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Episode.02
魔法学園 学園長
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魔法学園 学園長
証言をした生徒5人を部屋に戻し、騎士団長の2人ボアズとリーリストが雑談のテイで、検証を始めた。
「メリッサ嬢は初顔だな」
「メリッサ・ラシルス
当家息子たちの隣室のお嬢さんです」
「ラシルス?」
聞かない家名だな、とリーリストが手元の書類、学生の出身等が書かれた書類を確認する。
メリッサの欄には、出身・ラシルス村、神子候補、孤児、とあった。
ラシルス村は王国南部沿岸の、かつては対岸の獣人国との貿易で栄えた村。今は、漁業中心の寂れた村だ。
「あぁ、それのあの瞳か」
「知っているのか?」
「あ、いや、書類にはないが、彼女は半獣人だろう
ラシルス村は獣人との交流が盛んだった影響で、獣人の血を引く子どもが多い地域です」
リーリストの説明に、ボアズが納得をする。
獣人の血が濃いほど魔力が高く、ヒトより身体能力の優れた者が多い。
「目星はついたか?」
いつのまにか、2人の後ろに第二騎士団長のコンラートが立っていた。
「そっちこそ、治療は済んだのか?」
ボアズが振り返った。
「私ではなく、学園長閣下が直々に治療を施してくださった
あとはカイル卿次第です」
コンラートが学園内の魔法治療室へ運び込むと、すでに中で学園長が待っていたという。
天井に届くような長身、くるぶしまで伸びる緑がかったストレートの長い黒髪、尖った耳の上には羊のように丸まった白金の角がある。傷ひとつない右角は光を弾いて輝いているが、左角は傷があり、その先端、三分の一ほどがなくなっていた。彼のまとった白いローブからは、翠がかった鱗が頬に残る黒い肌、鱗に覆われた手、鋭く尖った翡翠の爪が見える。
明らかにヒトとは違う姿の男性、彼が魔法学園の学園長、この国を治める竜王の末弟だ。
魔法治療室の中央の床には魔法陣が描かれ、その中央にはベッドが一つだけ置かれている。学園長はコンラートにカイルをそこへ寝かせるように指示をした。
彼は死体とも見紛うようなカイルを一瞥すると、ヒトの頭ほどある大きなオパールのついた魔法杖を掲げる。それから、人語ではない、呪文のような言葉を、歌うようにつぶやいた。
彼の黒い目の瞳が青緑に輝く。呼応して杖のオパールが乳白色に強く光りだした。その輝きが黄色を経て青緑になり、ゆっくりと、液体を垂らしたかのように床の魔法陣に広がり、消えていった。
光がおさまってから、学園長がゆっくりとベッドに近づき、カイルの頬に右手の甲で軽く触れる。
「もう、いいでしょう」
その言葉でコンラートがベッドへ近づくと、カイルが上半身を起こし、激しく咳き込みだした。
そのまま、苦しそうにえずき始める。
「……ぁ が ぇげふっ … ぐぅっ …」
喉の奥から、鶏卵大の白い塊が転がり落ちた。
カイルはそのまま、仰向けにベッドに倒れこむ。
「これは?」
「呪物、ですね」
コンラートより先に、学園長が爪先でそれ拾い上げ、数回振ってから握りつぶした。
どろり と、指の隙間から赤黒いゼリー状の半液体が流れ出す。が、床に落ちる前に砂鉄になり、サラサラと軽く舞い散った。
学園長は両手で砂鉄をはたき落とすと、やっと、コンラートの方へ振り返る。
「あとは任せます」
彼はそのまま魔法治療室をあとにした。
「詳しく調べてみないとわかりませんが」
学園長の治療を簡単に説明した後、そう言って、コンラートは食堂に残された砂鉄の山を見た。ヒト一人分くらいの量が積み上がっている。
「アレは相当長い間取り憑かれていたようです」
「先日の負傷時に仕掛けられたわけではない、と?」
「おそらく」
学園長が吐き出させたあの白い塊がカイルの魔力を使い、全身を覆っていたのだとすれば、砂鉄の量と呪いの期間は比例する。
「となると、襲撃事件自体を根本から調べなおさないといけなくなりますね」
