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Episode.02

広がる世界

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   広がる世界

 この世界では、1年の始まりは春分の日になる。
 春分の日の翌日が1月1日、1ヶ月は30日で3ヶ月と4日後が夏至、夏至前の3日間は夏至待ちの日と呼ばれている。夏至の翌日が4月1日。3ヶ月と2日後が秋分の日で前1日は秋待ちの日。秋分の日の翌日が7月1日、7、8月は30日あるが冬至は88日後なので、9月は27日しかない。冬至翌日が10月1日で3ヶ月後の12月30日、春分の日の前日が大晦日になる。

 カレンダーを教えられ、この世界も地軸が23.4度傾いていて、文明の基本は農業なのね、と星空を見上げた事を、リョクは思い出していた。

 「今朝は、リョクくん1人?」
 魔法学園に入学して2ヶ月、食堂の窓の外、新緑の眩しさで感慨にふけっていたリョクを、マクシミリアンが現実へ引き戻した。
 初日の夕食後以来、リョクとディルのどちらかを見かける度に、彼は熱心に話しかけてくる。
 「ディルはさっき、実習準備に呼び出されたところです」
 毎日、キラキラの笑顔で話しかけられ、さすがのリョクも逃げ出すことはなくなった。それでも、1人だと引き気味になる。
 「なら、君と……」
 「リョクくーん、一緒に行こー」
 わざとらしく、メリッサがマクシミリアンの言葉を遮った。
 ニカニカとリョクのトレーを持ち、ウィンクして彼女はそのままリョクを連れ去ってゆく。
 「……ディルくんに頼まれているのよ……」
 小声で、リョクに囁いた。

 「取られちゃいましたねー」
 独り残されたマクシミリアンに、カイルが後ろから声をかける。
 「返事をしてくれるようになっただけ、進歩したとは思います」
 いつものようにメルナがフォローに入る。
 ここ数日、彼は、ディルよりリョクに接近しようとしているように見えた。マクシミリアンは外堀を埋めようとしている、とカイルをメルナは考えている。さらにそれを察知して防ぐため、ディルはメリッサにリョクとの護衛を頼んでいるのだろう、と。

 午前の座学は、一般生徒も神子候補も一緒に、一番広い講堂で受ける。
 講師が現れる直前、リョクの横、メリッサの反対側にディルが座った。ここしばらくは、そのまま3人で行動することが多い。
 「忙しそうね」
 リョク越しに、メリッサがディル話しかけた。
 「オカゲサマで」
 まだ、魔法学園で学び始めて2ヶ月だが、成績優秀なディルは講師らに度々呼び出されていた。
 呼び出しの目的は特に意味はない、ディルに言わせれば、神子の可能性が一番高く、有力貴族であるネロス家とのつながりを強固にしたいだけ、だそうだ。

 穏やかな学園生活が続いた、夏至待ちの日前日。
 夏というにはまだ早い午後、事件が発覚した。

 メルナは、朝から姿を見せないカイルを探していた。
 昼過ぎになって、彼女は湖を挟んだ寮の反対側、森の外れで、血まみれで倒れるカイルを発見した。
 両手両足の骨折、左目の失明、大量の出血。もう少し発見が遅れ、学園の国内最高の白魔術師の治療がなければ、まず助からなかっただろう。しかも彼の魔石、エメラルドも紛失している。
 彼の被害は、調査を行う騎士団には見覚えがあった。
 以前、王都に向かう神子候補と護衛騎士が殺害された時の、1人生き残った騎士と全く同じ怪我。

 カイルが意識を取り戻したのは翌朝だった。
 彼の証言によると、マクシミリアンの名を語って呼び出されたところを襲われたのだという。

 探し物がある、と、カイルがマクシミリアンに呼び出されたのは、日の出直前。ノックに気づいて、ドアを開けると、時間と場所、目的を記したメモが置いてあった。主従関係であるとはいえ、マクシミリアンは気まぐれで非常識な時間に他者を呼び出すようなことはしない。なので、疑問を持ったものの、急ぎだろうと素直に従った。
 メモには、実習中に森で紛失したものがある、土属性で植物を操れるカイルなら、すぐに発見できるだろう、自分は後から、いつものように下級生に会ってから向かう、と書いてあった。
 もちろん、マクシミリアンはそのような呼び出しはしていないという。が、検証しようにも、なぜか、メモは消えて無くなっていた。

 襲った相手についても、何一つわからなかった。
 カイルは、背後から襲われて一撃で気を失ったため、姿も何も見ていない、と証言した。騎士団の調査でも、襲撃犯の痕跡を発見できていない。
 今わかっているのは、痕跡を消すのには土魔法が使われたていた、ということだけ。しかも、その魔法にはカイルの魔石、エメラルドが使われていた。

 授業が中止になり、調査のために騎士団が出入りをする事態に、学園は騒然となっていた。
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