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第一部 Side 永宮 真紀

死にたくない

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あれから、どれ位の時が経ったのか。

私は、未だに身動き一つ取れないまま……風香に顔面を切り裂かれ続けていた。

「絶対真紀ちゃんが本物だってバレないように、念入りにね!」

そう告げるや、流行りの歌を歌いながら、風香は私の顔に何度も包丁を突き立てる。

(……殺して……もう、殺して……)

あまりの痛みと絶望に、既に私の心は折れ、精神は崩壊寸前だった。

と、ぐったりしている私の肉体を台車から転がす様にして降ろす風香。

彼女は目の前にあったベランダの扉を勢いよく開けるや、上機嫌でこう言った。

「じゃぁ、邪魔者の真紀ちゃんにはここから飛び降りて退場して貰いま~す!」

キラキラした笑顔でそう告げるや、風香は私の足を掴み、ベランダへと私の体を引っ張っていく。

「真紀ちゃんはね、これから風香になるの。ずーっとずーっと真紀ちゃんになりたがってた『風香』が、ある日……両親が出張でいない夜を見計らって、私……『真紀』を呼び出し、殺そうとした。そこで2人は揉み合いになり、風香はベランダから転落して死亡。真紀は辛くも生き残る、ってお話だよ。どーお?完璧でしょ?」

(いや……いやっ!死にたくないっ!)

さっきまではあれ程殺してくれと願ってすらいた筈なのに――。

いざ殺される段になると、ここまで死にたくないと思えるなんて我ながら不思議だ。

でも、この時の私の頭の中は「死にたくない」――それだけでいっぱいだった。

だが、無情にも私をベランダに引き摺り出す風香。

彼女は未だ笑顔のまま、

「う~ん、手足を縛ったままだと殺人だってバレちゃうかな~?口のガムテープもまずいよね。それだと、困っちゃうかも。娘が殺人犯になったら新しいお父さんとお母さんも困っちゃうし……剛志君のお嫁さんにもなれないもんねぇ」

と、呟き出す。

が、その言葉が私の心を――死にかけていた私の精神を、再びこの世へと引き戻した。
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