23 / 115
第一部 Side 永宮 真紀
やっぱり
しおりを挟む
「で?話ってなに?」
彼女と交わす言葉を極力減らす様、可能な限り短い言葉で問いかける私。
そんな私に視線を向けると、彼女は不意にぽぅっと己の頬を赤らめた。
「……あのね?」
両手を自分の胸の前で組み、もじもじしながら話し始める風香。
「私……やっぱり、真紀ちゃんになりたいなって思ってるの。だからね?真紀ちゃん……貴女の人生を私に譲ってくれない?」
「はぁっ?」
その童女そのままの愛くるしい仕草とは裏腹な――放たれた言葉の凶悪さに、思わず私は声を上げる。
(譲る?私の人生を?風香に?)
流石に、言っていることが訳が分からなさすぎる。
その内容の突拍子のなさに、私は驚嘆の声を上げた後、ぽかんと口を開けたまま暫く何も言えずにいた。
すると、それを私が言葉の続きを待っているとでも思ったのか――風香が勝手に話を続けてくる。
「……私ね?昔から、自分の人生が嫌いだった。ううん、人生だけじゃないわ。意地悪で……痛いことをしてくるお父さんも、それを止めてくれないお母さんも。皆、皆、嫌いだったの」
風香はそう言いながら、長いフリルのブラウスの袖を捲り、私に腕を見せてくる。
その雪の様に真っ白な腕には、無数の青あざが存在していた。
(……なんてこと!虐待は、おさまってなかったんだ……!)
あまりに痛ましく生々しい虐待の痕跡に、一瞬言葉を失う私。
心の中には風香に対する哀れみにも似た感情が芽生え、ほんの一瞬……彼女に優しい言葉をかけてしまいそうになる。
だが、私はその感情を己の拳をぎゅっと握り締めることでどうにか制した。
彼女と交わす言葉を極力減らす様、可能な限り短い言葉で問いかける私。
そんな私に視線を向けると、彼女は不意にぽぅっと己の頬を赤らめた。
「……あのね?」
両手を自分の胸の前で組み、もじもじしながら話し始める風香。
「私……やっぱり、真紀ちゃんになりたいなって思ってるの。だからね?真紀ちゃん……貴女の人生を私に譲ってくれない?」
「はぁっ?」
その童女そのままの愛くるしい仕草とは裏腹な――放たれた言葉の凶悪さに、思わず私は声を上げる。
(譲る?私の人生を?風香に?)
流石に、言っていることが訳が分からなさすぎる。
その内容の突拍子のなさに、私は驚嘆の声を上げた後、ぽかんと口を開けたまま暫く何も言えずにいた。
すると、それを私が言葉の続きを待っているとでも思ったのか――風香が勝手に話を続けてくる。
「……私ね?昔から、自分の人生が嫌いだった。ううん、人生だけじゃないわ。意地悪で……痛いことをしてくるお父さんも、それを止めてくれないお母さんも。皆、皆、嫌いだったの」
風香はそう言いながら、長いフリルのブラウスの袖を捲り、私に腕を見せてくる。
その雪の様に真っ白な腕には、無数の青あざが存在していた。
(……なんてこと!虐待は、おさまってなかったんだ……!)
あまりに痛ましく生々しい虐待の痕跡に、一瞬言葉を失う私。
心の中には風香に対する哀れみにも似た感情が芽生え、ほんの一瞬……彼女に優しい言葉をかけてしまいそうになる。
だが、私はその感情を己の拳をぎゅっと握り締めることでどうにか制した。
25
お気に入りに追加
53
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

かつて僕を振った幼馴染に、お月見をしながら「月が綺麗ですね」と言われた件。それって告白?
久野真一
青春
2021年5月26日。「スーパームーン」と呼ばれる、満月としては1年で最も地球に近づく日。
同時に皆既月食が重なった稀有な日でもある。
社会人一年目の僕、荒木遊真(あらきゆうま)は、
実家のマンションの屋上で物思いにふけっていた。
それもそのはず。かつて、僕を振った、一生の親友を、お月見に誘ってみたのだ。
「せっかくの夜だし、マンションの屋上で、思い出話でもしない?」って。
僕を振った一生の親友の名前は、矢崎久遠(やざきくおん)。
亡くなった彼女のお母さんが、つけた大切な名前。
あの時の告白は応えてもらえなかったけど、今なら、あるいは。
そんな思いを抱えつつ、久遠と共に、かつての僕らについて語りあうことに。
そして、皆既月食の中で、僕は彼女から言われた。「月が綺麗だね」と。
夏目漱石が、I love youの和訳として「月が綺麗ですね」と言ったという逸話は有名だ。
とにかく、月が見えないその中で彼女は僕にそう言ったのだった。
これは、家族愛が強すぎて、恋愛を諦めざるを得なかった、「一生の親友」な久遠。
そして、彼女と一緒に生きてきた僕の一夜の物語。
乙男女じぇねれーしょん
ムラハチ
青春
見知らぬ街でセーラー服を着るはめになったほぼニートのおじさんが、『乙男女《おつとめ》じぇねれーしょん』というアイドルグループに加入し、神戸を舞台に事件に巻き込まれながらトップアイドルを目指す青春群像劇! 怪しいおじさん達の周りで巻き起こる少女誘拐事件、そして消えた3億円の行方は……。
小説家になろうは現在休止中。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

転校して来た美少女が前幼なじみだった件。
ながしょー
青春
ある日のHR。担任の呼び声とともに教室に入ってきた子は、とてつもない美少女だった。この世とはかけ離れた美貌に、男子はおろか、女子すらも言葉を詰まらせ、何も声が出てこない模様。モデルでもやっていたのか?そんなことを思いながら、彼女の自己紹介などを聞いていると、担任の先生がふと、俺の方を……いや、隣の席を指差す。今朝から気になってはいたが、彼女のための席だったということに今知ったのだが……男子たちの目線が異様に悪意の籠ったものに感じるが気のせいか?とにもかくにも隣の席が学校一の美少女ということになったわけで……。
このときの俺はまだ気づいていなかった。この子を軸として俺の身の回りが修羅場と化すことに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる