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第六章 魔法のダンス
100,ドライブ
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──ため息まじりでダンススタジオを出ると、車のクラクション音が俺の耳元まで小さく鳴り響いた。音の方を振り向くと、俺のシルバーの車が道路脇で待ち構えていた。
ああ、そうだ。叔父が迎えに来てくれたのか。
運転席の窓から顔を出し、叔父は手を振ってきた。
「ヒルス、お疲れ」
「ジェイク叔父さん。本当に出掛けるのか」
「ああ。お前が元気の出る場所へ連れて行ってやる」
にこやかに話す叔父を見て、俺は首を捻る。
元気が出る場所だって? ジェイク叔父さんにそれがどこか分かるのか。俺自身、どうすれば自分の活力を取り戻せるのか知らないというのに。
しかし、今帰ったとしても更に気持ちが落ち込むのは目に見えている。俺は大人しく、気晴らしにドライブに連れて行ってもらうことにした。
俺が助手席に乗り込むと、叔父はすぐに車を走らせる。
「叔父さん、どこ行くんだよ?」
「だから、お前が元気になるところだって」
「見当もつかないよ」
「ま、着いてからのお楽しみだな」
──この前、俺は実家の跡地で酷いことを言ってしまった。それなのにあれ以来一切その話題に触れてこない。いつも優しい叔父を怒らせてしまうほど、俺は荒れていたのに。
鼻歌を口ずさみながら運転する叔父を横目に、急に申し訳ない気持ちになった。
「なあジェイク叔父さん」
「ん?」
「色々、悪かったよ」
目の前の信号が赤になり車を停めると、叔父は不思議そうな顔でこちらを見た。
「色々と手伝ってもらっているのに、俺は殆ど何もしていない。実家の跡地ではあんな酷いことを言って叔父さんを怒らせた。最低な甥でごめんな」
「ああ? 別に気にしてないけど」
信号が青になると、再び車はゆっくりと走り始める。叔父の運転は、いつも心地よくて安心するんだ。
「オレも大人げなかったな。もう少しお前の気持ちも察してやるべきだった」
その柔らかい口調は、幼い頃叔父に甘えたときと同じもので、懐かしい気持ちにさせてくれた。
「姉さんが生きていた頃、時々連絡を取り合っていたんだけどな。よくお前とレイの話をしていたよ。ダンス大会でヒルスが何位になったとか、今日のイベントでレイが本当にいい踊りをした、とか。家族で旅行に行った自慢話もされたな」
「そうなのか……」
母が嬉しそうに話す姿が容易に想像でき、俺は自然と笑みが溢れる。
「でも姉さんが一番嬉しそうに話してくれたのは、お前とレイが仲良くガーデンでダンスをしていたことなんだよ」
「えっ」
「ヒルスは最初、レイとあまり仲が良くなかったよな? それが、レイがダンスを始めてから少しずつ打ち解けて、いつしか二人でダンス練習をしているのが当たり前になって。その話をすると、姉さんはいつも嬉しそうな声をしていたんだ」
頭の中で、過去の映像が瞬時に蘇った。
たくさんの花たちが咲き誇るあのガーデンで、レイと俺はいつも汗を流しながら息が切れるまで踊り続けた。母は窓の向こうで目を細めながら、その様子を見守っていたな。
思い出すと、たちまち胸が締めつけられる。
「もう姉さんたちの……お前たち家族が過ごした家がなくなってしまったのは事実だ。だからこそ、あの場所で過ごした日々をお前には忘れてほしくなかったんだよ」
俺たちが乗る車はいつの間にか高速の中を走っていた。遠出でもするつもりなのだろうか。
ノンストップで過ぎ去っていく窓の外の景色を、ぼんやりと眺める。
「やっぱり、歳を取っても叔父さんは優しいままだな。俺、もう投げやりなことは言わないよ。あの日ほざいたことは本心でも何でもなかった」
そう言って俺が叔父の方を見ると、なぜだかその顔に笑みが消えている。いや、むしろ少し怒っているような雰囲気が醸し出されていた。
「ヒルス」
叔父の声が急に低くなる。威圧的なオーラを漂わせながらこんなことを言い始めるんだ。
「お前、オレを年寄り扱いしたか」
「えっ?」
「『歳をとっても優しい叔父さん』と言いやがったな? オレはまだまだ若いんだ!」
「いや、そういうつもりじゃなくて。最後に会ったのが十年も前だから……」
「この野郎、今運転中じゃなかったらお前のほっぺたつねってるところだったぞ!」
「はあ……はいはい。すみません。今の言葉は撤回するよ」
笑顔は戻らなかったが、珍しく叔父が半分冗談を言っているのだと気づいた。
叔父の言うとおりだ。あの場所には全てが消え去ってしまったが、家族との思い出がなくなることはない。まだ気持ちの整理はつかないが、更地になってしまった我が家を今後どうしていくのか、これから考えていかなければならない。焦らずにゆっくりと、レイとも話し合いながら答えを出せばいい。
