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第2章 円盤の世界
第9話 塔の衛士
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視線の先に抜いた剣の刀身がある──。
そこに映る切れ目だが優しさに溢れた男と目が合った。自分で言っていて恥ずかしくなるが──いい男だ。
それがわかっただけでも万事屋に来たかいがある。
「それにするのかい?」
後ろからおやじの声がする。剣を鞘にしまい、自画自賛の気持ちもしまう。
「はい」
「その剣か……いい剣のはずなんだが、うまく扱えるやつがいなくてねぇ。なんか剣に振り回されるとかで、なかなか固定の使い手が現れなくて困っていたんだよ。あんたが最後の使い手になるといいんだがね」
「そうなんですね。大丈夫です、大事にします」
そう言ったとき、嬉しそうに剣が鳴った気がした。
「全部で4万は欲しいところだが3万8千バールでいい。その剣、頼むな」
そう言っておやじは俺の肩に手を置いて、優しい目をした。
俺は金を払って、外に出る。
「お、来た来たって、随分雰囲気変わったね──」
「そう?」
「えぇ、なんていうか……前以上に素敵になりました……正直びっくりです。茶色い髪に白い服、いい感じに色を組み合わせましたね」
急に言葉が丁寧になった。自分の見た目を見たことによって自信というか、オーラが出始めたのだと思う。人生、自分がどう感じるかが大事、そう思ってしまう。
「じゃあいきましょうか」
宿に戻ると、残りのメンバーが昼食をとっていた。そんなに時間がかかったつもりはなかったのだが、いい時間になっていたようだ。
「レミールか。装備はって、随分雰囲気変わったな……」
ロアさんまでそういうことを言う。
「そうでしょうか?」
俺を見る目が皆、変わっている。見た目以外何も変わっていないはずなのだが皆が俺を見る目は頼りない男から、使える男にかわったのかもしれない。
「さぁ、飯食え。それから衛士のところに行くぞ」
「はい」
そういって、席に着いた。昼飯は朝飯と似たようなものだったが、生地の上に載っている具材が変わっていた。
──昼食後、ロアさんがおもむろに立ち上がった。
「レミール行くぞ」
「そうですね。お願いします」
既に塔の衛士と問題を起こしているとはとてもじゃないが言えない。彼女から返事はなく、歩き出した。俺はそれに続く。
──彼女についていくと、塔を取り囲む壁の所にたどり着いた。その中のどこかを目指しているらしい。
それにしても、さっきからすれ違う塔の衛士の女性方だろうか、ちらちらというレベルを超える視線を受ける。
まさか、昨日の事件が尾を引いているのか──そう思うとこの作戦は失敗なのかもしれない。
いろいろ考えているうちに、ロアさんがある部屋の中に入っていった。俺もそれに続く。
「下層民のロアだ。こいつはレミール。下層民じゃないが、塔を登る許可証を貰いたい」
「ロアさん……簡単に言いますが下層民と下層民以外が組むことはほとんどないんですが」
「そうかもしれないが、いいだろ。なんか問題があるのか?」
「いえ、男性側が問題ないならいいんですが……」
2人の視線がこちらを向く。周りの女性方もこちらを向いているような気もする。
「問題ない」
目の前の2人以外の女性方からなんか吐息みたいな、不思議な息遣いが聞こえた。なんだ、これは?
