7 / 13
Episode.02
広がる世界
しおりを挟む
広がる世界
この世界では、1年の始まりは春分の日になる。
春分の日の翌日が1月1日、1ヶ月は30日で3ヶ月と4日後が夏至、夏至前の3日間は夏至待ちの日と呼ばれている。夏至の翌日が4月1日。3ヶ月と2日後が秋分の日で前1日は秋待ちの日。秋分の日の翌日が7月1日、7、8月は30日あるが冬至は88日後なので、9月は27日しかない。冬至翌日が10月1日で3ヶ月後の12月30日、春分の日の前日が大晦日になる。
カレンダーを教えられ、この世界も地軸が23.4度傾いていて、文明の基本は農業なのね、と星空を見上げた事を、リョクは思い出していた。
「今朝は、リョクくん1人?」
魔法学園に入学して2ヶ月、食堂の窓の外、新緑の眩しさで感慨にふけっていたリョクを、マクシミリアンが現実へ引き戻した。
初日の夕食後以来、リョクとディルのどちらかを見かける度に、彼は熱心に話しかけてくる。
「ディルはさっき、実習準備に呼び出されたところです」
毎日、キラキラの笑顔で話しかけられ、さすがのリョクも逃げ出すことはなくなった。それでも、1人だと引き気味になる。
「なら、君と……」
「リョクくーん、一緒に行こー」
わざとらしく、メリッサがマクシミリアンの言葉を遮った。
ニカニカとリョクのトレーを持ち、ウィンクして彼女はそのままリョクを連れ去ってゆく。
「……ディルくんに頼まれているのよ……」
小声で、リョクに囁いた。
「取られちゃいましたねー」
独り残されたマクシミリアンに、カイルが後ろから声をかける。
「返事をしてくれるようになっただけ、進歩したとは思います」
いつものようにメルナがフォローに入る。
ここ数日、彼は、ディルよりリョクに接近しようとしているように見えた。マクシミリアンは外堀を埋めようとしている、とカイルをメルナは考えている。さらにそれを察知して防ぐため、ディルはメリッサにリョクとの護衛を頼んでいるのだろう、と。
午前の座学は、一般生徒も神子候補も一緒に、一番広い講堂で受ける。
講師が現れる直前、リョクの横、メリッサの反対側にディルが座った。ここしばらくは、そのまま3人で行動することが多い。
「忙しそうね」
リョク越しに、メリッサがディル話しかけた。
「オカゲサマで」
まだ、魔法学園で学び始めて2ヶ月だが、成績優秀なディルは講師らに度々呼び出されていた。
呼び出しの目的は特に意味はない、ディルに言わせれば、神子の可能性が一番高く、有力貴族であるネロス家とのつながりを強固にしたいだけ、だそうだ。
穏やかな学園生活が続いた、夏至待ちの日前日。
夏というにはまだ早い午後、事件が発覚した。
メルナは、朝から姿を見せないカイルを探していた。
昼過ぎになって、彼女は湖を挟んだ寮の反対側、森の外れで、血まみれで倒れるカイルを発見した。
両手両足の骨折、左目の失明、大量の出血。もう少し発見が遅れ、学園の国内最高の白魔術師の治療がなければ、まず助からなかっただろう。しかも彼の魔石、エメラルドも紛失している。
彼の被害は、調査を行う騎士団には見覚えがあった。
以前、王都に向かう神子候補と護衛騎士が殺害された時の、1人生き残った騎士と全く同じ怪我。
カイルが意識を取り戻したのは翌朝だった。
彼の証言によると、マクシミリアンの名を語って呼び出されたところを襲われたのだという。
探し物がある、と、カイルがマクシミリアンに呼び出されたのは、日の出直前。ノックに気づいて、ドアを開けると、時間と場所、目的を記したメモが置いてあった。主従関係であるとはいえ、マクシミリアンは気まぐれで非常識な時間に他者を呼び出すようなことはしない。なので、疑問を持ったものの、急ぎだろうと素直に従った。
メモには、実習中に森で紛失したものがある、土属性で植物を操れるカイルなら、すぐに発見できるだろう、自分は後から、いつものように下級生に会ってから向かう、と書いてあった。
もちろん、マクシミリアンはそのような呼び出しはしていないという。が、検証しようにも、なぜか、メモは消えて無くなっていた。
襲った相手についても、何一つわからなかった。
カイルは、背後から襲われて一撃で気を失ったため、姿も何も見ていない、と証言した。騎士団の調査でも、襲撃犯の痕跡を発見できていない。
今わかっているのは、痕跡を消すのには土魔法が使われたていた、ということだけ。しかも、その魔法にはカイルの魔石、エメラルドが使われていた。
授業が中止になり、調査のために騎士団が出入りをする事態に、学園は騒然となっていた。
この世界では、1年の始まりは春分の日になる。
春分の日の翌日が1月1日、1ヶ月は30日で3ヶ月と4日後が夏至、夏至前の3日間は夏至待ちの日と呼ばれている。夏至の翌日が4月1日。3ヶ月と2日後が秋分の日で前1日は秋待ちの日。秋分の日の翌日が7月1日、7、8月は30日あるが冬至は88日後なので、9月は27日しかない。冬至翌日が10月1日で3ヶ月後の12月30日、春分の日の前日が大晦日になる。
カレンダーを教えられ、この世界も地軸が23.4度傾いていて、文明の基本は農業なのね、と星空を見上げた事を、リョクは思い出していた。
「今朝は、リョクくん1人?」
魔法学園に入学して2ヶ月、食堂の窓の外、新緑の眩しさで感慨にふけっていたリョクを、マクシミリアンが現実へ引き戻した。
初日の夕食後以来、リョクとディルのどちらかを見かける度に、彼は熱心に話しかけてくる。
「ディルはさっき、実習準備に呼び出されたところです」
毎日、キラキラの笑顔で話しかけられ、さすがのリョクも逃げ出すことはなくなった。それでも、1人だと引き気味になる。
「なら、君と……」
「リョクくーん、一緒に行こー」
わざとらしく、メリッサがマクシミリアンの言葉を遮った。
ニカニカとリョクのトレーを持ち、ウィンクして彼女はそのままリョクを連れ去ってゆく。
「……ディルくんに頼まれているのよ……」
小声で、リョクに囁いた。
「取られちゃいましたねー」
独り残されたマクシミリアンに、カイルが後ろから声をかける。
「返事をしてくれるようになっただけ、進歩したとは思います」
いつものようにメルナがフォローに入る。
ここ数日、彼は、ディルよりリョクに接近しようとしているように見えた。マクシミリアンは外堀を埋めようとしている、とカイルをメルナは考えている。さらにそれを察知して防ぐため、ディルはメリッサにリョクとの護衛を頼んでいるのだろう、と。
