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卒業式は可もなく不可もなく淡々と終了した。

その後に行われた卒業パーティーではミラをエスコートした。
もちろんファーストダンスはミラと踊った。
最後の思い出にと誘ってくる令嬢には丁寧にお断りさせてもらった。
ミラを誘おうとする子息たちにも近付いてくる気配を感じれば視線だけでした。
ミラの側を離れるわけにはいかなかったからだ。
ちょうど一年前の卒業パーティーでミラを攫われた。これはミラ本人よりも俺のトラウマになってしまったようだ。
怖くて離れられない。
しっかりミラの腰を抱いて一秒たりとも気を抜かない。
それを表に出したつもりはなかったが、ミラには伝わっていたようで困ったような、呆れたような顔で眉を下げて微笑んでいた。

独占欲が強くてごめんな。
ミラを失うかもしれないあの恐怖は二度とごめんだ。

ピッタリとミラから離れないとはいえ友人たちとはセナも交えて楽しく談笑した。
コイツも3年間世話になったな。
明日のボイル子爵との面会にもローガンと付いてくる。
俺とミラの結婚式が終わったら休暇を与える予定だ。

無事何事もなく邸に着いた時は、父上と母上が迎えに出てきた。
馬車から降りたミラを見た2人がそっと安心したようにため息を吐いた。
この日は明日に備えて早々にベッドに入った。



朝食の席でもまだボイル子爵と会わせたくない母上がブツブツ言っていたがミラの「お義母様これが最後です。お別れだけ言ってすぐに帰ってきますね。私の帰る場所はここティタニア公爵家ですから」の一言で何とか送り出してくれた。


教えられた住所は当然だが、ミラの生家ではなかった。

門を潜るとすぐに大きいとは言えない建物が見えてきた。
玄関の前では執事らしき人物がピシッとした姿勢で出迎えてくれた。

「・・・ライラ奥様」

またコイツもライラか・・・確かに記憶にあるライラ叔母上とミラは見た目は似ているが、仕草も雰囲気もまったく違う。

「久しぶねジェイムス」

「お、お久しぶりでございます。お嬢様。ティタニア様もようこそお越しくださいました」

さすが元ボイル侯爵家の執事だ、何事も無かったように綺麗な礼をする。

「ああ、それよりも早く案内してくれ。用件が済んだらすぐに帰る」

邸に一歩入ると、寂れている訳でもないのに寂しい印象を受けた。
通された応接室は落ち着いた雰囲気の部屋だった。
2人がけのソファに並んで座ってボイル子爵を待つ間にお茶菓子が用意されて、そのままメイドは何も言わず退室して行った。

隣に座るミラに緊張した様子はない。
いったい何の話があるのか・・・まさか今さらミラを返せとは言わないよな?

「ミラ、何か言われても気にするなよ?話が終わったらすぐに帰ろうな?」

「うん。大丈夫だよ。私にはデュークがいるもの」

微笑んで俺の肩に頭を寄せてくるミラが可愛い。
危ない危ないこんな場所でなければ抱きしめていた。
我慢だ俺!
その我慢も明後日までだ。
2日後にはミラは俺のお嫁ちゃんになるんだ。

・・・もう30分は待っている。
呼んでいてこれだけ待たせるならもう帰ってもいいだろう。

「ミラ、帰ろう。これ以上は時間の無駄だ」

ミラの手を引いて立ち上がろうとした時、ノックと同時に入ってきたのは記憶にある男よりも随分老け込んだボイル子爵だった。

「・・・待たせたようだね。話はすぐ終わる」

そう言って俺たちの座る対面に腰を下ろした。
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