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第八章 それぞれの想い

129,心強い応援隊

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 ランチタイムになった。俺は、フレアと共にバーガーショップへ訪れた。
 俺がバーガーにかじりつく中、向かいに座るフレアは怪訝そうな顔をしてこちらを眺めてくる。

「で? ヘタレヒルス君は昨日、何をやらかしたのかしら」
「ヘタレってなんだよ。それに、俺が何かしたわけじゃない」
「えっ、どういうこと?」
「このことは、フレアだから話すけど──」

 俺は周りの目を気にしながら、小声でフレアに昨晩の話をした。

「レイが俺の頬に……キスをしてきたんだ」

 この一言を聞くとフレアは、顔を覆い隠し大袈裟に肩を震わせるんだ。

「うそ……! まさか、彼女からっ?」
「俺も驚いている」
「うわぁ。恥ずかしくなっちゃう!」

 フレアは口に手を当てながら顔を真っ赤にするんだ。
 そんなリアクションされるとこっちの方が恥ずかしくなる。未だに俺の頬には、レイの優しいぬくもりが残っているような感覚もあるのだから。

 一通り興奮したあと、フレアは真顔に戻り、再び口を開いた。

「レイは相当、あなたに惚れているわね」

 はっきりとフレアにそんなことを言われてしまっては、上手く否定出来ない。嬉しいような、恥ずかしいような、変な感じがして仕方がなかった。

「昨日二人で出掛けた時も俺の腕を組んでくるし、ショップ店員が俺のことをボーイフレンドと勘違いしてもレイは否定しなかった。……最近、レイの言動がおかしいんだ」
「待って。何がおかしいの?」
「いや、おかしいだろ」
「まったく、これだから鈍感なイケメンはだめだわ! 誰がどう考えても、レイの言動は恋する乙女がすることでしょう」
「……それは」

 俺だって分かっている。最近のレイの態度には、何か特別な意味があることくらい。

 レイが「大好き」と俺に言ってくれるのも、もはや妹としてではない。いくら「大好きなお兄ちゃん」と俺が頭の中で変換しても、そう捉えるにはどうしても無理がある。レイは一人の女性として、素直な気持ちを俺に投げかけているだけだ。そうでなければ、彼女の言動にどうしても説明がつかないんだ。

 俺がぼんやりとそんなことを考えていると、フレアは小さく溜め息を吐いた。

「もう、迷うことないんじゃない? あなたも自分の気持ちに気づいたんだし、レイだって明らかにあなたに特別な想いがあるみたいだしね」

 そう言ってから、フレアはフレンチフライを美味しそうに食べ始める。

 ──俺たちが義理の兄妹という関係ではなければ、もっと単純な話だったはずなのに。

 食事が冷めていく。小さな一口でバーガーを頬張り、俺はゆっくりと首を横に振った。

「俺は義理でもレイの兄だ。それはこの先も変わらない。だから、どうすればいいのか分からないんだ」
「どうすればいいか分からないって? レイのそばにいて、大事にしてあげればいいでしょう」
「それはそうなんだけど。兄妹なのに恋人のようなことをしていたら、変じゃないかな」
「血が繋がっていないんだから、変じゃないわよ」

 口周りをさっと拭くと、フレアは片手を頬に乗せて眼力を強調しながら続けるんだ。

「ヒルスって、あの子のことになると臆病になるわよね」
「……え?」
「普段のあなたはどちらかと言うとポジティブで、あまり物事を深く考えないでしょう? ダンスをしている時なんてとくにそうよ。考えるより、身体を動かして勢いで踊ってるじゃないの」
「当然だろ。ダンスは何か考えてするもんじゃない」

 俺がそう言うと、フレアはくすりと笑った。

「だったら、レイとの恋も勢いでどうにかしなさいよ」
「いや、それとこれとは話は別だ。俺とレイの関係は簡単なものじゃない」

 こっちは真面目に話しているというのに、フレアはなぜかニヤニヤしているんだ。

「カッコつけてるわねぇ、ヒルス君。でもね、ここまで来ちゃったら、気持ちを先に伝えるのもありなんじゃない? あなたは、レイが十八歳になるまで事実を話さないことにこだわっているみたいだけど」
「それはそうだ。生前、両親が決めていたことだからな」
「分かるわよ、あなたがご両親を想う気持ちも。だけど、今のレイの想いもきちんと考えてあげてね」

 フレアにそう言われると、俺は何も言い返せなくなる。

 戸惑っているんだ。今更想いを伝えたところで何になる? 兄妹なんだから、恋人という関係になるのは違う気がする。家族であるのには間違いないが、これからレイとどういう関係を築いていけばいいのか余計に分からなくなっていく。

 知らずのうちに俺が眉間に皺を寄せていると、フレアはふっと鼻で笑うんだ。

「ほらまた。考えすぎてわけ分からなくなってるわね」
「……まあな。フレアの言う通り俺はレイのことになると、臆病者になるみたいだ」

 自分でも格好悪いと思うが、認めざるを得ない。
 それでもフレアは俺をからかうことはしなかった。

「あなたたちが身に着けてるそのネックレスだって、特別な意味があるんでしょ。何も不安になることなんてないんじゃない?」

 何となく恥ずかしくて俺もレイも、金色の十字架を服の中に入れていたのだが。チェーンの部分をフレアに指差され、俺は赤面した。

「フレアは鋭いな……」
「わたしはレイの応援隊だから。ヒルスには頑張ってほしいだけよ」なんて、フレアは目を細めて言うんだ。

 熱くなる胸の上で、レイとの心を繋げてくれるネックレスだけはひんやりしていて、何となく俺の気持ちを落ち着かせてくれた。
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