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~ビアンカ・オルト男爵令嬢視点~



あの日、どうやって帰ってきたのか、気づいたら自室にいた。

お母様が言っていたことはすべて嘘だった・・・

ラグーナ侯爵はお母様に会いたくないほど嫌っていたなんて・・・。
そんな人がわたくしのお父様なワケがない。

お母様がした事は犯罪だ。
他人の家に勝手に入り込んだのだから・・・
それに・・・あの子に暴力を振るっていたなんて知らなかった。
男爵夫人であるお母様が、侯爵令嬢を監禁して暴行をしたのなら、それなりの処罰を受けていると思う。
罪を犯したとはいえ、人を殺したわけでもないし貴族ですもの修道院に送られたと思う。

だから、おじさんはお母様は遠くに行ったなんて言ってたのね。




知らなかったとはいえ、あの数ヶ月間のラグーナ侯爵家でのわたくしは他人の物を身に付け侯爵令嬢になりきっていた。

偽物はわたくしだった・・・

クラスメイト達は、わたくしがあの子のことを偽物だと、わたくしがラグーナ侯爵家の娘だと言っていたことを知っている。

真実を知られたらわたくしはどうなるの?
皆んなから嘘つき呼ばわりされる?
いえ、犯罪者の娘だと非難される?

もう学園に行きたくない・・・行けない・・・

怖い・・・あの場にいた誰かがお母様のした事を洩らしたら・・・どうすれば・・・

逃げる?
逃げてどこに行けばいい?
お母様の実家?
一度も会ったことないけれど、お爺様やお祖母様なら受け入れてくれる?

・・・今日は疲れた。
明日考えよう。



夢を見たの。 

幸せな夢。

ラグーナ侯爵家の庭園でレグルス様と彼にそっくりな男の子。それにわたくしの大きなお腹をレグルス様が撫でてわたくしを愛おしいそうに見つめて抱きしめてくれた。
わたくしもレグルス様も息子も幸せそうに笑っていたわ。




正夢?
これは正夢ではないの?


いえ、お母様の娘のわたくしをレグルス様、いえラグーナ侯爵家が迎えてくれるなんて奇跡が起こらない限り無理・・・。


でも・・・本当に?

わたくしはレグルス様を諦められるの?
夢で見たあの光景はすごく現実的だった。
あれは未来を予知したのかもしれない。

わたくしはレグルス様を諦めなくてもいいのかもしれない。

なら、こんな所にはいられない。
おじさんが引き止めるのを振り切ってお母様の実家ヨルドラ伯爵家に向かった。




ダメ元で突然訪ねてきたわたくしを、伯父様とわたくしよりも5歳年上の従兄ネイトが快く迎えてくれた。
お母様とよく似た伯父様。
ネイトは母親似なのね。
まあ、美形の部類には入ると思う。
2人とも人の良さそうな優しい顔立ち。
これなら・・・

残念ながらお爺様とお祖母様は領地に隠居していて、王都に来ることはほとんどないと聞いた。

ヨルドラ伯爵家はラグーナ侯爵家よりかは小さくても、オルト男爵家よりも大きな邸だった。

通された応接間は派手過ぎず、それでも高価な調度品に落ち着いた部屋だった。
わたくしの対面に伯父様とネイトが座る。

「先触れもなく突然訪ねてきて申し訳ございません」

まずは好感を持ってもらえるように丁寧な挨拶を・・・そして、得意の庇護欲をそそる上目遣いを・・・

「妹によく似ている。ずっと会わせてもらえなかったから、はじめましてだなビアンカ」

「僕の従妹がこんな可愛い子だなんて嬉しいな。ネイト兄様と呼んでね」

伯父様もネイト兄様も優しそう。
これならわたくしのお願いも聞いていただけるかも。

「それで何かあったのか?」

心配そうに伯父様が話しかけてくれた。

「・・・お願いがあるのです・・・どうか、わたくしを伯父様の養女にしていただけませんか?オルト家にわたくしの居場所がなくて・・・辛くて・・・」

ポロリと涙を流して見せる。
これで何かあったと同情されるはず。

「ビアンカ!」

ネイト兄様が慌てて席を立ってわたくしを抱きしめて背中を撫でてくれた。

「父上!僕からもお願いします。ビアンカを僕の義妹に」

「そうだな。手続きに少し時間がかかるが、我がヨルドラ伯爵家にビアンカを迎え入れよう」

え?こんなに簡単でいいの?
養女になる為にもっと色々考えていたんだけど。

「あ、ありがとうございます。伯父様、ネイト兄様」

「ははは、ビアンカ?今日からお義父様と呼んでいいんだよ」

「は、はい。お、お義父様」

「学園にはここから通いなさい。邪魔が入ったらいけないから我が家の養女になる事は誰にも秘密だよ?それまではオルトの姓を名乗りなさい。」

やった!やった!これでわたくしも伯爵令嬢だわ!
もう、下位貴族だとバカにされることもない。それどころか高位貴族の令嬢になれる!

・・・それでもまだ学園に通うのが怖い。
どうしよう。何て言えば・・・

「ビアンカ、疲れているだろう?我が家に慣れるまでは学園も休んだらいいよ。勉強の遅れは僕が見てあげるから」

ネイト兄様!
最高だわ!
一か八かでここに来たけれど何もかも事が上手く進んでいる。

「ありがとうございます。ネイト兄様」

こんな優しい人達がいる実家に何故お母様は戻らなかったのだろう?



それが分かるのに時間はかからなかった・・・
そもそも、タダでこんな上手い話があるワケがなかった・・・
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