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第一部 Side 永宮 真紀
悪魔の囁き③
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女医は、私たちの顔を見つめながら、ゆっくりとこう告げる。
「自分が人間として……医師として最低の提案をしようとしていることはわかってる。でもね?死んだ命はもう戻らないのよ。なら……私は、その命を使って他の命を救える方に賭けてみたいの」
彼女の言葉は一見正論じみているが――しかし、その実、行おうとしていることは悪魔の所業そのものであった。
「だから……。これから、警察が駆けつけるまでの間に偽装をして、死んだのを貴女達に見せるの。幸い、遺体の顔は崖や岩場に何度も打ち付けられたから、酷く損壊していて顔だけでは身元がわからなくなっているわ。それを利用するのよ」
女医は酷く興奮した状態で、私達にそう語りかける。
「あなた達の身分を証明できる物を全てあの遺体に持たせるの。車も……そうね、あの崖から落としてしまったらいいわ。そうすれば、より無理心中っぽく見える筈。警察だって、きっと疑いやしないわよ。あなた達は、誰も傷つけることなく新しい人生を手に入れられるの」
(新しい人生……)
それが手に入れば、どんなに素晴らしいことだろう。
私が「風香」でなくなれば、まずあの気持ち悪い父親から逃げることができるし、最悪別人として動く中で家族や人生を取り戻すヒントが見つかるかもしれない。
「風香」のままではまともに生きていくことすら許されない状況の私にとっては、女医の提案はまさに「渡りに船」だった。
(でも……人間として、そんなこと、していいの?本当に?)
「自分が人間として……医師として最低の提案をしようとしていることはわかってる。でもね?死んだ命はもう戻らないのよ。なら……私は、その命を使って他の命を救える方に賭けてみたいの」
彼女の言葉は一見正論じみているが――しかし、その実、行おうとしていることは悪魔の所業そのものであった。
「だから……。これから、警察が駆けつけるまでの間に偽装をして、死んだのを貴女達に見せるの。幸い、遺体の顔は崖や岩場に何度も打ち付けられたから、酷く損壊していて顔だけでは身元がわからなくなっているわ。それを利用するのよ」
女医は酷く興奮した状態で、私達にそう語りかける。
「あなた達の身分を証明できる物を全てあの遺体に持たせるの。車も……そうね、あの崖から落としてしまったらいいわ。そうすれば、より無理心中っぽく見える筈。警察だって、きっと疑いやしないわよ。あなた達は、誰も傷つけることなく新しい人生を手に入れられるの」
(新しい人生……)
それが手に入れば、どんなに素晴らしいことだろう。
私が「風香」でなくなれば、まずあの気持ち悪い父親から逃げることができるし、最悪別人として動く中で家族や人生を取り戻すヒントが見つかるかもしれない。
「風香」のままではまともに生きていくことすら許されない状況の私にとっては、女医の提案はまさに「渡りに船」だった。
(でも……人間として、そんなこと、していいの?本当に?)
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