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第六章 魔法のダンス
104,あなたのおかげ
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その日、更に素敵なことが待っていた。
レイがこの大会で表彰されたんだ。ナンバーワンヒップホップダンサーとして、彼女が人生で初めて一位入賞を果たした。
俺はこの結果を聞き、会場にいる誰よりも大声で歓喜した。彼女のファンたちは一斉に立ち上がり雄叫びのような歓声を上げ、誰も彼もがテンションぶち上げで盛り上がっていた。だが、どの野郎たちにも所詮俺の喜びには敵いはしない!
(レイ、本当に凄いぞ。帰ったらたくさん褒めてやらないとな……)
ステージで表彰されるレイはとても驚いた顔をし、それでいて眩しい笑顔を浮かべた。
俺はステージから離れた場所で見守っていたのだが、彼女の目線がふとこちらに向けられる。にこりと微笑みながら、レイは心の声で話しかけてきたんだ。
(ヒルス。ありがとう)
そう伝えようとしているのが分かる。俺は心の声を彼女に捧げた。
(ありがとうを言わなきゃならないのは俺の方だよ)
レイはステージから立ち去る前に、じっとこちらを見つめて二度頷いた。
──見ている人に勇気を与えてくれる、光のような魔法のダンス。本当に君は、唯一無二の最高のダンサーだよ。
◆
大会後の熱が冷めないうちに、俺とレイは二人きりで帰路についた。車内にはついさっきレイが踊ったモラレスの曲が流れている。
それにしても、みんな分かりやすいよな……。
車を運転しながら、先程のやり取りを思い出した。
──彼女が表彰された後、俺は叔父と一緒にレイの控室へ立ち寄ったんだ。
そこにはジャスティン先生とフレアもいて、二人は今までにないほどテンションを爆発させていた。
「本当にレイは最高よ! こんなに大きな大会でナンバーワンになるなんて!」
「今まで頑張った甲斐があったね。おめでとう!」
先生もフレアもレイに抱きついたり頭を撫で回したり、とにかく興奮が収まらない様子だった。
そんな二人の称賛に戸惑ったような顔をしながらも、彼女は嫌がる素振りを一切見せない。
「先生たちが毎日熱い指導をしてくれたおかげでもあるんじゃないですか」
叔父が嬉しそうに二人に声をかけると──なぜかその後三人は意気投合してしまい、話し込んでいた。
挙句の果てに叔父は、
「オレは先生たちとこの後飲みに行くから、お前とレイは先に帰れよ」
そんなことを言い始めるんだ。
「えっ、なんでだよ?」
「今日レイは疲れただろうし、お前も酒に弱いだろう」
「俺たちだけ仲間外れにするつもりか」
不貞腐れて俺がそう言うと、叔父の横でフレアがさり気なくウインクをしてくる。
「そうじゃないわよ。今日あなたはレイと二人で家に帰るのよ」
「……はあ?」
「今日はよく頑張ってくれたからね! 早めに帰って休ませてあげるべきさ。よろしく頼むよ、ヒルス。また今度みんなでパーティーをしようじゃないか!」
前歯を光らせながら、ジャスティン先生までそんなことを口にする。
その時点で察した。みんなは俺とレイを二人きりにさせようと要らぬ気を遣っているんだ。
──そのことを思い出し、俺は大きく息を吐いた。
「まったく、家に帰ればいくらでも二人の時間はあるんだぞ……」
心の中は少しばかりどんよりしていたが、夜の明かりに照らされる都会街の美しい風景が癒やしをくれる。
(ヒルス、どうかした?)
レイが首を傾げているのが横目に映った。
自分が大きな一人言を漏らしていることに気づき、ハッとする。
「いや……。俺たちだけ先に帰らせて、ジェイク叔父さんたちは飲みに行くなんてズルいよなって」
その言葉に、レイはくすりと笑った。
赤信号で車を停めた折、俺はふとレイの顔を見た。すると彼女も、当たり前のように優しい眼差しで見つめ返してくれるんだ。
街の明かりに照らされる彼女の綺麗な瞳に、吸い込まれてしまいそうになる。
「……っ」
俺が見惚れていると、レイは小さく何か言葉を発しようとしていた。彼女の目線は俺の後方に向けられていて、嬉しそうに遠くを眺めるんだ。
気になって振り返ってみると──道路の反対側には大きな観覧車が佇んでいた。テムズ川に面し、ブライトブルーに輝く巨大観覧車は存在感が物凄い。
「もしかして、乗りたいのか?」
俺の問いに、彼女は嬉しそうに首を縦に振った。
今日は大会で本当に頑張っていたからな。ご褒美に、そして──感謝の意も込めて連れていこう。
近くに車を停め、俺とレイは二人並んでテムズ川沿いをゆっくりと歩み始める。目と鼻の先に光り輝く観覧車があるように見えるのに、なかなか辿り着けないのが不思議だ。夜の街を照らすイルミネーションが息を呑むほど美しく、周りには幸せそうなカップルがあちこちにいる。
夜景に心を奪われていると、彼女の柔らかい手が微かに俺の指先に触れた。どちらから誘うわけでもなく、俺とレイの手は互いのぬくもりを確かめるように絡み合う。彼女の温度が伝わってくると、心の中があっという間に癒やされた。
この手を放したくない。今よりも、もっともっと近くにいたい。俺は無意識のうちに彼女の指先をギュッと強く握った。
本当は周囲の目を気にしなければいけないのに。今の俺は、そんなことに注意を払っている余裕なんてない。
「レイ」
俺が呼びかけると、彼女は愛々しい瞳でこちらを見上げた。
「今日は凄かったよ。ますますレイのダンスが魅力的になった……。本当に、おめでとう」
俺が感極まって称えると、レイは急に歩みを止めた。俺もつられて立ち止まり、彼女の方を振り向く。
「どうした?」
レイの瞳をじっと見つめる。溶けるような眼差しは、揺らぐことはない。
そして彼女は、口をゆっくりと動かしたんだ──
「……ヒルスの、おかげ、だよ」
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