120 / 205
第七章 彼女を想うヒルスの物語
120,兄だから
しおりを挟む
「なるほどな、十二月十八日に食べたいんだろ?」
「そう。よく分かったね!」
嬉しそうに頷くレイに、俺は優しく微笑みかける。
「当たり前だろ。レイにとって特別な日は、俺にとっても大切な一日だ」
来月の十八日は、レイが十七歳になる特別な日。俺が忘れるわけがない。
にこにこしながらも頬を赤らめるレイ。
照れているのか?
たまらず俺は、彼女の頭をそっと撫でる。
「プレゼントは何がほしい?」
「ケーキだけでいいよ。ヒルスと一緒に過ごせればそれでいいし」
また、レイの一言に俺の心が飛び跳ねる。
「え、俺と?」
「うん。……変かな?」
レイははにかみながら確かめるように俺に訊いてくるんだ。
変じゃない。むしろ俺は嬉しい。
『いつも言ってるよ。ヒルスは私の大好きな人だよ』
彼女から貰ったあの言葉が、俺の頭の中を通過していく。それは別の意味があるんだと、俺はそう理解した。
「大好きな人」と言うのは「大好きなお兄ちゃん」そういう裏の言葉があるはずなんだ。
年頃の娘が大好きな兄と誕生日を二人で過ごす──ありなのか?
分からない。全然、分からないんだ。
「今年、レイの誕生日はスタジオも休みだな。どこかへ出掛けるのか」
「観たい映画があるの」
「……誰と観に行くんだ?」
「えっ。ヒルスと行くんでしょう?」
彼女は首を捻り、当然のようにそう言い放った。
十七歳になる女の子が兄と二人で映画を観に行き、夜は『シャルル』のケーキを食べて誕生日を祝う。
これは兄がすべきことなのか。完全にボーイフレンドの役割ではないのか?
考えすぎて、俺の頭は今にもパンクしそうだ。無意識のうちに眉間に皺を寄せてしまう。
「ヒルス?」
不安そうな表情で俺の顔を覗き込むレイが視界に入り、ハッとした。
「どうしたの。何か怒ってる……?」
「いや、違う。怒っているわけじゃないよ。少し考え事をしていただけだ」
それでもレイの表情は浮かない。
俺は再び彼女に微笑みかけた。
「せっかくの誕生日なのに、俺なんかと二人で過ごすなんてもったいないだろ?」
「どうしてそんな風に思うの?」
「友だちだったり、誰か好きな人と過ごしたいものじゃないのか」
レイの表情に心配の文字は消え去った。だけど今度は、不思議そうな顔になるんだ。
「ヒルスの言う通りだよ。特別な日を大好きな人と過ごしたいのは当然でしょ」
「……ん?」
「だから、来月は楽しみにしてるね!」
レイは満面の笑みを浮かべ、たしかにはっきりとそう言った。
たちまち俺の胸の奥が赤く染められる。高まる鼓動が彼女のところまで伝わってしまいそうになった。
──なあ、レイ。君は気づいていないかもしれないけど、近頃の俺は、レイ何気ない言葉に翻弄されているんだよ。
どうして兄に対して、ドキドキさせるような台詞を投げかけてくるんだ。どうしていつもそんな可愛い顔をして、「大好き」だと言ってくれるんだ。
もちろんレイのひとつひとつの言動は、俺に幸福をくれる。歓喜して、君に向かって「愛してる」と叫びたくなるほどなんだ。
だけど、そんなことはできないから。レイにとって、俺は血の繋がった兄として関係を続けなければならないから。
俺の想いを伝えてしまったら、全てが終わる。もしかすると、この幸せな時間が崩れてしまうかもしれない。
だけど──レイが心の奥底で何かを想っていることは、俺だって分かっているんだ。
必ずその時が来たら、想いを伝えるから。だからあと少し、待っていてほしい。
「そう。よく分かったね!」
嬉しそうに頷くレイに、俺は優しく微笑みかける。
「当たり前だろ。レイにとって特別な日は、俺にとっても大切な一日だ」
来月の十八日は、レイが十七歳になる特別な日。俺が忘れるわけがない。
にこにこしながらも頬を赤らめるレイ。
照れているのか?
たまらず俺は、彼女の頭をそっと撫でる。
「プレゼントは何がほしい?」
「ケーキだけでいいよ。ヒルスと一緒に過ごせればそれでいいし」
また、レイの一言に俺の心が飛び跳ねる。
「え、俺と?」
「うん。……変かな?」
レイははにかみながら確かめるように俺に訊いてくるんだ。
変じゃない。むしろ俺は嬉しい。
『いつも言ってるよ。ヒルスは私の大好きな人だよ』
彼女から貰ったあの言葉が、俺の頭の中を通過していく。それは別の意味があるんだと、俺はそう理解した。
「大好きな人」と言うのは「大好きなお兄ちゃん」そういう裏の言葉があるはずなんだ。
年頃の娘が大好きな兄と誕生日を二人で過ごす──ありなのか?
分からない。全然、分からないんだ。
「今年、レイの誕生日はスタジオも休みだな。どこかへ出掛けるのか」
「観たい映画があるの」
「……誰と観に行くんだ?」
「えっ。ヒルスと行くんでしょう?」
彼女は首を捻り、当然のようにそう言い放った。
十七歳になる女の子が兄と二人で映画を観に行き、夜は『シャルル』のケーキを食べて誕生日を祝う。
これは兄がすべきことなのか。完全にボーイフレンドの役割ではないのか?
考えすぎて、俺の頭は今にもパンクしそうだ。無意識のうちに眉間に皺を寄せてしまう。
「ヒルス?」
不安そうな表情で俺の顔を覗き込むレイが視界に入り、ハッとした。
「どうしたの。何か怒ってる……?」
「いや、違う。怒っているわけじゃないよ。少し考え事をしていただけだ」
それでもレイの表情は浮かない。
俺は再び彼女に微笑みかけた。
「せっかくの誕生日なのに、俺なんかと二人で過ごすなんてもったいないだろ?」
「どうしてそんな風に思うの?」
「友だちだったり、誰か好きな人と過ごしたいものじゃないのか」
レイの表情に心配の文字は消え去った。だけど今度は、不思議そうな顔になるんだ。
「ヒルスの言う通りだよ。特別な日を大好きな人と過ごしたいのは当然でしょ」
「……ん?」
「だから、来月は楽しみにしてるね!」
レイは満面の笑みを浮かべ、たしかにはっきりとそう言った。
たちまち俺の胸の奥が赤く染められる。高まる鼓動が彼女のところまで伝わってしまいそうになった。
──なあ、レイ。君は気づいていないかもしれないけど、近頃の俺は、レイ何気ない言葉に翻弄されているんだよ。
どうして兄に対して、ドキドキさせるような台詞を投げかけてくるんだ。どうしていつもそんな可愛い顔をして、「大好き」だと言ってくれるんだ。
もちろんレイのひとつひとつの言動は、俺に幸福をくれる。歓喜して、君に向かって「愛してる」と叫びたくなるほどなんだ。
だけど、そんなことはできないから。レイにとって、俺は血の繋がった兄として関係を続けなければならないから。
俺の想いを伝えてしまったら、全てが終わる。もしかすると、この幸せな時間が崩れてしまうかもしれない。
だけど──レイが心の奥底で何かを想っていることは、俺だって分かっているんだ。
必ずその時が来たら、想いを伝えるから。だからあと少し、待っていてほしい。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
【完結】炎の戦史 ~氷の少女と失われた記憶~
朱村びすりん
ファンタジー
~あらすじ~
炎の力を使える青年、リ・リュウキは記憶を失っていた。
見知らぬ山を歩いていると、人ひとり分ほどの大きな氷を発見する。その中には──なんと少女が悲しそうな顔をして凍りついていたのだ。
美しい少女に、リュウキは心を奪われそうになる。
炎の力をリュウキが放出し、氷の封印が解かれると、驚くことに彼女はまだ生きていた。
謎の少女は、どういうわけか、ハクという化け物の白虎と共生していた。
なぜ氷になっていたのかリュウキが問うと、彼女も記憶がなく分からないのだという。しかし名は覚えていて、彼女はソン・ヤエと名乗った。そして唯一、闇の記憶だけは残っており、彼女は好きでもない男に毎夜乱暴されたことによって負った心の傷が刻まれているのだという。
記憶の一部が失われている共通点があるとして、リュウキはヤエたちと共に過去を取り戻すため行動を共にしようと申し出る。
最初は戸惑っていたようだが、ヤエは渋々承諾。それから一行は山を下るために歩き始めた。
だがこの時である。突然、ハクの姿がなくなってしまったのだ。大切な友の姿が見当たらず、ヤエが取り乱していると──二人の前に謎の男が現れた。
男はどういうわけか何かの事情を知っているようで、二人にこう言い残す。
「ハクに会いたいのならば、満月の夜までに西国最西端にある『シュキ城』へ向かえ」
「記憶を取り戻すためには、意識の奥底に現れる『幻想世界』で真実を見つけ出せ」
男の言葉に半信半疑だったリュウキとヤエだが、二人にはなんの手がかりもない。
言われたとおり、シュキ城を目指すことにした。
しかし西の最西端は、化け物を生み出すとされる『幻草』が大量に栽培される土地でもあった……。
化け物や山賊が各地を荒らし、北・東・西の三ヶ国が争っている乱世の時代。
この世に平和は訪れるのだろうか。
二人は過去の記憶を取り戻すことができるのだろうか。
特異能力を持つ彼らの戦いと愛情の物語を描いた、古代中国風ファンタジー。
★2023年1月5日エブリスタ様の「東洋風ファンタジー」特集に掲載されました。ありがとうございます(人´∀`)♪
☆special thanks☆
表紙イラスト・ベアしゅう様
77話挿絵・テン様
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在
一緒にいるのに 言えない言葉
すれ違い、通り過ぎる二人の想いは
いつか重なるのだろうか…
心に秘めた想いを
いつか伝えてもいいのだろうか…
遠回りする幼馴染二人の恋の行方は?
幼い頃からいつも一緒にいた
幼馴染の朱里と瑛。
瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、
朱里を遠ざけようとする。
そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて…
・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・
栗田 朱里(21歳)… 大学生
桐生 瑛(21歳)… 大学生
桐生ホールディングス 御曹司
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

溺婚
明日葉
恋愛
香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。
以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。
イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。
「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。
何がどうしてこうなった?
平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる