらい理解できなかった。
 でも母さんは話を聞いて安堵したような表情になるんだ。

『この手術を受けたことによって身体がよくなった子がとても多いみたいですね』

 母さんの言葉に先生は深く頷いた。
 だけど父さんはなかなか心配を拭えないようなんだ。

『しかしなぁ……。そもそも背中を切るってことは、傷痕が残ることになるんですよね?』
『それはどうしても避けられません』
『全身麻酔も心配だ。コウキはまだ十歳なのに大丈夫でしょうか』
『むしろ、もっと年齢の低い子たちに対してSDRは推奨されています。小学校に上がる前に受ける子もいますよ』
『えっ、そうなんですか……?』

 父さんは目を丸くした。
 その話には、僕も驚かされた。五歳以上も下の子たちが、こんな大変そうな手術を受けているなんて……。
 でも、逆に言えば僕にとっては自信に繋がる話でもあった。

『コウキ君はもう十歳です。できるだけ早く手術を受けてみることをお薦めしますよ』

 先生のその一言に、僕は大きく頷いた。

『先生。僕、やってみたいです』

 ──あのときの父さんの顔と言ったら。「おいおい、コウキ。お前、本気か? こんな大手術を受けるなんて! 父さんは心配でたまらないぞ!」と言わんばかりの眼差しで僕を見ていた。その場ではあえて何も反応しなかったけど。

 その後はトントン拍子で話が進んでいき、入院日と手術の日程も決まった。
 ここまできたら、決心は揺るがないよ。

「そんなに心配しなくても大丈夫だってば。父さんが手術を受けるわけじゃないだろ」
「そうだが……」

 いつまでも納得しない父さんに、僕は自分の想いをしっかり伝えようと試みる。

「なあ、父さん」
「なんだ?」
「いつも心配してくれてるのは分かるんだけどさ、僕はもう小五なんだよ。きっと怖くない。だから、信じてくれないかな?」
「……コウキ」
「どこまで脚がよくなるか、やってみないと分からない。だけどもし杖なしで歩けるようになったら、荷物を片手に持って散歩してみたい。歩行が安定したら、ランドセルを自分で背負って学校に行きたい。手伝いなしに自分で給食の配膳もできるようになるかもしれない。それに、いつか走れるようになったら友だちと駆けっこもしてみたいんだ。やりたいことはたくさんあるよ。全部叶えるのは難しいかもしれないけど、手術を受けなかったら今よりも身体がよくなることはないだろ? だから、僕、頑張るよ」

 思っていることを全部ぶつけてみた。

 すると父さんは目線を下に落とし、ふうと大きく息を吐く。
 何かを想うように、僕の頭をそっと撫でるんだ。

「まったく、コウキは本当に強い子だな。父さんなんかよりも立派だよ」

 父さんの大きな手は、あたたかかった。優しい目をして、頷いてくれた。
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