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Epilogue

竜の独白

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   竜の独白

 私がその、他に類のない特異な世界を見つけたのも、おそらくは、単なる偶然だったのだと思っている。

 その世界、銀河の端の塩水に満ちた丸い惑星は、1種のヒトのみが繁栄し、獣人はおらず、獣と魚と植物はヒトらに追われるばかりで、語らうようなことはしていなかった。
 実体を持つ神はおらず、ヒトは魔力も霊力も使えず、単純な物理と化学が支配し、音声と電子でのみ会話をする世界。しかも、狭い惑星だというのに、ヒトらの音声は地域差が大きく、その差がさらなる格差を産み、素粒子と火薬を大量に消費する争いの絶えない世界だった。

 見るに耐えない世界。その世界の端に、薄氷上の平和を過ごす地区があった。

 その地区の、治療院の白い箱の中に閉じ込められ生きる少女が目に留まったのも、偶然だったと思う。
 彼女は命をつなぐために喉に管を入れていた。そのため、音声で会話する世界に居るにも関わらず、紙に文字を書き、板を指差すことで、血縁の者や世話人と対話をしていた。
 血縁の者は、彼女が成長するとともに、徐々に、白い箱に現れる頻度が減っていった。
 彼女が会話に用いていた紙が電子の板になる頃、血縁の者はもう、ほとんど姿を見せなくなっていた。

 電子の板は彼女に白い箱の外と夢を見せていた。
 その世界の、彼女には行くことのできない場所の風景と見知らぬヒトとの文字や映像での会話、見知らぬ者が紡いだ物語と絵物語。中には少女には刺激の強いものもあったが、それでも、彼女の知見は広がっていった。

 時折、彼女は物語の世界へ行きたいと考えているようだった。
 彼女の読む物語は、主人公が異世界へ召喚されたり、転生するものが多くなっていった。箱の中のから出られない彼女にとって、その物語は、さぞ魅力的に映っていたことだろう。
 ふと、世界を渡る能力のないモノを、他の世界へ移したらどうなるのか、という疑問と興味が湧いてきた。

 私の、竜の一族は、特異な能力を持つ者たちだ。
 我々は異なる次元の世界を渡る能力を持つ。そして、その能力で渡った世界を時に育て、時に壊し、完全の消滅させることも、無から生み出すこともやってきた。
 ある世界では神と崇められ、知恵をと能力を授け、英雄を助けた。ある世界では悪魔と恐れられ、文明を破壊し、蹂躙し、英雄に退治されたように装い立ち去った。また、ある世界では、英雄を助ける万能の友として冒険を楽しんだこともあった。

 少女の持つ電子の板にあった物語、その中でも凶悪な魔物のいないものを選び、世界として安定させ、彼女に健康な体と潤沢な魔力を与えてみることにした。
 彼女の成り行きを近くで見てみたい。そんな欲を満たし、私自身が侵入しても大きく乱れない世界。

 誤算は、その試みに興味を持った兄弟が同じ世界に同じ姿で、私との違いを明確に示すために体色は変えた姿で、現れたことだろう。
 ただ、その世界では光竜と名乗った長兄以外、均等を崩すのが面倒になったのか、代替の体を置いて早々に別の、それそれが興味を持った違う世界へ渡って行った。

 それまでも、まれに、長兄は末弟となる私と、時には協力し、時には敵対し、時には傍観しながら、同じ世界に存在することを楽しむことが多かったように思う。
 この、少女のために用意した世界では、光竜は世界を安定させるための協力はしてくれたが、それ以外は私を困らせて楽しんでいるようでもあった。

 健康な体と特異な能力を与えて召喚した少女は、残念ながら、この世界から排除されてしまった。
 そこで、彼女を受け入れることのできる世界へ変貌させ、この世界の者として転生させる方法をとってみた。
 その間、光竜はヒトの王国を乗っ取って王となり、国民の誰もが彼女を待ち望む環境を作り上げた。この世界の住人を、幾人も犠牲にして。

 この世界を去ろうと提案したのは、私からだった。
 この世界に生まれ、育ったあの仔はこの世界に受け入れられている。今はもう、私たちの存在が足かせになっている、と感じたからだ。
 長兄は、光竜はその提案を気に入ったようだった。彼が平らげ、平穏になった世界はもう、彼にとってはツマラナイものとなっていたのだろう。
 世界を壊さずにこの世界のヒトに返す演出を、光竜は楽しそうに準備した。
 久しぶりの悪役だ、と。

 彼女、今は彼、だったか。その、彼はきっと、今までできなかった楽しいこと全てを、この世界で実行するだろう。
 一度、目を離したら、この、無限にある世界の中からあの仔がいる世界は、もう2度と見つけることはできないだろう。だが、別に未練はない、それでいい。

 気が向けば、少しの間は楽しめる、この世界とはかけ離れた、別の世界を見つけることができる。
 兄弟たちとも、またどこかで会うだろう。

 世界も時間も無限にあるのだから。
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みんなの感想(2件)

mi
2024.10.07 mi

先生、分かりました!「竜王末弟と」が、エピソード1と3,両方に入っています!

霧瀬 渓
2024.10.10 霧瀬 渓

ご指摘ありがとうございます。
Episode3が本来の公開位置でしたので、
早急に修正いたしました。
一部、ネタバレになり、申し訳ありません。

解除
mi
2024.10.07 mi

 面白く読み始めたところです。
 ところで、「竜王末弟」で、カイルの容態を聞いていますが、・??・・・。病気?前振り無く?その後怪我してますので、順序がおかしい?

霧瀬 渓
2024.10.10 霧瀬 渓

ご指摘ありがとうございます。
Episode3が本来の公開位置でしたので、
早急に修正いたしました。
一部、ネタバレになり、申し訳ありません。

解除

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