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「来てもらったのは・・・ライラが私の元に嫁いできた時の持参金と宝石類を渡すためだ」

あの日ミラを助け出した時、確かに着の身着のまま何も持ち出すことなく連れ出した。
一刻も早く使用人でも住まない小屋から救い出したかったからだ。

「ライラには私の与えた物だけを身に付けさせた。王家から持ってきた物は何ひとつ手付かずだ。全て私には必要ない物だから持って行け」

気分が悪い・・・
面倒くさそうに、忌々しいと言わんばかりの態度は。
久しぶりに会ったミラに"元気だったか?""あの時はすまなかった"とか先に言うべき事があるんじゃないのか?

「・・・そうですか。分かりました・・・お母様の物でが必要ないと言うならば頂いていきます。・・・話しはそれだけでしたら、これでお暇させていただきます」

「ああ、これっきりだ二度と会う気はない」

これが父親か?
実の娘に言う言葉か?
ミラが可愛くなかったのか?
ライラ叔母上の忘れ形見だぞ?
グッと言いたいことは限りなくあるが飲み込んだ。

すっと立ち上がって綺麗な礼をしたミラは真っ直ぐに出口の扉に向かった。それに続いて俺も後を追う。

エントランスを出て玄関の前で待たせていた馬車にミラを乗せた。
ミラを見る限り傷ついた様子を見せない。
こんな時に無理をしなくても・・・と思った。
  
「忘れ物をしたようだ。少しだけ待っていて」

「分かったわ。なるべく早くね」

馬車のドアを閉めて俺は急いで見送りに出ていた執事に応接間まで案内させた。

「まだ何か?」

戻ってきた俺に煩わしいと言わんばかりの態度だ。

「ひとつだ聞かせてくれ。・・・お前にとってミラはどんな存在だ?実娘が可愛くなかったのか?大切ではなかったのか?」

「ふんっ、何かと思えばそんな事が聞きたかったのか?」

俺の質問がおかしいのか鼻で笑ったあとあの王妃を彷彿とさせる言葉を発した。

は私のじゃないからな。ライラを失った私には似ているだけのは忌々しい偽物でしかない。血の繋がり?そんな物が何になる?私の愛はすべてライラに与えた・・・私にはライラがすべてだった。・・・君は私のようにはなるな」

もうこれ以上聞きたいことはない。

「俺はアンタのようにはならない。俺には大切な者が、守りたい者がたくさんいる。・・・ミラは俺が、俺が幸せにする」

軽く下げるだけの挨拶をしてミラの待つ馬車に戻った。

「おかえりなさい。忘れ物は見つかった?」

そんな笑顔を作らないでくれ。

「ミラ俺の前では無理をするな」

前回はともかく、今回のミラは口に出したことはないがずっと父親を愛していた。と、思う。

ライラ叔母上が生きていた時、ボイル侯爵家に遊びに行っていた幼い頃。
俺と過ごしていても父親を見つけるとすぐに駆け出して抱っこのお強請りをしていた。
『ミラねお父様がだ~い好き』と、いつも言うからヤキモチばかり焼いていた記憶がある。
あの時のボイル氏の笑顔も偽りだったのだろうか?

ミラにはボイル子爵との会話を聞かせる気はない。

「うん・・・最後まであの人に私は見えていなかったね。・・・はぁ~スッキリした!今日であの人への未練を断ち切れたと思うわ!」

「そうか・・・帰ろうか、俺たちの家へ」

「うん!帰ろう!」

ミラは見た目よりも強い。

吹っ切れた顔をしたミラにそっとキスをした。

いよいよ、明後日は長く待ち続けた俺たちの結婚式だ。
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