「な? だからいいだろ?」
「えぇ……レミールさんは下層民以外が塔を登る危険性についてはご存じですか?」
「いえ」
「そうですか……」
落胆に近い驚きを見せた後、こう続けた。
「万が一、塔の中で命を落とされた場合、塔にその体を乗っ取られ、塔の外で暴れまわるのです」
「それはそれは。ご忠告ありがとうございます。用心しなければいけませんね」
「……普通の人なら、ここですくみ上るのですが。だって、怖くないですか? 死んだ後、生前の記憶を持ったままの体を塔が悪用するとかぞっとしませんか?」
「死ぬ予定はないので大丈夫です」
それは本当のことだ。俺は自分が何者か、わかるまでは死ねないんだ。
『サポートがありますから、死ぬことはありませんね。仲間については保証対象外ですが、ね』
『皆、それくらいの覚悟はあるだろう。自分のことだけ考えていれば今はいい』
当然、この声は誰にも聞こえていない
「なので、許可証を貰えますか?」
「はい……こちらに名前等、記入をお願いします」
記入を終え、渡す。
「では許可証を作成しますので少々お待ちください。手数料200バール頂きます」
手数料を払う。昨日、みっともなくお金を拾っておいて良かった、本当にそう思う。
──しばらく待つと、許可証なのだろうか、棒状のものをもってきてくれた。
「これが許可証です。塔に入るときは、門で渡してください。それによって塔に入ったことを把握してます。塔を出るときも同じようにお願いします」
「わかりました。そののっとり状態になっているかどうかの判断に使ったりするのですね?」
「その通りです。その状態を 再来者と呼んでいます。塔に入った後、30日以上塔から出られた形跡がない場合、リベンジャー扱いになるのでご注意ください」
「はい。気をつけます」
「よしっ問題なく、許可証が手に入ったし戻るぞっ」
──道中、特に話したりことは無かったが宿に戻り、皆と合流するとロアさんが話を始める。
「レミールの許可証が手に入った。明日から塔に入るぞ」
皆、無言でうなずいた。
「まずはレミールの肩慣らしから始める──」
「よろしくお願いします」
俺は頭を下げた。
「レミール、お前の役割は第一に死なないこと。第二に負傷しないこと。そして、宝箱を開けることだ」
「前に出て戦わなきゃいけない割に役割が重いですね。まぁでも、腕には自信がありますから。それは大丈夫ですが、宝箱は? 他の人が開けてもいいのでは?」
「──ったく。何にも知らねぇな、おい。宝箱は下層民には開けられないんだよ。あたいらみたいなアークから見放された民にやるものは無いってさ」
──なるほど。下層民だけのチームだと宝物を逃してしまう可能性があるのか。
「それだけなら、もっと、俺たちみたいな混合チームがあってもいいと思うのですが──」
「仲間割れ──」
突然、弓使いのレナさんがぼそっと言った。これ以上、踏み込むべきではない。そう予感させるのに十分な空気に一瞬で変わってしまった。
「そういうことだ。あたいらを信じろとは言わねぇ。だけど、あたいらもあんたを完全には信じられねぇ。それだけは覚えておけ」
「……はい」
俺は塔を登りたい、そして自分が誰なのか知りたい。後ろから刺されるとはないと思うが、今それを言ったところで状況がよくなるわけではないだろう。それはいつか話すことしよう。
「それじゃあな。明日の日の出前には出るぞっ。いいな」
ロアさんは皆の顔を眺めた。
「よしっ、解散。各自の準備を始めろ」
そして、タルボさん以外を残して皆外出していった。
「ロアはああ言ってたけど、あたしはレミールを信じてる」
「ありがとう」
タルボさんはそう言って俺の手を優しく握ってくれた。
「ところで準備は? 終わったの?」
「何を準備すればいいかわからなくて……」
「……レミールって今までどうやって生きてきたのか本当に不思議で仕方がないわね」
「なんとなくで、なんとかなってましたので──」