もう一度外の景色に目を向ける。いつの間にか太陽が夜の準備をするように、空の向こう側へと帰ろうする時間になっていた。
ああ、そうだ。叔父が迎えに来てくれたのか。
運転席の窓から顔を出し、叔父は手を振ってきた。
「ヒルス、お疲れ」
「ジェイク叔父さん。本当に出掛けるのか」
「ああ。お前が元気の出る場所へ連れて行ってやる」
にこやかに話す叔父を見て、俺は首を捻る。
元気が出る場所だって? ジェイク叔父さんにそれがどこか分かるのか。俺自身、どうすれば自分の活力を取り戻せるのか知らないというのに。
しかし、今帰ったとしても更に気持ちが落ち込むのは目に見えている。俺は大人しく、気晴らしにドライブに連れて行ってもらうことにした。
俺が助手席に乗り込むと、叔父はすぐに車を走らせる。
「叔父さん、どこ行くんだよ?」
「だから、お前が元気になるところだって」
「見当もつかないよ」
「ま、着いてからのお楽しみだな」
──この前、俺は実家の跡地で酷いことを言ってしまった。それなのにあれ以来一切その話題に触れてこない。いつも優しい叔父を怒らせてしまうほど、俺は荒れていたのに。
鼻歌を口ずさみながら運転する叔父を横目に、急に申し訳ない気持ちになった。
「なあジェイク叔父さん」
「ん?」
「色々、悪かったよ」
目の前の信号が赤になり車を停めると、叔父は不思議そうな顔でこちらを見た。
「色々と手伝ってもらっているのに、俺は殆ど何もしていない。実家の跡地ではあんな酷いことを言って叔父さんを怒らせた。最低な甥でごめんな」
「ああ? 別に気にしてないけど」
信号が青になると、再び車はゆっくりと走り始める。叔父の運転は、いつも心地よくて安心するんだ。
「オレも大人げなかったな。もう少しお前の気持ちも察してやるべきだった」
その柔らかい口調は、幼い頃叔父に甘えたときと同じもので、懐かしい気持ちにさせてくれた。
「姉さんが生きていた頃、時々連絡を取り合っていたんだけどな。よくお前とレイの話をしていたよ。ダンス大会でヒルスが何位になったとか、今日のイベントでレイが本当にいい踊りをした、とか。家族で旅行に行った自慢話もされたな」
「そうなのか……」
母が嬉しそうに話す姿が容易に想像でき、俺は自然と笑みが溢れる。
「でも姉さんが一番嬉しそうに話してくれたのは、お前とレイが仲良くガーデンでダンスをしていたことなんだよ」
「えっ」
「ヒルスは最初、レイとあまり仲が良くなかったよな? それが、レイがダンスを始めてから少しずつ打ち解けて、いつしか二人でダンス練習をしているのが当たり前になって。その話をすると、姉さんはいつも嬉しそうな声をしていたんだ」
頭の中で、過去の映像が瞬時に蘇った。
たくさんの花たちが咲き誇るあのガーデンで、レイと俺はいつも汗を流しながら息が切れるまで踊り続けた。母は窓の向こうで目を細めながら、その様子を見守っていたな。
思い出すと、たちまち胸が締めつけられる。
「もう姉さんたちの……お前たち家族が過ごした家がなくなってしまったのは事実だ。だからこそ、あの場所で過ごした日々をお前には忘れてほしくなかったんだよ」
俺たちが乗る車はいつの間にか高速の中を走っていた。遠出でもするつもりなのだろうか。
ノンストップで過ぎ去っていく窓の外の景色を、ぼんやりと眺める。
「やっぱり、歳を取っても叔父さんは優しいままだな。俺、もう投げやりなことは言わないよ。あの日ほざいたことは本心でも何でもなかった」
そう言って俺が叔父の方を見ると、なぜだかその顔に笑みが消えている。いや、むしろ少し怒っているような雰囲気が醸し出されていた。
「ヒルス」
叔父の声が急に低くなる。威圧的なオーラを漂わせながらこんなことを言い始めるんだ。
「お前、オレを年寄り扱いしたか」
「えっ?」
「『歳をとっても優しい叔父さん』と言いやがったな? オレはまだまだ若いんだ!」
「いや、そういうつもりじゃなくて。最後に会ったのが十年も前だから……」
「この野郎、今運転中じゃなかったらお前のほっぺたつねってるところだったぞ!」
「はあ……はいはい。すみません。今の言葉は撤回するよ」
笑顔は戻らなかったが、珍しく叔父が半分冗談を言っているのだと気づいた。
叔父の言うとおりだ。あの場所には全てが消え去ってしまったが、家族との思い出がなくなることはない。まだ気持ちの整理はつかないが、更地になってしまった我が家を今後どうしていくのか、これから考えていかなければならない。焦らずにゆっくりと、レイとも話し合いながら答えを出せばいい。
もう一度外の景色に目を向ける。いつの間にか太陽が夜の準備をするように、空の向こう側へと帰ろうする時間になっていた。
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