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あの女の人は元伯爵令嬢で、お父様が学園に通い出した時から、執拗く婚約の打診をしてきていたそうだ。

何度断っても諦めず、今度は自分はお父様の婚約者だと学園内で触れ回り、お父様が少しでも女性と話すと嫉妬してその女性を酷い目に遭わせていたそうだ。

そんな人が処罰されない理由は、この国の前国王の側妃の姪だったから。

"君のような人とは絶対に結婚などしない"と伝えお父様は隣国ソルトレグス帝国に留学し、そこでお母様と出会い結婚した。

やっと諦めたのかその人は男爵家に嫁いだらしい。
それ以降、お父様の前に現れることはなかった。

そして執事長の手引きで、お父様が外交で留守にしている間に我が家に入り込みお父様の妻だと侯爵夫人を装っていた。

元旦那様との間にできた子をお父様の娘だとその時に使用人にも紹介していた。
(私が会った頃ね)

そして私が夜寝ている間に地下に閉じ込め、行方不明になった私を公にすると侯爵家の醜聞になるからとあの人の指示で騒ぎにはせず侯爵家内だけで私の捜索をしていたそうだ。



報せを受けたお父様とお兄様が帰ってきてすぐ、私に偽装した水死体が発見された。

ここまで聞いて違和感が・・・

「その時お父様はあの人に会わなかったの?メイドたちからあの人の事を知らされなかったの?」

「ああ、私が帰る前にすべての使用人に『主人がわたくしを娶ったことで原因は自分だと責めたりしないように、わたくしは姿を見せないことに致します。あなた達もわたくしの事は主人に知らせなくてもいいわ』そう言ったそうだ」

「それでお父様はあの人の存在を知らなかったのね?」



「ユティに睡眠薬を飲ませ地下に閉じ込めたのはあの女だ。執事長の家族を人質にして、いいように使っていた」

地下室の存在を教えたのは執事長。

私が閉じ込められていた期間は約7ヶ月。

その間にお父様が外交先から帰国したのは3回。
帰ってくる度にあの人は使用人に同じような言葉でお父様への報告をさせなかったそうだ。

見つけられたのはお兄様が卒業後ジル兄様を連れて帰ってきたその日。

邸に入るなりジル兄様が地下に向かって走り出し、衰弱した私を抱き抱えて戻ってきたそうだ。

ジル兄様にもお友達の声が聞こえるものね。

意識を失う寸前に聞いた声はやっぱりジル兄様だったのね。

それから私が意識を取り戻すのに10日。

目の包帯が取れるまでに1ヶ月。
だから痣が消えていたのね。

お兄様が帰ってくる事を知らなかったあの人は、その時もお父様の妻として我が家でのうのうと過ごしていたらしい。

赤の他人が我が家で、それも父親の妻として振る舞っていた事を知らされて、お兄様はすぐに我が家の護衛に捕らえさせ、お父様に知らせたと。

お父様が急ぎ帰国したのと交代でジル兄様は隣国ソルトレグス帝国に帰らなければならなかったそうだ。

(だから目覚めた時ジル兄様の声がしなかったのね)

執事長の取り調べで分かったことは、あの人をお父様の妻だと偽って使用人に紹介したこと。
あの人の存在をお父様に知られない為に、使用人に口止めしていた事だった。


そして、あの人の取り調べで分かったことは、すべて計画していた事だった。
私を地下に閉じ込めることも、偽装した水死体を用意することも、執事長の家族を人質に取って脅することも。
最初から計画されて我が家に入り込んだのだ。

私を殺さなかったのは、お母様によく似た私を嬲ることでお父様を奪ったお母様に復讐していると愉悦に浸れたから。
顔に残るような傷を付けなかったのも、お母様に似ていないと面白くないから。

頭がおかしい・・・

いつかバレても、『これほど愛されていると知れば、あの方もわたくしを愛してくれる』と本気で信じていたようだ。

怖い!

この事件の報告は王家にだけ伝え、あの人はひっそりと処刑された。
もう側妃も亡くなっている為、庇う人は誰ひとりいなかったそうだ。

家族を人質に取られ脅されていたとはいえ、使える主人への裏切りは許せるものではなく、執事長も家族の解放後処刑された。
監禁されていた小屋にはあの人の共犯者はいなかったそうだ。

そして娘は何も知らされていなかったことで、あの人の嫁ぎ先で娘の父親の男爵が引き取ったそうだ。
年下だと言われていたが、実は私よりも1つ年上だったこともこの時に知った。


あの人に協力者がいるのは間違いないが、水死体の偽装に手を貸した者や、執事長の家族を監禁していた者はまだ見つかっていないそうだ。


途中、体が震える度にジル兄様が後ろから強く抱きしめてくれたから最後まで話しを聞くことができた。
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