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通い合う気持ち②

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だから――先ず俺は、優に伸ばしそうになっていた両手を自分の方に引き戻す。

そうして、自らに気合を入れる為に、自分の頬をその両手で思い切りパンっと叩いた。

俺の突然の行動に、一瞬呆けた様な……驚いた様な表情を向けて来る優。

俺は、そんな優の瞳を真っ直ぐに見つめ返した。

「優?……正直言って、俺はお前が……俺のことを、こんなに思ってくれていることは嬉しいと思う。ここまで必要とされるのは、本当に幸せなことだ。それは、有難いと思ってる」

優の瞳から視線を逸さぬまま、自分の思っていることをそのまま言葉にして紡ぐ俺。

優はここまで真っ直ぐに好意を伝えてくれているのだから、俺も敢えて言葉を選ばないことにしたのだ。

(……俺達は……俺は、生きていた時、最期は逆賊ぎゃくぞく扱いになった。そうして、昨日読んだ本によると……死んだ今も、新政府軍に刃向かって戦った者であることに変わりはないらしい)

――そう、俺は、新しい政府からは不要と切り捨てられた者なのだ。

だからこそ、誰かに必要とされる喜びは誰よりもよく理解している。

(昔は……俺達も、ちゃんと必要とされていたからな……)

そう、京都にいた頃は――まだ、俺達「新撰組」は必要とされていた。

京都の街を、治安を、人々の平和を守る為、俺達は必要とされていたし……自分達もそのことに誇りを抱いて活動していたのだ。

(まぁ、それでも……同時に、恐れもされていたが……)

でも、その恐れを以てして、京都の治安の維持に一役買っていたのは紛れも無い事実だ。

不逞ふていな輩が出れば、京の人々は皆俺達を頼ってくれたし、俺達も彼らが必要としてくれたからこそ……彼らの感謝の気持ちを誇りに変え、新撰組として活動して来られたのだ。

(そうだ。必要とされていること……そこにちゃんとした理由があるなら、俺は胸を張れる。それに、何より……これから、この未来で生きていく事になるのなら……俺は、自分自身や隊士の皆に恥じることなく、胸を張って生きていきたい)

――だからこそ、このままではダメなのだ。

流されるままでは――。

「優が俺を必要としてくれるなら、ちゃんと、理由が欲しい。俺が家族や……死んで逝った仲間達に胸を張れる様な理由が」

俺は真っ直ぐに優を見つめたまま、ずっと考えていた言葉を伝える。

「俺は、土方歳三なんだ。お前が生きる理由にしてくれた、鬼の副長なんだよ。だからこそ、お前に流されるまま……関係を持ちたくねぇ。確かに、肉体は一度死んでるかもしれねぇが、誇りまでは死なせたくねぇ……失いたくねぇんだよ」

「土方さん……」

俺を見つめる優の瞳に、明らかな戸惑いの感情が宿り、揺れる。

だが、俺はそんな優の黒い瞳から視線を外さぬまま、言葉を続けた。

「誇りを失ったら、俺は完全に俺じゃなくなっちまうんだ。誰にも恥じることなく生き、誇り高く死ぬ。それが、俺の誇りなんだよ。……なぁ、優?俺はお前の部屋で、お前と女が写ってる写真を見ちまったんだ。たとえ、お前が俺に向けてくれている好意が真っ直ぐなものでも、俺は自分や仲間に恥じる様な恋だけはしたくねぇ」
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