リーリストがボアズとコンラートの会話に割って入った。確かに、事件以前、恐らくはカイルが入学する前からあの白い塊に取り憑かれていたのだとすれば、学園側が張っていた魔法防護壁にも、出入りした他の人物にも問題がなかったことの説明がつく。
「ではなぜ、このタイミングで事件を起こしたのか」
「それは」
ボアズにコンラートが答えかけ、言葉を濁した。代わりに、リーリストが答える。
「それは、聖女様、いや、神子様の目星がついた、ということでしょう」
「最終判断は竜王陛下が下されるでしょうが」
そう言って、コンラートがボアズを見た。
「今回の事件からしても、ネロス伯のご子息が神子である可能性は非常に高いでしょう」
「ああ、つまりコレはその確認のため、ですか」
そう言ってリーリストが砂鉄をすくい上げる。
「フリートが魔石を用意するのも、見越していたか」
ボアズがつぶやいた。それに、コンラートが答える。
「ネロス男爵の代用魔石があれば、神子様の目の前でカイル卿が命を落とすことはなくなります
それが配慮かどうかは、わかりませんが」
一通り、調査が終わった段階で、近衛隊隊長リーリストは1人で先に、王宮へ向かった。
正式な報告は、後日書類にまとめたものを提出する、として、彼は早急に竜王に拝謁するためだ。
竜王は、学園長と正反対の外見をしている。
ヒトには大きすぎる王座に合った長身、床まで広がるウェーブの強いハニーブロンドの髪は自らが光を発しているかのように、白く輝いている。尖った耳の上にはシカのような赤黒い、鋼にも見える角。角と同色のローブからは、白い頬に残った赤みがかった白金の鱗、同色の鱗に覆われた手、先端を丸めた、角と同質の硬く赤黒い爪が見えた。そして、右中指には、かつてヒトの王冠を飾っていた大きなアレキサンドライトが、指輪として収まっている。
彼は赤黒い瞳を細め、眉間にシワを寄せて、リーリストの報告を聞いていた。
「以上です
今後の対応はどういたしましょう」
「弟、学園長は何と?」
「特別な指示はございません」
「では、今まで通りの対応を続けたまえ」
「神子候補については」
「それも、今まで通りに」
竜王はそう言い残し、侍従を連れて席を立つ。
リーリストは頭を深く下げ、その姿を見送った。
証言をした生徒5人を部屋に戻し、騎士団長の2人ボアズとリーリストが雑談のテイで、検証を始めた。
「メリッサ嬢は初顔だな」
「メリッサ・ラシルス
当家息子たちの隣室のお嬢さんです」
「ラシルス?」
聞かない家名だな、とリーリストが手元の書類、学生の出身等が書かれた書類を確認する。
メリッサの欄には、出身・ラシルス村、神子候補、孤児、とあった。
ラシルス村は王国南部沿岸の、かつては対岸の獣人国との貿易で栄えた村。今は、漁業中心の寂れた村だ。
「あぁ、それのあの瞳か」
「知っているのか?」
「あ、いや、書類にはないが、彼女は半獣人だろう
ラシルス村は獣人との交流が盛んだった影響で、獣人の血を引く子どもが多い地域です」
リーリストの説明に、ボアズが納得をする。
獣人の血が濃いほど魔力が高く、ヒトより身体能力の優れた者が多い。
「目星はついたか?」
いつのまにか、2人の後ろに第二騎士団長のコンラートが立っていた。
「そっちこそ、治療は済んだのか?」
ボアズが振り返った。
「私ではなく、学園長閣下が直々に治療を施してくださった
あとはカイル卿次第です」
コンラートが学園内の魔法治療室へ運び込むと、すでに中で学園長が待っていたという。
天井に届くような長身、くるぶしまで伸びる緑がかったストレートの長い黒髪、尖った耳の上には羊のように丸まった白金の角がある。傷ひとつない右角は光を弾いて輝いているが、左角は傷があり、その先端、三分の一ほどがなくなっていた。彼のまとった白いローブからは、翠がかった鱗が頬に残る黒い肌、鱗に覆われた手、鋭く尖った翡翠の爪が見える。
明らかにヒトとは違う姿の男性、彼が魔法学園の学園長、この国を治める竜王の末弟だ。
魔法治療室の中央の床には魔法陣が描かれ、その中央にはベッドが一つだけ置かれている。学園長はコンラートにカイルをそこへ寝かせるように指示をした。
