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第一部 Side 永宮 真紀
願いの口付け
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「真紀……」
今まで聞いたことがない位、優しい声音で私の名を呼ぶ剛志。
「目を、閉じて?」
なんて優しく甘美な響き――声だろう。
今まで食べたどんなスイーツより甘い。
その声に思考も心も蕩けさせられ、私は静かに瞳を閉じた。
そんな私の両頬に――とてもあたたかいものが触れる。
私には、それが何か直ぐに分かった。
――剛志の両手だ。
彼の両手が包み込む様に私の頬に触れているのである。
彼の手の温もりに……私はいよいよ、彼とキスをするのだということを意識し、思わずまぶたにぎゅっと力を入れた。
(私………剛志とキスしちゃうんだ……)
幸せで――それでいて、ほんの少しだけ後ろめたい様な気持ちが私の全身を支配していく。
(後ろめたいのは……きっと、私が今は『私』ではないから……)
彼とキスをする私の心は真紀のものだけど、顔は――今の名前や人生は、由希奈のものなのだから。
(本当は、ちゃんと『真紀』の顔で……私自身の唇で、彼とキスしたかったけれど……)
でも、今は仕方ない。
それに、いつか『私』を取り戻せたら――『私』に戻れたら、その時にちゃんと真紀としてキスをすれば良いのだ。
私は、真紀としてキスが出来ないことに対する……ほんの少しだけ悲しい気持ちを胸の底にそっとしまった。
今まで聞いたことがない位、優しい声音で私の名を呼ぶ剛志。
「目を、閉じて?」
なんて優しく甘美な響き――声だろう。
今まで食べたどんなスイーツより甘い。
その声に思考も心も蕩けさせられ、私は静かに瞳を閉じた。
そんな私の両頬に――とてもあたたかいものが触れる。
私には、それが何か直ぐに分かった。
――剛志の両手だ。
彼の両手が包み込む様に私の頬に触れているのである。
彼の手の温もりに……私はいよいよ、彼とキスをするのだということを意識し、思わずまぶたにぎゅっと力を入れた。
(私………剛志とキスしちゃうんだ……)
幸せで――それでいて、ほんの少しだけ後ろめたい様な気持ちが私の全身を支配していく。
(後ろめたいのは……きっと、私が今は『私』ではないから……)
彼とキスをする私の心は真紀のものだけど、顔は――今の名前や人生は、由希奈のものなのだから。
(本当は、ちゃんと『真紀』の顔で……私自身の唇で、彼とキスしたかったけれど……)
でも、今は仕方ない。
それに、いつか『私』を取り戻せたら――『私』に戻れたら、その時にちゃんと真紀としてキスをすれば良いのだ。
私は、真紀としてキスが出来ないことに対する……ほんの少しだけ悲しい気持ちを胸の底にそっとしまった。
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