私を返せ！〜親友に裏切られ、人生を奪われた私のどん底からの復讐物語〜

第一部 Side 永宮 真紀

悪魔の囁き⑧

「それに。そもそも、離婚の調停の時にはまだまだ法廷に呼び出されて夫と対面させられることも多いしね。幾ら権利や法の整備が進んでも……それでも、DVを受けている被害者の妻の立場は弱いのよ。裁判所や弁護士事務所の前で待ち伏せをされて追い回されることもあるみたいだしね」

正直、恐ろしい。

私達は女医の言葉に息を呑む。

と、女医が今度は私に視線を向けて来た。

「あなたも。何やら訳ありみたいだけれど。あなたも……今のままで、本当にやり直せると思っているの？このままで未来はあるの？」

女医の言葉に、私は唇を噛んだ。

確かに、今の私の状況は八方塞がりだ。

先ず、戸籍がこのままではあの家族から逃げきれないし、住民票をロックしたとしてあの無駄に経済力がある家族なら有り余る財力を注ぎ込み、血眼になって私を探し出すだろう。

そうして、あの家に連れ戻され――忌まわしいあの男の玩具にされて私は一生を終えるのだ。

（そんなことは絶対に嫌だ……！）

――ここで、私を死んだことにすればあいつらから逃れられるかもしれない。

そして、別人に成り済ましたまま上手く生きれば海外への逃亡だって可能だ。

（なら……私は、選択するしかない！）

私は震える足でテーブルに近寄ると、その上に置いてあった、同い年の死んだ少女の身分証を手に取った。