「ふーん。なら携帯食料、水、薬、手入れ道具。そのあたりかしら」
考えればわかるようなものばかりだった。
「それはどこで買える?」
「じっつは~、ここで買えます~」
時より見せる女性の可愛らしさを見せながら、教えてくれた。
「50バールになります~」
と嬉しそうに握った手を擦る……。お金が必要なんだろう。素直に払った。
「でもレミールのそのポケットって不思議ね。お金がいくらでも湧いてくるような気がしてならないわ」
「──っ」
若干、痛いところを突かれた。女性の観察眼は伊達じゃないな、気をつけないと。
「でも、もうあまり無いから頑張って稼がないと」
「はいはい、がんばって~」
そう言うと、彼女は手を放しどこかへ行ってしまった。
日はまだ高い。自己鍛錬も悪くはないが、もう少し街をうろつこうか。
そこに映る切れ目だが優しさに溢れた男と目が合った。自分で言っていて恥ずかしくなるが──いい男だ。
それがわかっただけでも万事屋に来たかいがある。
「それにするのかい?」
後ろからおやじの声がする。剣を鞘にしまい、自画自賛の気持ちもしまう。
「はい」
「その剣か……いい剣のはずなんだが、うまく扱えるやつがいなくてねぇ。なんか剣に振り回されるとかで、なかなか固定の使い手が現れなくて困っていたんだよ。あんたが最後の使い手になるといいんだがね」
「そうなんですね。大丈夫です、大事にします」
そう言ったとき、嬉しそうに剣が鳴った気がした。
「全部で4万は欲しいところだが3万8千バールでいい。その剣、頼むな」
そう言っておやじは俺の肩に手を置いて、優しい目をした。
俺は金を払って、外に出る。
「お、来た来たって、随分雰囲気変わったね──」
「そう?」
「えぇ、なんていうか……前以上に素敵になりました……正直びっくりです。茶色い髪に白い服、いい感じに色を組み合わせましたね」
急に言葉が丁寧になった。自分の見た目を見たことによって自信というか、オーラが出始めたのだと思う。人生、自分がどう感じるかが大事、そう思ってしまう。
「じゃあいきましょうか」
宿に戻ると、残りのメンバーが昼食をとっていた。そんなに時間がかかったつもりはなかったのだが、いい時間になっていたようだ。
「レミールか。装備はって、随分雰囲気変わったな……」
ロアさんまでそういうことを言う。
「そうでしょうか?」
俺を見る目が皆、変わっている。見た目以外何も変わっていないはずなのだが皆が俺を見る目は頼りない男から、使える男にかわったのかもしれない。
「さぁ、飯食え。それから衛士のところに行くぞ」
「はい」
そういって、席に着いた。昼飯は朝飯と似たようなものだったが、生地の上に載っている具材が変わっていた。
──昼食後、ロアさんがおもむろに立ち上がった。
「レミール行くぞ」
「そうですね。お願いします」
既に塔の衛士と問題を起こしているとはとてもじゃないが言えない。彼女から返事はなく、歩き出した。俺はそれに続く。
──彼女についていくと、塔を取り囲む壁の所にたどり着いた。その中のどこかを目指しているらしい。
それにしても、さっきからすれ違う塔の衛士の女性方だろうか、ちらちらというレベルを超える視線を受ける。
まさか、昨日の事件が尾を引いているのか──そう思うとこの作戦は失敗なのかもしれない。
いろいろ考えているうちに、ロアさんがある部屋の中に入っていった。俺もそれに続く。
「下層民のロアだ。こいつはレミール。下層民じゃないが、塔を登る許可証を貰いたい」
「ロアさん……簡単に言いますが下層民と下層民以外が組むことはほとんどないんですが」
「そうかもしれないが、いいだろ。なんか問題があるのか?」
「いえ、男性側が問題ないならいいんですが……」
2人の視線がこちらを向く。周りの女性方もこちらを向いているような気もする。
「問題ない」
目の前の2人以外の女性方からなんか吐息みたいな、不思議な息遣いが聞こえた。なんだ、これは?
「な? だからいいだろ?」
「えぇ……レミールさんは下層民以外が塔を登る危険性についてはご存じですか?」
「いえ」
「そうですか……」
落胆に近い驚きを見せた後、こう続けた。
「万が一、塔の中で命を落とされた場合、塔にその体を乗っ取られ、塔の外で暴れまわるのです」
「それはそれは。ご忠告ありがとうございます。用心しなければいけませんね」
「……普通の人なら、ここですくみ上るのですが。だって、怖くないですか? 死んだ後、生前の記憶を持ったままの体を塔が悪用するとかぞっとしませんか?」
「死ぬ予定はないので大丈夫です」
それは本当のことだ。俺は自分が何者か、わかるまでは死ねないんだ。
『サポートがありますから、死ぬことはありませんね。仲間については保証対象外ですが、ね』
『皆、それくらいの覚悟はあるだろう。自分のことだけ考えていれば今はいい』
当然、この声は誰にも聞こえていない
「なので、許可証を貰えますか?」
「はい……こちらに名前等、記入をお願いします」
記入を終え、渡す。
「では許可証を作成しますので少々お待ちください。手数料200バール頂きます」
手数料を払う。昨日、みっともなくお金を拾っておいて良かった、本当にそう思う。
──しばらく待つと、許可証なのだろうか、棒状のものをもってきてくれた。
「これが許可証です。塔に入るときは、門で渡してください。それによって塔に入ったことを把握してます。塔を出るときも同じようにお願いします」
「わかりました。そののっとり状態になっているかどうかの判断に使ったりするのですね?」
「その通りです。その状態を 再来者と呼んでいます。塔に入った後、30日以上塔から出られた形跡がない場合、リベンジャー扱いになるのでご注意ください」
「はい。気をつけます」
「よしっ問題なく、許可証が手に入ったし戻るぞっ」
──道中、特に話したりことは無かったが宿に戻り、皆と合流するとロアさんが話を始める。
「レミールの許可証が手に入った。明日から塔に入るぞ」
皆、無言でうなずいた。
「まずはレミールの肩慣らしから始める──」
「よろしくお願いします」
俺は頭を下げた。
「レミール、お前の役割は第一に死なないこと。第二に負傷しないこと。そして、宝箱を開けることだ」
「前に出て戦わなきゃいけない割に役割が重いですね。まぁでも、腕には自信がありますから。それは大丈夫ですが、宝箱は? 他の人が開けてもいいのでは?」
「──ったく。何にも知らねぇな、おい。宝箱は下層民には開けられないんだよ。あたいらみたいなアークから見放された民にやるものは無いってさ」
──なるほど。下層民だけのチームだと宝物を逃してしまう可能性があるのか。
「それだけなら、もっと、俺たちみたいな混合チームがあってもいいと思うのですが──」
「仲間割れ──」
突然、弓使いのレナさんがぼそっと言った。これ以上、踏み込むべきではない。そう予感させるのに十分な空気に一瞬で変わってしまった。
「そういうことだ。あたいらを信じろとは言わねぇ。だけど、あたいらもあんたを完全には信じられねぇ。それだけは覚えておけ」
「……はい」
俺は塔を登りたい、そして自分が誰なのか知りたい。後ろから刺されるとはないと思うが、今それを言ったところで状況がよくなるわけではないだろう。それはいつか話すことしよう。
「それじゃあな。明日の日の出前には出るぞっ。いいな」
ロアさんは皆の顔を眺めた。
「よしっ、解散。各自の準備を始めろ」
そして、タルボさん以外を残して皆外出していった。
「ロアはああ言ってたけど、あたしはレミールを信じてる」
「ありがとう」
タルボさんはそう言って俺の手を優しく握ってくれた。
「ところで準備は? 終わったの?」
「何を準備すればいいかわからなくて……」
「……レミールって今までどうやって生きてきたのか本当に不思議で仕方がないわね」
「なんとなくで、なんとかなってましたので──」
「ふーん。なら携帯食料、水、薬、手入れ道具。そのあたりかしら」
考えればわかるようなものばかりだった。
「それはどこで買える?」
「じっつは~、ここで買えます~」
時より見せる女性の可愛らしさを見せながら、教えてくれた。
「50バールになります~」
と嬉しそうに握った手を擦る……。お金が必要なんだろう。素直に払った。
「でもレミールのそのポケットって不思議ね。お金がいくらでも湧いてくるような気がしてならないわ」
「──っ」
若干、痛いところを突かれた。女性の観察眼は伊達じゃないな、気をつけないと。
「でも、もうあまり無いから頑張って稼がないと」
「はいはい、がんばって~」
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