午前の座学は、一般生徒も神子候補も一緒に、一番広い講堂で受ける。
講師が現れる直前、リョクの横、メリッサの反対側にディルが座った。ここしばらくは、そのまま3人で行動することが多い。
「忙しそうね」
リョク越しに、メリッサがディル話しかけた。
「オカゲサマで」
まだ、魔法学園で学び始めて2ヶ月だが、成績優秀なディルは講師らに度々呼び出されていた。
呼び出しの目的は特に意味はない、ディルに言わせれば、神子の可能性が一番高く、有力貴族であるネロス家とのつながりを強固にしたいだけ、だそうだ。
穏やかな学園生活が続いた、夏至待ちの日前日。
夏というにはまだ早い午後、事件が発覚した。
メルナは、朝から姿を見せないカイルを探していた。
昼過ぎになって、彼女は湖を挟んだ寮の反対側、森の外れで、血まみれで倒れるカイルを発見した。
両手両足の骨折、左目の失明、大量の出血。もう少し発見が遅れ、学園の国内最高の白魔術師の治療がなければ、まず助からなかっただろう。しかも彼の魔石、エメラルドも紛失している。
彼の被害は、調査を行う騎士団には見覚えがあった。
以前、王都に向かう神子候補と護衛騎士が殺害された時の、1人生き残った騎士と全く同じ怪我。
カイルが意識を取り戻したのは翌朝だった。
彼の証言によると、マクシミリアンの名を語って呼び出されたところを襲われたのだという。
探し物がある、と、カイルがマクシミリアンに呼び出されたのは、日の出直前。ノックに気づいて、ドアを開けると、時間と場所、目的を記したメモが置いてあった。主従関係であるとはいえ、マクシミリアンは気まぐれで非常識な時間に他者を呼び出すようなことはしない。なので、疑問を持ったものの、急ぎだろうと素直に従った。
メモには、実習中に森で紛失したものがある、土属性で植物を操れるカイルなら、すぐに発見できるだろう、自分は後から、いつものように下級生に会ってから向かう、と書いてあった。
もちろん、マクシミリアンはそのような呼び出しはしていないという。が、検証しようにも、なぜか、メモは消えて無くなっていた。
襲った相手についても、何一つわからなかった。
カイルは、背後から襲われて一撃で気を失ったため、姿も何も見ていない、と証言した。騎士団の調査でも、襲撃犯の痕跡を発見できていない。
今わかっているのは、痕跡を消すのには土魔法が使われたていた、ということだけ。しかも、その魔法にはカイルの魔石、エメラルドが使われていた。
授業が中止になり、調査のために騎士団が出入りをする事態に、学園は騒然となっていた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!
りーさん
ファンタジー
ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。
でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。
こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね!
のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!
明衣令央
ファンタジー
糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。
一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。
だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。
そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。
この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。
2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~
ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉
攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。
私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。
美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~!
【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避
【2章】王国発展・vs.ヒロイン
【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。
※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。
※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差)
ブログ https://tenseioujo.blogspot.com/
Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/
※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。
前世で家族に恵まれなかった俺、今世では優しい家族に囲まれる 俺だけが使える氷魔法で異世界無双
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
家族や恋人もいなく、孤独に過ごしていた俺は、ある日自宅で倒れ、気がつくと異世界転生をしていた。
神からの定番の啓示などもなく、戸惑いながらも優しい家族の元で過ごせたのは良かったが……。
どうやら、食料事情がよくないらしい。
俺自身が美味しいものを食べたいし、大事な家族のために何とかしないと!
そう思ったアレスは、あの手この手を使って行動を開始するのだった。
これは孤独だった者が家族のために奮闘したり、時に冒険に出たり、飯テロしたり、もふもふしたりと……ある意味で好き勝手に生きる物語。
しかし、それが意味するところは……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる