私を返せ！〜親友に裏切られ、人生を奪われた私のどん底からの復讐物語〜

第一部 Side 永宮 真紀

悪魔の囁き⑥

人生全てを奪われてしまった私からすれば、「たかが受験で」と思ってしまう様な話だが――恐らく、世間一般の感覚では受験というのは、きっと、それ程大切なものなのだろう。

現に、私の目の前にいる女医も、心中の理由としては納得した様子を示している。

「確かに高校に全て落ちてしまうなんてとても辛いことだけれど……。それでも、死ぬことなんてなかったのよ。町にいられないなら、引っ越せば良かったんだわ。最も、何を言ったところでもう遅いのだけれど」

遺書を見つめながら、そう呟く女医。

だが、彼女はすぐに遺書から視線を上げると、私達を真っ直ぐに見つめてきた。

「でも、これで分かったかしら？とても不謹慎な言い方をするけれど、これはあなた達にとっては大きなチャンスなの。わかる？……あなた達が彼らに成り代われば、新しい人生と綺麗な戸籍……人生にやり直すための全てが手に入るのよ」

彼女の言葉に、私は思わず息を呑んだ。

（剛志達は、どう思ってるんだろう……）

他の人の反応が知りたい。

そう思った私が視線を巡らせると、大変緊張した様な面持ちで――しかし、女医が持つ遺書やテーブルの上の身分証に目が釘付けになっている剛志達に気がついた。

きっと、彼らも私と同じ気持ちなのだ。

（正直なことを言うなら、今すぐにでも手を伸ばしてこのチャンスを掴み取りたい）

でも、私に残された人間としての最後の理性が――それはダメだ、良くないことだと悲鳴をあげていた。

しかし、中々決断が出来ない私達に業を煮やしたのだろう。

女医が、私達により鋭い視線を向けてくる。

そうして、私達を真っ直ぐに見据えたまま、口を開いた。

「……あのね？厳しいことを言う様だけれど。あなた達……このまま逃げ続けることが出来ると本当に思っているの？」