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それぞれへの刑罰は事件から各自3日後に行われた。
もういなくなった彼女を空を見上げながら思う。
始まりはオルト嬢の母親がお父様に執着した事から始まったのかもしれない。
いえ、ヨルダン伯爵が興味本位で作り出した媚薬か?
違うか・・・あの人は媚薬効果が切れてから犯罪に手を染めたのだから、媚薬を使われずネイト様を産むことがなくとも、何れお母様に似た私をターゲットにしていた・・・それどころかお母様自身を狙ったかもしれない。
もう終わったこと。
今さら考えても仕方がないわよね・・・。
「あと3ヶ月か~」
「何が3ヶ月なの?」
私の独り言に質問の声を掛けてきたのは振り向かなくても分かる。
「いらっしゃいリア、エド」
今日は小春日和の気持ちのいい日差しと気温だから、ガゼボにお茶の用意をしてもらった。
顔を見る限り、リアもエドもいつもと変わらない。
隠すのが上手いのか、それとももう吹っ切れたのか・・・
「ソルトレグス帝国に帰ることにしたの」
「ああ・・・そんな気がしていた」
「ええ、皇太子とユティの2人を見ていたら、離れている今の方がおかしい気がしたもの」
「うん・・・ジル兄様が待っているの。・・・誰よりも私を理解して大切にしてくれている人が、私をずっと待っていてくれたの」
これじゃあ意味が分からないよね。
でもこれは本当に一部の人しか知らないこと。
それに・・・ジル兄様がいつも私をお姫様抱っこしたり、膝に乗せるのは私を甘やかしているのだとずっと思っていた。
でも、それはジル兄様も私に甘えていたのだってやっと気付いたの。
ジル兄様は次期皇帝。
皇帝の資質も十分にある。
実際、そう評価されるよう努力してきたのもジル兄様だ。
でもそこに私はいなかった。
家臣や民たちからの期待と重圧にずっと一人で耐えて来たのだろう。
だから癒しを求めて私を抱きしめる。
私がジル兄様に甘えていたように、今度は私が抱きしめて甘えさせてあげたい。
私が傍で彼に寄り添って支えてあげる。
気づいた時にカチッと胸の辺りで音がしたのは気の所為ではないと思う。
ジル兄様がいる間は心がポカポカと満たされていたのに、帰国してからは胸にあったポカポカが少し温度が下がった気がするもの。
ジル兄様は何年もこのポカポカを感じていたのね。
お友達が『君たちは2人でひとつなんだよ』って言っていた意味がやっと分かったの。
ジル兄様の元に帰るから、もう少しだけ我儘を許してね。
「二年には進級するわ。でも、夏期休暇まで・・・それで学院を辞めるわ」
「・・・もう決めたのね?」
「うん」
「じゃあ、それまでに沢山遊びましょう?一緒に買い物も行きたいし、おすすめのカフェも紹介したいわ。それにお互いの家にお泊まりもして朝まで語りましょう」
「それだと俺は参加できないだろ!」
エドの拗ねた言葉に可笑しくてリアと笑い合う。
そう、あと3ヶ月はこんな感じで楽しく過ごそう。
離れたってリアとエドは大切な友達だ。
あの夜会で私がソルトレグス帝国皇太子の婚約者だと・・・皇位継承権がある事も貴族だけでなく、国民に知れ渡ったようで、詫びの手紙が山のように届いた。
新学期が始まっても初日から何人にも頭を下げられた。
まあ、予測した通り何かしらの恩恵に授かろうとした者も、思惑を持って近付いて来る者もしっかり対応した。
3ヶ月間なんて、あっという間だった。
宣言通り、たくさん遊んだ。
買い物もカフェ巡りもいっぱいした。
お泊まり会も何度もした。
そうそう、ハリスンは新学期が始まる前にソルトレグス帝国に帰って行った。
『俺も準備で忙しくなるからさ~、ユティフローラちゃん、先に帰って待っているね』
と、訳の分からない言葉を残して。
ゼガードは私の護衛として残った。
この3ヶ月の間にエドと交友を深めて今では親友のようだ。
今から私はジル兄様の元に帰る。
お父様と兄様。
リアとエドに笑顔で別れを告げて馬車に乗り込む。
リアとエドにもまたいつか会える。
そう思って別れを告げたのに・・・
それは思いのほか早く訪れた・・・
もういなくなった彼女を空を見上げながら思う。
始まりはオルト嬢の母親がお父様に執着した事から始まったのかもしれない。
いえ、ヨルダン伯爵が興味本位で作り出した媚薬か?
