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第六章 魔法のダンス
108,フレアとの関係
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「なんだかあなたとレイ、今日はフワフワしてるわね」
「どういう、意味だ?」
「とぼけちゃって。昨日何か進展あったの?」
にやにやしながらフレアは小声でそんなことを訊いてくる。俺はヒヤッとして、思わず周りを見回した。
練習場に俺とフレア以外誰もいないことをよく確認してから、極力声量を落とす。
「まあ。色々あったよ」
「へぇ、何? 帰りにデートはしてきたんでしょうね」
「いや、テムズ川沿いを歩いて観覧車に乗っただけだ」
「はあ? ロンドン・アイのことでしょ。夜景見たのよね? デート以外の何物でもないわよ!」
食い気味に話をするフレアを前に、妙な汗がじんわり溢れ出てくる。
「デートと言われても。レイと俺は義理でも兄妹だぞ。ただ……」
俺は一度頭の中にレイの顔を思い浮かべる。彼女のことを少しでも考えると俺の胸の奥が赤くなってしまう。
「たしかに、みんなの言うとおりだったよ」
「えっ?」
「フレアもいつか俺に言ってくれたよな。自分の本当の気持ちに素直になれって。昨日の件で、やっと気付けたんだ」
「……彼女に対する想いを?」
「ああ」
話をしていて途中から急に恥ずかしくなる。そんな俺に、フレアは妙に真剣な眼差しを向けてくるんだ。
「レイに恋してるって認めたのね」
「いや、とっくに恋は終わってる。どうやら俺はレイのことを愛しているみたいだ」
こんな台詞を俺が誰かにはっきりと打ち明ける日が来るなんて、思いもしなかった。自分の本当の気持ちを口にしただけだが、俺の顔は燃えるほど熱くなっているのが分かる。
いつものフレアならこんな俺のことを、冷やかしてくるだろう。だけど今日は全く違ったんだ。
「そっか。ヒルスはやっと本心に気付いたのね」
「……ああ」
「そのうち自分の気持ちを伝えるの?」
「今はできないけどな。でも、レイには待っていてくれと話したよ」
「凄いっ。なにそのドラマチックな展開!」
フレアは両手のひらを頬に当て、興奮したように言うんだ。
「本当に心からヒルスはレイを大事に思っているのね。普通なら今すぐ告白しちゃうところを、きっちり彼女が大人になるまで我慢するつもりなんでしょ?」
「我慢と言うか。事実を話すまでは、あくまで俺はレイの兄だからな。それまではこの気持ちを言うわけにもいかないし、レイを困らせたくないんだ」
格好つけてそんな話をするが、昨晩レイが寝ている隙に欲求に負けてあんなことをしたくせに。痛い男だなと自分でもつくづく思う。もちろんこの件だけは、フレアにも他の誰にも話せるわけがない。
俺が自分に対してため息を吐いていると、フレアは小さな声でぽつりと言うんだ。
「それじゃあ、これでわたしの恋は本当に終わったわけね」
「……えっ」
「ごめんね、またこんなこと言い始めて。ちゃんとわたしなりにあなたたちを応援していたのは嘘じゃないのよ。だけど、心の中ではヒルスがいつかわたしに振り向いてくれる日が来ないかな、なんて思っていたの」
「……フレア」
目線を下にして、切ない表情を浮かべるフレアに俺はどう返事をしていいか分からない。
「あなたは気付いてなかったかもしれないけど、わたし結構ヤキモチ妬いたりしてたのよ」
「そ、そうなのか?」
「でもね、やっぱりあの子には敵わないわ。可愛いだけじゃないもの。今回初めてレイにダンスを教えたけど。どんなに細かいことを指摘しても、少し厳し目に指導しても真面目に聞き入れてくれた。すごくよく頑張っていたわ。礼儀正しくていい子で――とにかく、女のわたしから見ても彼女に惚れそうになるほどよ」
優しい笑みを浮かべるフレアの話を聞き、俺はなんだか自分が褒められているかのような錯覚になる。レイの良いところを的確に言ってくれているのが嬉しかったんだ。
「だからレイが幸せでいられるように、わたしも見守っていくから。あの子の応援隊としてね」
フレアのはっきりとしたその言葉に、俺の心があたたかくなる。なんて人情深い人なんだろう。
「ヒルス。レイを泣かせるような真似したら、わたしが許さないから 」
「ああ……ありがとう、フレア」
「どうしてお礼なんて言うのよ」
「こんなにもいい仲間がいてくれるんだから俺もレイも幸せだよ」
俺の言葉に、フレアは目を細めていた。
本当に感謝しかない。レイを見守ってくれる人がそばにいてくれると俺だって心強いんだ。
「それに、昨日の大舞台にレイが立てたのはフレアのおかげでもあるから。ジェイク叔父さんから話は聞いたよ。本当に、どう礼をすればいいか」
真面目に俺が話しているところを、フレアは急に不敵な笑みになるんだ。
「今日このあと時間ある?」
「うん、あるけど」
「だったら飲みに行くわよ。この前の約束。あなたの奢りでね」
「……そうだったな」
大勢での飲み会は大歓迎だが、俺は一瞬自分の財布の中身を心配した。思わず苦笑すると、フレアは口に手を当てて笑うんだ。
「あはは、ヒルス。もしかして本気にしてた?」
「えっ」
「別にあなたの奢りじゃなくていいわよ。レイが一位入賞したお祝いと、あなたが完全復帰できた記念でもあるからね」
フレアにそんなことを言われ、俺の表情が自然に緩んでいくのが分かった。そういうことなら気兼ねなく参加できる。
「さっきのアクロバット技、すごく綺麗に決まってたわ。さすが、Bボーイって感じよね」
「ああ……でも復帰するのがこんなに遅くなって悪かったよ」
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