上 下
2 / 117

始まりは真夏の夜に

しおりを挟む
 夏も真っ盛りの8月のある蒸し暑い夜。

 小学4年生のおがみ 切夜きりやは、不思議な夢を見た。

 夢の中で、彼はとても美しい真っ白な宮殿の前に立っていたのである。

 柔らかな曲線を描く宮殿の屋根は、アラジン等の童話でよく見るアラブ風の造りで――そこが日本ではないことを暗に切夜に伝えているようだった。

 と、突然どこからか大きく――しかし、荘厳に鐘の音が鳴り響いてくる。

 ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン。

 (どこから聞こえて来るんだ……?)

 切夜がきょろきょろ辺りを見回していると、まるで鐘の音が合図であったかのように、目の前の宮殿の扉が開く。

 同時に、切夜の足下の地面から顔を出す、無数の植物。

 それらは恐ろしい速さで蕾をつけると、一瞬で開花した。

 切夜の足下に咲き乱れる色とりどりの美しい花々。

 それらは、薔薇もあれば秋桜もあり――まるで、季節に関係なく四季の花が咲き誇っているような印象だった。

 「わぁ……!綺麗だな……!」

 余りにも美しい光景に、思わず見とれる切夜。

と――。

 カツン、カツン、と高い靴音がして、開いた宮殿の扉から、誰かが姿を現す。

 柔らかな金色のドレスを身に纏い、切夜の目の前に姿を見せたその人物は――、

 「あ、愛菜あいな……?」

 今年で4歳になる彼の妹のおがみ 愛菜あいなだった。

 
しおりを挟む

処理中です...