違うか・・・あの人は媚薬効果が切れてから犯罪に手を染めたのだから、媚薬を使われずネイト様を産むことがなくとも、何れお母様に似た私をターゲットにしていた・・・それどころかお母様自身を狙ったかもしれない。
もう終わったこと。
今さら考えても仕方がないわよね・・・。
「あと3ヶ月か~」
「何が3ヶ月なの?」
私の独り言に質問の声を掛けてきたのは振り向かなくても分かる。
「いらっしゃいリア、エド」
今日は小春日和の気持ちのいい日差しと気温だから、ガゼボにお茶の用意をしてもらった。
顔を見る限り、リアもエドもいつもと変わらない。
隠すのが上手いのか、それとももう吹っ切れたのか・・・
「ソルトレグス帝国に帰ることにしたの」
「ああ・・・そんな気がしていた」
「ええ、皇太子とユティの2人を見ていたら、離れている今の方がおかしい気がしたもの」
「うん・・・ジル兄様が待っているの。・・・誰よりも私を理解して大切にしてくれている人が、私をずっと待っていてくれたの」
これじゃあ意味が分からないよね。
でもこれは本当に一部の人しか知らないこと。
それに・・・ジル兄様がいつも私をお姫様抱っこしたり、膝に乗せるのは私を甘やかしているのだとずっと思っていた。
でも、それはジル兄様も私に甘えていたのだってやっと気付いたの。
ジル兄様は次期皇帝。
皇帝の資質も十分にある。
実際、そう評価されるよう努力してきたのもジル兄様だ。
でもそこに私はいなかった。
家臣や民たちからの期待と重圧にずっと一人で耐えて来たのだろう。
だから癒しを求めて私を抱きしめる。
私がジル兄様に甘えていたように、今度は私が抱きしめて甘えさせてあげたい。
私が傍で彼に寄り添って支えてあげる。
気づいた時にカチッと胸の辺りで音がしたのは気の所為ではないと思う。
ジル兄様がいる間は心がポカポカと満たされていたのに、帰国してからは胸にあったポカポカが少し温度が下がった気がするもの。
ジル兄様は何年もこのポカポカを感じていたのね。
お友達が『君たちは2人でひとつなんだよ』って言っていた意味がやっと分かったの。
ジル兄様の元に帰るから、もう少しだけ我儘を許してね。
「二年には進級するわ。でも、夏期休暇まで・・・それで学院を辞めるわ」
「・・・もう決めたのね?」
「うん」
「じゃあ、それまでに沢山遊びましょう?一緒に買い物も行きたいし、おすすめのカフェも紹介したいわ。それにお互いの家にお泊まりもして朝まで語りましょう」
「それだと俺は参加できないだろ!」
エドの拗ねた言葉に可笑しくてリアと笑い合う。
そう、あと3ヶ月はこんな感じで楽しく過ごそう。
離れたってリアとエドは大切な友達だ。
あの夜会で私がソルトレグス帝国皇太子の婚約者だと・・・皇位継承権がある事も貴族だけでなく、国民に知れ渡ったようで、詫びの手紙が山のように届いた。
新学期が始まっても初日から何人にも頭を下げられた。
まあ、予測した通り何かしらの恩恵に授かろうとした者も、思惑を持って近付いて来る者もしっかり対応した。
3ヶ月間なんて、あっという間だった。
宣言通り、たくさん遊んだ。
買い物もカフェ巡りもいっぱいした。
お泊まり会も何度もした。
そうそう、ハリスンは新学期が始まる前にソルトレグス帝国に帰って行った。
『俺も準備で忙しくなるからさ~、ユティフローラちゃん、先に帰って待っているね』
と、訳の分からない言葉を残して。
ゼガードは私の護衛として残った。
この3ヶ月の間にエドと交友を深めて今では親友のようだ。
今から私はジル兄様の元に帰る。
お父様と兄様。
リアとエドに笑顔で別れを告げて馬車に乗り込む。
リアとエドにもまたいつか会える。
そう思って別れを告げたのに・・・
それは思いのほか早く訪れた・・・
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