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Episode.04
王子の過去
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王子の過去
浄化の旅から帰った第三王子ルカスと聖女の婚約に焦ったのは、第一王子と第二王子の母、正妃だった。
第一王子が王太子として王宮内の立場を固め、第二王子がその補佐と決まってはいたものの、ルカスが聖女との婚姻することによって、王宮内で政治的発言力を持つ事を恐れたのだ。
そもそも、ルカスが騎士として聖女の旅に同行する事さえ異例だった。彼と同等かそれ以上に剣と魔術を使える人材は王国内に多くいたのである。
王宮から追い出し、旅の途中で聖女を守って、とすら王妃は考えていたのだろう。そのための、最小人数での旅だ。実際、聖女にも、もうひとりの騎士にも気づかれなかったが、旅の途中で王妃の刺客に襲われた事が何度もあった。
なんとか、数年がかりの旅を終えて王宮に戻ると、無事の帰城を大いに喜んだ当時の国王が、早々に聖女との婚約を発表してしまう。すると、王妃の工作はあからさまになった。
王妃は政争の具になることを防ぐ、という口実で寄る辺ない聖女を隔離放置し、もう1人の騎士を辺境へ追いやった。目前の脅威がなくなったと判断した王宮の貴族たちも、新たな政敵の登場を良しとはせず、旧来の派閥抗争を再開したのである。その動きに、気づかなかったのも、王妃の横暴を見逃して聖女を守らなかったのも、ヒトの国王が王位を追われた原因となった。
そして、権力はもちろん、何の後ろ盾のない第三王子のルカスには、それどうすることもできなかった。
後の竜王、光竜にルカスが会ったのは、彼と聖女の婚約を祝う式典の前日だった。
聖女召喚の場で、王宮広間の端で同席したルカスと光竜は顔を合わせていた。浄化の旅でも、聖女らと共に助力を得たこともある。そのため、彼は光竜と会うことも、竜が何を求めているかも理解しているつもりだった。
何も持たない自分が差し出せるものは、自身の魔力と身体しかない、そう告げてルカスは光竜に聖女の保護を求めた。それが、間違いだったとは気づかずに。
婚約を祝う式典と盛大なパレードの後、王妃の策略で聖女とルカスは強引に引き離され、再び会うことができなくなった。
1人で居城へ、後の廃棄塔に戻ったルカスの元へ、光竜が現れたのは夜も遅くなった頃。
光竜が示したルカスの希望を飲む条件は一つ、駒となり命令の全てをこなすこと。それは、汚い仕事だと。
従うなら、と光竜は銀色に輝く丸い石を手渡した。光竜の魔力を強く帯びた、竜玉と呼ばれる石。左目を自ら取り出し、これと入れ替えてみろ、と。
ルカスはためらわず、それを実行した。
歯を食いしばり、激痛に耐えるルカスの目の前で、取り出した眼球を光竜が丸飲みする。
それから、光竜はルカスの魔石ブラウンダイヤモンドを手に取った。他にも、色のくすみ始めたエメラルドとサファイアをルカスに見せる。
その、3つの魔石をわかるように咥え、空いた手でルカスの顎を掴んだ。唇を重ね、口移しで無理やり魔石を飲み込ませる。
光竜が手を離すと、ルカスはそのまま崩れ落ちた。
喉元を両手で掻きむしり、激しく咳き込みさらに全身の痛みに苦しみだす。
床をのたうつルカスの左目、眼窩に入れた竜玉が光り始めた。
「私が生きている限り、君は逃れられない
魔石だけで存在し続けるんだよ」
光竜の声はもう、ルカスには届かなかった。
浄化の旅から帰った第三王子ルカスと聖女の婚約に焦ったのは、第一王子と第二王子の母、正妃だった。
第一王子が王太子として王宮内の立場を固め、第二王子がその補佐と決まってはいたものの、ルカスが聖女との婚姻することによって、王宮内で政治的発言力を持つ事を恐れたのだ。
そもそも、ルカスが騎士として聖女の旅に同行する事さえ異例だった。彼と同等かそれ以上に剣と魔術を使える人材は王国内に多くいたのである。
王宮から追い出し、旅の途中で聖女を守って、とすら王妃は考えていたのだろう。そのための、最小人数での旅だ。実際、聖女にも、もうひとりの騎士にも気づかれなかったが、旅の途中で王妃の刺客に襲われた事が何度もあった。
なんとか、数年がかりの旅を終えて王宮に戻ると、無事の帰城を大いに喜んだ当時の国王が、早々に聖女との婚約を発表してしまう。すると、王妃の工作はあからさまになった。
王妃は政争の具になることを防ぐ、という口実で寄る辺ない聖女を隔離放置し、もう1人の騎士を辺境へ追いやった。目前の脅威がなくなったと判断した王宮の貴族たちも、新たな政敵の登場を良しとはせず、旧来の派閥抗争を再開したのである。その動きに、気づかなかったのも、王妃の横暴を見逃して聖女を守らなかったのも、ヒトの国王が王位を追われた原因となった。
そして、権力はもちろん、何の後ろ盾のない第三王子のルカスには、それどうすることもできなかった。
後の竜王、光竜にルカスが会ったのは、彼と聖女の婚約を祝う式典の前日だった。
聖女召喚の場で、王宮広間の端で同席したルカスと光竜は顔を合わせていた。浄化の旅でも、聖女らと共に助力を得たこともある。そのため、彼は光竜と会うことも、竜が何を求めているかも理解しているつもりだった。
何も持たない自分が差し出せるものは、自身の魔力と身体しかない、そう告げてルカスは光竜に聖女の保護を求めた。それが、間違いだったとは気づかずに。
婚約を祝う式典と盛大なパレードの後、王妃の策略で聖女とルカスは強引に引き離され、再び会うことができなくなった。
1人で居城へ、後の廃棄塔に戻ったルカスの元へ、光竜が現れたのは夜も遅くなった頃。
光竜が示したルカスの希望を飲む条件は一つ、駒となり命令の全てをこなすこと。それは、汚い仕事だと。
従うなら、と光竜は銀色に輝く丸い石を手渡した。光竜の魔力を強く帯びた、竜玉と呼ばれる石。左目を自ら取り出し、これと入れ替えてみろ、と。
ルカスはためらわず、それを実行した。
歯を食いしばり、激痛に耐えるルカスの目の前で、取り出した眼球を光竜が丸飲みする。
それから、光竜はルカスの魔石ブラウンダイヤモンドを手に取った。他にも、色のくすみ始めたエメラルドとサファイアをルカスに見せる。
その、3つの魔石をわかるように咥え、空いた手でルカスの顎を掴んだ。唇を重ね、口移しで無理やり魔石を飲み込ませる。
光竜が手を離すと、ルカスはそのまま崩れ落ちた。
喉元を両手で掻きむしり、激しく咳き込みさらに全身の痛みに苦しみだす。
床をのたうつルカスの左目、眼窩に入れた竜玉が光り始めた。
「私が生きている限り、君は逃れられない
魔石だけで存在し続けるんだよ」
光竜の声はもう、ルカスには届かなかった。
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