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すでに学園では私と王太子殿下の婚約解消は生徒たちに知れ渡っているらしい。
当然か⋯⋯

「気にすることは無い。今回のことは早いか遅いかの違いだけだった。メイジェーンは何も悪くない。公爵令嬢に相応しく堂々としていればいい」

と、言って優しく頭を撫でてくれたのは我が兄、レオクリフ兄様。
攻略対象者だけあってすっごい美貌。
次期公爵家当主という肩書きに相応しく、頭脳明晰、文武両道、スラリとした長身で手足も長い。そして、色気がすごいのだ。
目からフェロモンビームが出ているんじゃないかと疑ってしまうほど、目が合っただけで令嬢たちを虜にしてしまうのだ。
この人欠点あるの?って妹から見ても最高の男だと思う。敢えて言うならたまに口が悪くなることぐらいかな。

ああ、もう学園に到着してしまった。
先に馬車から降りたお兄様の差し出してくれた手に手を添えるとしっかり握り締めてくれた。

「メイ、そんなに緊張するな。肩の力を抜いて⋯いつものメイでいいんだよ」

色気だだ漏れの笑顔でそう言うと、遠巻きに見ていたであろう令嬢たちの黄色い悲鳴があちらこちらからいっせいに上がった。

おお!いつもの見慣れた光景だ。
何も変わっていない。なんだか安心してしまう。
そうよね。緊張する必要もない。
私は私だし、殿下の婚約者の立場ではなくなっただけで、他は何も変わっていない。

「それでいい。メイはそうやって笑っていろ」

いつの間にか私は笑っていたようだ。お兄様に言われるまで気付きもしなかった。

校舎の違うお兄様と別れてからは今度は私に視線が向けられるかと思えば、特にそんなこともなく普通に教室に辿り着いた。
だけど、一歩教室に入ってからは違った。

私と殿下の婚約が解消されたことを知っているであろう令嬢たちが、一応は深刻な顔を作っているけれど内心を隠しきれていないまま声をかけてきた。⋯⋯まだまだね。

「イスト様お聞きしましたわ。本当にリュート殿下と婚約を解消されましたのね」

挨拶よりもが大切なの?
人の不幸は蜜の味って本当なのね。

「⋯⋯ええ」

そう応えた瞬間を私は見逃さなかった。
上手く隠したつもりかもしれないけれど、たとえ一瞬でも私の気の所為でもなく下に見られた。
そう、私は彼女たちに見下されたのだ。

「そう気を落とさないで下さいませ」

「ふふっ、ありがとうございます。まったく気にしていませんのよ?それどころかお似合いのエルザ様とリュート殿下のお二人を応援していますわ。皆さんも私と一緒にお二人の一途な愛を応援致しましょう?」

笑顔で応えれば、彼女たちの希望した返答と違ったのだろう。

「で、でも殿下の相手は男爵令嬢ですよ?」

「そうですわ!」

「身分の低い人になんてイスト様らしくありませんわ!」

って⋯⋯

ふんっ、未来の王妃でなくなった私などに媚びる必要が無くなったからと言って、私を蔑むのはやめなさい。
私の公爵令嬢という身分までが無くなった訳ではないのよ。

「私は負けたとは思っていませんわ。私とリュート殿下とは縁がなかっただけですわ。⋯⋯いつか私にも思いが通じ合えれるような殿方との出会いがあるかもしれませんもの。今はその時を楽しみにしているのですわ」

ふふふっ、と何でもないことのように微笑んで見せれば、今度は悔しそうな顔を隠そうともしない。
淑女としてはまだまだよ。

そのまま話は終わりとばかりに自分の席に着いた。

ふぅ~想定内ね。
彼女たちは私に何を求めていたのかしら?
私の泣き顔が見たかった?悔しがるところが見たかった?
それとも嫉妬して醜い姿を見せるとでも思った?

残念ね。
前世の記憶を思い出した私からすれば、のために10年間も努力をしている私の姿を見ていたはずなのに、声を掛けることも無く笑顔のひとつも見せないような男のどこに人生を捧げるだけの魅力があると思うの?
はっきり言って婚約が解消できてせいせいした。

こんな晴れやかな気持ちにさせてくれたエリザにお礼が言いたいくらいだ。

『リュート殿下を落としてくれてありがとう』ってね。




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