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急襲②

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僕は意を決して五道を地面に寝かせると、己の胸の前で自らの手をそっと合わせた。

(岳……どうか、力を貸して欲しい。あなたの最愛の兄を助けるために……)

そう祈りを捧げると、僕は目を閉じ、自らが一番得意としている龍神祝詞《りゅうじんのりと》を唱える。

高天原たかまがはらして天と地に御働みはたらきを現したまう龍王は、大宇宙の根元の御祖みおや御使みつかいにして、一切を産み一切を育て萬物よろずのものを御支配あらせ給う王神おおじんなれば……」

すると、祝詞を唱える僕の脳裏に、まるで映画の様に――不思議な映像が流れ始めた。

僕によく似た顔立ちの黒髪の少年が、奈良などでよく見る様な美しい石舞台いしぶたいの上で舞を舞っているのである。

純白の扇子を手に、反対側の手では神楽鈴かぐらすずを振りながら、蝶の様に優雅に――それでいて、花の様に可憐に舞う少年。

と、彼の舞が進んでいくごとに、なんと石舞台の下の地面から、沢山の草花が芽吹き始めたではないか。

芽吹き出した草花は、やがて少年の舞に合わせる様に成長し、美しい花を咲かせ、豊かに果実を実らせていく。

(ああ……きっと、これが泰山府君祭なんだ。岳が、僕に教えてくれたんだ)

「ありがとう、岳……」

僕がそう呟いた瞬間、映像の中の岳がひょいと石舞台から飛び降りる。

そして、僕に歩み寄るや――僕の両手に、舞に使用していた扇子と神楽鈴を預けて来た。

「僕の一番大切な人を……兄様を、どうかよろしくお願いします」

そう告げると、柔らかく微笑み――はかなく消えていく岳。

同時に、両手に先程まではなかった重みを感じ、僕は目を開ける。

僕が目にしたのは――あの映像通りに、僕の両手におさめられた、扇子と神楽鈴だった。

「岳……。わかった。僕が必ず五道を助けてみせるよ」
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