62 / 115
第一部 Side 永宮 真紀
悪魔の囁き③
しおりを挟む
女医は、私たちの顔を見つめながら、ゆっくりとこう告げる。
「自分が人間として……医師として最低の提案をしようとしていることはわかってる。でもね?死んだ命はもう戻らないのよ。なら……私は、その命を使って他の命を救える方に賭けてみたいの」
彼女の言葉は一見正論じみているが――しかし、その実、行おうとしていることは悪魔の所業そのものであった。
「だから……。これから、警察が駆けつけるまでの間に偽装をして、死んだのを貴女達に見せるの。幸い、遺体の顔は崖や岩場に何度も打ち付けられたから、酷く損壊していて顔だけでは身元がわからなくなっているわ。それを利用するのよ」
女医は酷く興奮した状態で、私達にそう語りかける。
「あなた達の身分を証明できる物を全てあの遺体に持たせるの。車も……そうね、あの崖から落としてしまったらいいわ。そうすれば、より無理心中っぽく見える筈。警察だって、きっと疑いやしないわよ。あなた達は、誰も傷つけることなく新しい人生を手に入れられるの」
(新しい人生……)
それが手に入れば、どんなに素晴らしいことだろう。
私が「風香」でなくなれば、まずあの気持ち悪い父親から逃げることができるし、最悪別人として動く中で家族や人生を取り戻すヒントが見つかるかもしれない。
「風香」のままではまともに生きていくことすら許されない状況の私にとっては、女医の提案はまさに「渡りに船」だった。
(でも……人間として、そんなこと、していいの?本当に?)
「自分が人間として……医師として最低の提案をしようとしていることはわかってる。でもね?死んだ命はもう戻らないのよ。なら……私は、その命を使って他の命を救える方に賭けてみたいの」
彼女の言葉は一見正論じみているが――しかし、その実、行おうとしていることは悪魔の所業そのものであった。
「だから……。これから、警察が駆けつけるまでの間に偽装をして、死んだのを貴女達に見せるの。幸い、遺体の顔は崖や岩場に何度も打ち付けられたから、酷く損壊していて顔だけでは身元がわからなくなっているわ。それを利用するのよ」
女医は酷く興奮した状態で、私達にそう語りかける。
「あなた達の身分を証明できる物を全てあの遺体に持たせるの。車も……そうね、あの崖から落としてしまったらいいわ。そうすれば、より無理心中っぽく見える筈。警察だって、きっと疑いやしないわよ。あなた達は、誰も傷つけることなく新しい人生を手に入れられるの」
(新しい人生……)
それが手に入れば、どんなに素晴らしいことだろう。
私が「風香」でなくなれば、まずあの気持ち悪い父親から逃げることができるし、最悪別人として動く中で家族や人生を取り戻すヒントが見つかるかもしれない。
「風香」のままではまともに生きていくことすら許されない状況の私にとっては、女医の提案はまさに「渡りに船」だった。
(でも……人間として、そんなこと、していいの?本当に?)
10
お気に入りに追加
53
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?
九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。
で、パンツを持っていくのを忘れる。
というのはよくある笑い話。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話
家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。
高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。
全く勝ち目がないこの恋。
潔く諦めることにした。
かつて僕を振った幼馴染に、お月見をしながら「月が綺麗ですね」と言われた件。それって告白?
久野真一
青春
2021年5月26日。「スーパームーン」と呼ばれる、満月としては1年で最も地球に近づく日。
同時に皆既月食が重なった稀有な日でもある。
社会人一年目の僕、荒木遊真(あらきゆうま)は、
実家のマンションの屋上で物思いにふけっていた。
それもそのはず。かつて、僕を振った、一生の親友を、お月見に誘ってみたのだ。
「せっかくの夜だし、マンションの屋上で、思い出話でもしない?」って。
僕を振った一生の親友の名前は、矢崎久遠(やざきくおん)。
亡くなった彼女のお母さんが、つけた大切な名前。
あの時の告白は応えてもらえなかったけど、今なら、あるいは。
そんな思いを抱えつつ、久遠と共に、かつての僕らについて語りあうことに。
そして、皆既月食の中で、僕は彼女から言われた。「月が綺麗だね」と。
夏目漱石が、I love youの和訳として「月が綺麗ですね」と言ったという逸話は有名だ。
とにかく、月が見えないその中で彼女は僕にそう言ったのだった。
これは、家族愛が強すぎて、恋愛を諦めざるを得なかった、「一生の親友」な久遠。
そして、彼女と一緒に生きてきた僕の一夜の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる