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Episode.04

光竜

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   光竜

 「聖女がここに眠ることになってしまいました
 だから、原因となった愚かなヒトの王たちを排除した
 神子を騙る、恩恵を横取りしようとする者も、です
 ソレはそのために働いてくれたのです」
 リョクが抱きしめるルカスを見下ろし、竜王が、光竜が言った。
 「私の王国は愚かな政争で、神子を排除したりはしないでしょう」
 スッ と光竜が張り付いたような笑顔でリョクに手を差し伸べる。
 フェンリルが牙を剥いてその2人の間に立ち塞がり、光竜を牽制する。ディルとマクシミリアンもフェンリルの後ろでリョクをかばった。
 リョクは両目を閉じ、強く、ルカスを抱きしめて光竜を拒絶した。
 ルカスの右手、指先がわずかに動く。
 リョクの腕の中から、ルカスがゆっくりと立ち上がろうとする。が、足に力が入らないらしく、それでもなんとか上半身を起こした。
 ふわりとリョクの頬に左手でそっと触れ、それから、いきなり、自らの左目、銀の竜玉をえぐり出す。
 驚き、固まるリョクの手に、その石を握らせると、ルカスの口元がわずかに動いた。が、声は出ない。
 サラサラと、その指先から砂のように、ルカスの体が崩れ始める。
 慌てて、リョクのルカスを抱きとめる腕に、さらに力がこもる。その、力が加わった場所から、さらに砂像のように砕け、リョクの前に崩れた砂の山が残された。
 ルカスの体温と体液の残る銀の竜玉を握りしめ、呆然とするリョクの背をディルが抱きしめる。そこへ、マクシミリアンが近づき、砂山の中から大きな石を、ルカスの魔石ブラウンダイヤモンドを拾い上げた。
 それを、リョクに手渡し、そっと、握らせる。
 リョクの瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちた。その、涙を拭うことなく、光竜をにらみつける。
 「なんでこんなひどいコトを!」
 「『ひどい』?
 ソレが望んだ通り、聖女を害するモノをその手で排除できたのに?
 その腕で抱きとめられ、穏やかに眠れたのに?」
 「黙れ『侵略者』!」
 フェンリルが怒鳴りつけた。
 「……我らの介入で神子との今があるというのに」
 「貴様の理論で愛し子を悲しませるな!」
 地の精霊王と鳳凰に、他の精霊王たちと聖獣たちも同調し、2人の竜に敵意を向ける。
 パキパキと、音を立て、壁のレリーフが凍り、ヒビが入る。ドーム全体の温度が急速に下がり始めた。
 フェンリルの吐く冷気に海の精霊が湿気を乗せ、廟全体を空気ごと凍らせ始めたのだ。
 レリーフと同じ、雪の結晶形の氷が、廟内を舞い踊る。
 リョクとディル、マクシミリアンの3人を鳳凰がその大きな翼で包み、冷気を防ぐ。少し離れた場所で、グリフォンがフリートを腹の下に抑え込み、動かない彼を凍結から守っていた。
 光竜の右人差し指の先から炎が上がる。
 結晶柄の氷がその炎に巻かれ、次々に燃え上がった。
 ふぅ と、それを見ていた学園長、黒竜が炎に息を吹きかける。と、炎が銀色の砂になって舞い落ちた。
 間を入れず、ユニコーンが吠えて暴風を起こし、地の精霊がその中へ針状の葉と小枝を混ぜる。
 2体の竜の全身に、みっしりと、細い葉と小枝が突き刺さった。
 竜たちが動きを止める。が、突き刺さったはずのモノ全てが彼らの足元に音を立てて落ちていった。
 何事もなかったように、竜たちが、リョクたちの方へ一歩、踏み出す。
 行く手に立ちふさがったフェンリルとユニコーンが同時に吠え、海の精霊と地の精霊が、同時に力を乗せる。
 冷気の暴風に、鋭く凍った葉と枝が混じり、数倍の威力で竜たちに突き刺さった。
 さすがの竜たちも動きを止める。
 鳳凰の背から、剣に形を変えた尾翼を握りしめ、ディルとマクシミリアンが同時に飛び出した。
 ディルの剣が黒竜の額を、マクシミリアンの剣が光竜の左胸を同時に貫く。
 ガクン と黒竜が膝を着いた。が、光竜は立ったまま睨みつけ、マクシミリアンを片手で鷲掴みにする。
 勢いよく、マクシミリアンごと自らを貫く剣を引き抜き、壁に叩きつけた。
 剣を杖代わりにしてマクシミリアンがヨロヨロと立ち上がり、肩から流血し、激痛が走る左腕をかばうことなく、再び、剣を構える。
 「……ぁが…」
 額に、光竜の額に飛来した剣が刺さり、驚きと痛みで歪んだその口から、うめき声が漏れた。
 黒竜がディルに刺された剣を自ら引き抜き、それを光竜の額めがけて投げ、見事に突き刺したのだ。
 うめき声を上げ続ける光竜の口めがけ、マクシミリアンがもう一度、飛び込み上から突き刺す。それから、マクシミリアンを掴もうとした光竜の右手中指のアレキサンドライトに、血で濡れた左手で触れた。
 赤と緑、青と黄色、あらゆる輝きが混じった強い光が尾翼の剣を媒介にさらに大きな光の剣となり、光竜の全身を貫く。
 マクシミリアンを掴み、引き剥がそうとする光竜の腕を抑えようと、リョクが手を伸ばした。
 血の赤の色をさらに増した光が、廟を包んでいった。
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