彼は死体とも見紛うようなカイルを一瞥すると、ヒトの頭ほどある大きなオパールのついた魔法杖を掲げる。それから、人語ではない、呪文のような言葉を、歌うようにつぶやいた。
彼の黒い目の瞳が青緑に輝く。呼応して杖のオパールが乳白色に強く光りだした。その輝きが黄色を経て青緑になり、ゆっくりと、液体を垂らしたかのように床の魔法陣に広がり、消えていった。
光がおさまってから、学園長がゆっくりとベッドに近づき、カイルの頬に右手の甲で軽く触れる。
「もう、いいでしょう」
その言葉でコンラートがベッドへ近づくと、カイルが上半身を起こし、激しく咳き込みだした。
そのまま、苦しそうにえずき始める。
「……ぁ が ぇげふっ … ぐぅっ …」
喉の奥から、鶏卵大の白い塊が転がり落ちた。
カイルはそのまま、仰向けにベッドに倒れこむ。
「これは?」
「呪物、ですね」
コンラートより先に、学園長が爪先でそれ拾い上げ、数回振ってから握りつぶした。
どろり と、指の隙間から赤黒いゼリー状の半液体が流れ出す。が、床に落ちる前に砂鉄になり、サラサラと軽く舞い散った。
学園長は両手で砂鉄をはたき落とすと、やっと、コンラートの方へ振り返る。
「あとは任せます」
彼はそのまま魔法治療室をあとにした。
「詳しく調べてみないとわかりませんが」
学園長の治療を簡単に説明した後、そう言って、コンラートは食堂に残された砂鉄の山を見た。ヒト一人分くらいの量が積み上がっている。
「アレは相当長い間取り憑かれていたようです」
「先日の負傷時に仕掛けられたわけではない、と?」
「おそらく」
学園長が吐き出させたあの白い塊がカイルの魔力を使い、全身を覆っていたのだとすれば、砂鉄の量と呪いの期間は比例する。
「となると、襲撃事件自体を根本から調べなおさないといけなくなりますね」
リーリストがボアズとコンラートの会話に割って入った。確かに、事件以前、恐らくはカイルが入学する前からあの白い塊に取り憑かれていたのだとすれば、学園側が張っていた魔法防護壁にも、出入りした他の人物にも問題がなかったことの説明がつく。
「ではなぜ、このタイミングで事件を起こしたのか」
「それは」
ボアズにコンラートが答えかけ、言葉を濁した。代わりに、リーリストが答える。
「それは、聖女様、いや、神子様の目星がついた、ということでしょう」
「最終判断は竜王陛下が下されるでしょうが」
そう言って、コンラートがボアズを見た。
「今回の事件からしても、ネロス伯のご子息が神子である可能性は非常に高いでしょう」
「ああ、つまりコレはその確認のため、ですか」
そう言ってリーリストが砂鉄をすくい上げる。
「フリートが魔石を用意するのも、見越していたか」
ボアズがつぶやいた。それに、コンラートが答える。
「ネロス男爵の代用魔石があれば、神子様の目の前でカイル卿が命を落とすことはなくなります
それが配慮かどうかは、わかりませんが」
一通り、調査が終わった段階で、近衛隊隊長リーリストは1人で先に、王宮へ向かった。
正式な報告は、後日書類にまとめたものを提出する、として、彼は早急に竜王に拝謁するためだ。
竜王は、学園長と正反対の外見をしている。
ヒトには大きすぎる王座に合った長身、床まで広がるウェーブの強いハニーブロンドの髪は自らが光を発しているかのように、白く輝いている。尖った耳の上にはシカのような赤黒い、鋼にも見える角。角と同色のローブからは、白い頬に残った赤みがかった白金の鱗、同色の鱗に覆われた手、先端を丸めた、角と同質の硬く赤黒い爪が見えた。そして、右中指には、かつてヒトの王冠を飾っていた大きなアレキサンドライトが、指輪として収まっている。
彼は赤黒い瞳を細め、眉間にシワを寄せて、リーリストの報告を聞いていた。
「以上です
今後の対応はどういたしましょう」
「弟、学園長は何と?」
「特別な指示はございません」
「では、今まで通りの対応を続けたまえ」
「神子候補については」
「それも、今まで通りに」
竜王はそう言い残し、侍従を連れて席を立つ。
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