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~フィリス王妃視点~


わたくしと陛下の出会いは学院の入学式。
広い敷地内で迷子になってしまったわたくしに二学年上のその当時、王太子で生徒会長だった陛下が声を掛けてくれたのがきっかけとなり、食堂や廊下ですれ違う度に気に掛けてくださるようになりましたの。
もちろん全て王太子殿下からで、わたくしから声を掛けたことなど一度もなかったわ。

その内、王太子殿下の身分違いの恋人だと噂になり、いつの間にか婚約者候補だと・・・ただの伯爵令嬢だったわたくしが見目麗しく、頭脳明晰で文武両道、身分関係なく誰に対しても平等な完璧な王子様の恋人?婚約者候補?彼から特別な言葉を貰ったこともないのに?ありえない!
それに王太子殿下に特別な感情はありませんでしたもの。
はっきり言って困る!それが正直な気持ちでしたわ。

その噂を真実だと思い込んだ高位貴族の令嬢達から陰口を言われ、嫌がらせに物を隠されたり壊されたり、とうとう階段から突き落とされ命の危機さえ感じましたわ。

ただの噂で命を奪われそうになった恐怖から王太子殿下を避けるように、お弁当を持参し食堂を利用するのを止め、教室の移動時も通路も変えましたの。

それでも虐めが収まることはなく、友人だと思っていた令嬢からも距離を置かれるようになり、独りぼっちになった学院は楽しい場所ではなくなった。

その日もいつものように一人で持参したお弁当を中庭で食べていた時、上級生の令嬢達に囲まれてしまった。

お弁当を叩き落とされ、用意していたお茶を頭からかけられ、好きでもない男との噂で何故わたくしがこんな目に合わなければなりませんの?
悔しくて涙が浮かんでしまう。
でも絶対に泣き顔なんて見せませんわ。
日々の嫌がらせや、悪意ある言葉にわたくしも我慢の限界でしたわ。

立ち向かわなければ・・・これはいつまでも続くと、意を決して立ち上がろうとした時『お前たち何をしている?』と底冷えするような鋭い声が聞こえてきましたの。
声のする方向を見れば王太子殿下が2階の窓から彼には珍しく険しい顔をしてこちらを睨んでいました。

『お前たち全員私が行くまでそこを動くな!』それだけ言って王太子殿下は背を向けたの。
ああ、面倒臭い事になりそうですわ。
彼に関わるのを避けていましたのに・・・

わたくしを囲んでいた令嬢達の顔色は既に真っ青で、先程まで浮かべていた意地悪そうな顔はなりを潜めてしまいましたわね。

差ほど待つことなく2人の子息を連れた王太子殿下がこの場に現れました。
この2人の子息は宰相様の嫡男と、騎士団長様の嫡男だと以前王太子殿下から紹介されましたわね。
クールな方が宰相様のご子息。
ガッチリとした体型の方が騎士団長様のご子息でしたわね。
あまり興味がありませんでしたから、名前は覚えていません。

「大丈夫か?フィリス嬢」

「・・・はい」

2人の子息様に憐れむような目を向けられると、何故がイラッとしてしまいましたわ。
王太子殿下はわたくしに背を向け令嬢方に何やら厳しい言葉を投げかけたようですわね。
本当に面倒臭いわ。

「フィリス嬢。これからは私たちを頼ってくれ」

頼るって何ですの?
貴方がわたくしをこんな状況に追い込んだと自覚はありませんのね。

結局、令嬢方は泣きながらこの場を去って行ってしまいましたわ。
去るならわたくしも連れて行って欲しかったですわ。
別に助けて欲しいとか思ってもいませんでしたし、どちらかと言えば余計なお世話だと言いたいのを我慢して、一応お礼の言葉を述べてから、わたくしも午後からの授業に向かいましたの。

それから王太子殿下と2人の子息は卒業するまで、頼んでもいないのにわたくしの側には彼らがいるようになった。
令嬢方からの嫌がらせはなくなりましたが、彼女たちの嫉妬の視線は強くなるばかり・・・
伯爵令嬢でしかないわたくしは毎日、毎日、彼らの楽しくもない、興味もない話しに愛想笑いを浮かべて頷いていただけ・・・わたくしが本心では彼ら自体を拒絶したいと思っているとも知らずに・・・


貴方たちは守っているつもりかも知れませんが貴方たちが卒業後、わたくしが卒業するまでの2年間、どんな目に合わされるか想像も出来ないのでしょうね。

本当に彼らの事が嫌いだわ。
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