60 / 62
60
しおりを挟む
卒業式は可もなく不可もなく淡々と終了した。
その後に行われた卒業パーティーではミラをエスコートした。
もちろんファーストダンスはミラと踊った。
最後の思い出にと誘ってくる令嬢には丁寧にお断りさせてもらった。
ミラを誘おうとする子息たちにも近付いてくる気配を感じれば視線だけでお断りした。
ミラの側を離れるわけにはいかなかったからだ。
ちょうど一年前の卒業パーティーでミラを攫われた。これはミラ本人よりも俺のトラウマになってしまったようだ。
怖くて離れられない。
しっかりミラの腰を抱いて一秒たりとも気を抜かない。
それを表に出したつもりはなかったが、ミラには伝わっていたようで困ったような、呆れたような顔で眉を下げて微笑んでいた。
独占欲が強くてごめんな。
ミラを失うかもしれないあの恐怖は二度とごめんだ。
ピッタリとミラから離れないとはいえ友人たちとはセナも交えて楽しく談笑した。
コイツも3年間世話になったな。
明日のボイル子爵との面会にもローガンと付いてくる。
俺とミラの結婚式が終わったら休暇を与える予定だ。
無事何事もなく邸に着いた時は、父上と母上が迎えに出てきた。
馬車から降りたミラを見た2人がそっと安心したようにため息を吐いた。
この日は明日に備えて早々にベッドに入った。
朝食の席でもまだボイル子爵と会わせたくない母上がブツブツ言っていたがミラの「お義母様これが最後です。お別れだけ言ってすぐに帰ってきますね。私の帰る場所はここですから」の一言で何とか送り出してくれた。
教えられた住所は当然だが、ミラの生家ではなかった。
門を潜るとすぐに大きいとは言えない建物が見えてきた。
玄関の前では執事らしき人物がピシッとした姿勢で出迎えてくれた。
「・・・ライラ奥様」
またコイツもライラか・・・確かに記憶にあるライラ叔母上とミラは見た目は似ているが、仕草も雰囲気もまったく違う。
「久しぶねジェイムス」
「お、お久しぶりでございます。お嬢様。ティタニア様もようこそお越しくださいました」
さすが元ボイル侯爵家の執事だ、何事も無かったように綺麗な礼をする。
「ああ、それよりも早く案内してくれ。用件が済んだらすぐに帰る」
邸に一歩入ると、寂れている訳でもないのに寂しい印象を受けた。
通された応接室は落ち着いた雰囲気の部屋だった。
2人がけのソファに並んで座ってボイル子爵を待つ間にお茶菓子が用意されて、そのままメイドは何も言わず退室して行った。
隣に座るミラに緊張した様子はない。
いったい何の話があるのか・・・まさか今さらミラを返せとは言わないよな?
「ミラ、何か言われても気にするなよ?話が終わったらすぐに帰ろうな?」
「うん。大丈夫だよ。私にはデュークがいるもの」
微笑んで俺の肩に頭を寄せてくるミラが可愛い。
危ない危ないこんな場所でなければ抱きしめていた。
我慢だ俺!
その我慢も明後日までだ。
2日後にはミラは俺のお嫁ちゃんになるんだ。
・・・もう30分は待っている。
呼んでいてこれだけ待たせるならもう帰ってもいいだろう。
「ミラ、帰ろう。これ以上は時間の無駄だ」
ミラの手を引いて立ち上がろうとした時、ノックと同時に入ってきたのは記憶にある男よりも随分老け込んだボイル子爵だった。
「・・・待たせたようだね。話はすぐ終わる」
そう言って俺たちの座る対面に腰を下ろした。
その後に行われた卒業パーティーではミラをエスコートした。
もちろんファーストダンスはミラと踊った。
最後の思い出にと誘ってくる令嬢には丁寧にお断りさせてもらった。
ミラを誘おうとする子息たちにも近付いてくる気配を感じれば視線だけでお断りした。
ミラの側を離れるわけにはいかなかったからだ。
ちょうど一年前の卒業パーティーでミラを攫われた。これはミラ本人よりも俺のトラウマになってしまったようだ。
怖くて離れられない。
しっかりミラの腰を抱いて一秒たりとも気を抜かない。
それを表に出したつもりはなかったが、ミラには伝わっていたようで困ったような、呆れたような顔で眉を下げて微笑んでいた。
独占欲が強くてごめんな。
ミラを失うかもしれないあの恐怖は二度とごめんだ。
ピッタリとミラから離れないとはいえ友人たちとはセナも交えて楽しく談笑した。
コイツも3年間世話になったな。
明日のボイル子爵との面会にもローガンと付いてくる。
俺とミラの結婚式が終わったら休暇を与える予定だ。
無事何事もなく邸に着いた時は、父上と母上が迎えに出てきた。
馬車から降りたミラを見た2人がそっと安心したようにため息を吐いた。
この日は明日に備えて早々にベッドに入った。
朝食の席でもまだボイル子爵と会わせたくない母上がブツブツ言っていたがミラの「お義母様これが最後です。お別れだけ言ってすぐに帰ってきますね。私の帰る場所はここですから」の一言で何とか送り出してくれた。
教えられた住所は当然だが、ミラの生家ではなかった。
門を潜るとすぐに大きいとは言えない建物が見えてきた。
玄関の前では執事らしき人物がピシッとした姿勢で出迎えてくれた。
「・・・ライラ奥様」
またコイツもライラか・・・確かに記憶にあるライラ叔母上とミラは見た目は似ているが、仕草も雰囲気もまったく違う。
「久しぶねジェイムス」
「お、お久しぶりでございます。お嬢様。ティタニア様もようこそお越しくださいました」
さすが元ボイル侯爵家の執事だ、何事も無かったように綺麗な礼をする。
「ああ、それよりも早く案内してくれ。用件が済んだらすぐに帰る」
邸に一歩入ると、寂れている訳でもないのに寂しい印象を受けた。
通された応接室は落ち着いた雰囲気の部屋だった。
2人がけのソファに並んで座ってボイル子爵を待つ間にお茶菓子が用意されて、そのままメイドは何も言わず退室して行った。
隣に座るミラに緊張した様子はない。
いったい何の話があるのか・・・まさか今さらミラを返せとは言わないよな?
「ミラ、何か言われても気にするなよ?話が終わったらすぐに帰ろうな?」
「うん。大丈夫だよ。私にはデュークがいるもの」
微笑んで俺の肩に頭を寄せてくるミラが可愛い。
危ない危ないこんな場所でなければ抱きしめていた。
我慢だ俺!
その我慢も明後日までだ。
2日後にはミラは俺のお嫁ちゃんになるんだ。
・・・もう30分は待っている。
呼んでいてこれだけ待たせるならもう帰ってもいいだろう。
「ミラ、帰ろう。これ以上は時間の無駄だ」
ミラの手を引いて立ち上がろうとした時、ノックと同時に入ってきたのは記憶にある男よりも随分老け込んだボイル子爵だった。
「・・・待たせたようだね。話はすぐ終わる」
そう言って俺たちの座る対面に腰を下ろした。
225
お気に入りに追加
2,553
あなたにおすすめの小説
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした
アルト
ファンタジー
今から七年前。
婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。
そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。
そして現在。
『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。
彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。
さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】
私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。
もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。
※マークは残酷シーン有り
※(他サイトでも投稿中)
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる