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しおりを挟むお願いお父様、お兄様助けて。
・・・ジル兄様助けて。
お母様が亡くなってすぐ、目を覚ました時には光も差し込まないこの場所にいた。
硬い木箱を並べて作られたベッドとも言えない寝床に、布団も与えてもらえず代わりにシーツだけ与えられた。
そこでシーツに包まりあの人が来ないことを祈っていた。
お父様は外交官でいつも海外と領地を行ったり来たりで忙しく働いている。
たまに帰ってきてもお母様が亡くなってからは私に会ってくれることはなくなった。
まるで、私など存在していないかのように。
お母様が生きていた頃は、お母様に似た私をとても大切にしてくれていたのに。
4歳年上のお兄様は亡くなったお母様の生まれ故郷である隣国のソルトレグス帝国に留学している。
お兄様とも、お母様が亡くなったお葬式で会ったきり・・・
この邸で1人になる私のことをとても心配してくれていた。
執事長と優しいメイド達がいるから大丈夫だと言って送り出したけれど、引き止めていたら今のこんな状況にはなっていなかったかもしれない。
このまま、私はお父様ともお兄様とも会うことが出来ないまま・・・
お願い早く帰ってきて・・・お願い・・・私を見つけて。
ここはお母様が生きていた頃の温かい場所では無いの。
お父様と婚姻を結んで、私の義母になったと名乗る女性とその娘。
義妹にはその時に一度会っただけ。
髪と瞳の色以外は義母に似ているなと思ったけれど、もう顔も思い出せない。
ここに来ては私に暴力を振るう。
その時に、私の部屋を娘に与えたこと、私のドレスも宝石も娘の物になったこと、私の専属侍女のベスも・・・私の持っていた物全てが娘の物になったこと。
それがお父様の指示だと教えられた。
ありえない。
あんなにお母様を愛していたお父様が、本当にこんな女性を迎えたの?
だから、私はいらない子になったの?
そして今、私は真っ暗な部屋に閉じ込められている。
光の入らないここでは朝か夜かも分からない。
義母が来た時だけロウソクに火を灯される。
朝だと言って義母が食事を持ってくる。
水とパンだけ。
夜だけ野菜の入ったスープが付く。
機嫌の悪い時は、それすらも与えてくれない。
それどころか、何度も頬を叩かれた。
力が入らなくて倒れると今度は蹴られる。
私は何もしていない。
こんな暴力を振るわれるほど何かした記憶もない。
本当にお父様はこんな人を妻に迎えたの?
あの子がお父様の娘って本当なの?
もうどのくらい日の光を浴びていないのか分からない。
執事長もメイド達も私の姿が見えなくても不思議に思わないの?
誰か助けて!
私はここにいる!
声を上げても誰にも私の声は届かない・・・
もう、木箱の上から動くことも出来ない。
寝ているのか、気を失って意識が無くなるのかも分からなくなってきた。
死んだらお母様に会えるかしら?
それでも死ぬ前に一度だけでもいいの、私に甘いお父様と、優しいお兄様に会いたい。
ジル兄様、約束を守れなくてごめんなさい。
意識を手放しそうになったその時、暖かくて眩しい光に包まれた気がした。
『ずっと探していたんだよ。もう大丈夫だよ小さい姫』
もう目を開ける力もない私に届いた声は、幼い頃の懐かしい声。
私とお母様だけの秘密のお友達の声だった。
暖かい腕に抱きしめられた気がした。
『ユティ生きていてくれてありがとう。信じていたよ』
ジル・・・兄様?
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