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番外編

ロー兄様視点

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~ロー兄様視点~








「義父上」

僕の可愛い息子が今日も僕を義父上と呼んでくれる。

もともとスティアート公爵家を存続する為に何れは親族の中から養子を迎える予定ではあった。
僕に子を成せる能力がないから⋯⋯
それを理由に婚姻をするつもりはなかった。




姪のルナの妊娠が分かってから、男の子か女の子か楽しみで生まれてくる子の名前を勝手に想像したり毎日わくわくしていた。
嬉し過ぎて仕事の合間を縫っては王都の街に繰り出し赤ちゃん用品を買い漁っていた。
フランチェスカ様に叱られるまでは⋯⋯



男は出産の場には立ち会えないと女医に言われ、部屋の前で待機するしかなく目の前でうろうろするフェリクス(ルナと結婚してから敬称なしで呼ぶように指示された)と閣下(心の中ではいつも義理兄兄上と呼んでいる)の落ち着きのない二人を放っておき、僕はずっと部屋の中から微かに聞こえる痛みに耐えるルナの呻き声に今までのわくわくしていた自分に申し訳ない気持ちになっていた。

何時間経ったのだろうか、大きな泣き声が中から聞こえた。同時にフェリクスがガッツポーズを、閣下が大きく息をついて、僕は安堵の溜め息を⋯⋯次に聞こえた泣き声はか細くて三人ともが不安に陥った。(もしかして弱い子なのか?)

すぐにでも部屋に飛び込もうとするフェリクスを冷静に閣下と僕が止めていると部屋から出てきた女医が「二人とも元気な男の子ですよ」と「中に入ってもいいですよ」と言い終わる前に一斉に飛び込んだ。

まず最初に目に入ったのは疲れた様子のルナだった。
だが、その顔は満足気で誇らしい母親の顔になっていた。
あのボロボロにやせ細って傷だらけの少女が⋯⋯初めてルナに会った時の印象はもうどこにもなかった。

生まれた子は二卵生の双子で名は長男はアレックス、次男はカーティスと名付けられた。
生まれたばかりの子を恐る恐る抱かせてもらった。
小さくて、ちょっと力を入れただけで潰してしまいそうだけれど可愛い、愛おしい。それが一番最初の感想だ。

黒髪のアレックスは顔を真っ赤にして大きな声で泣いていた。

そして、カーティスはフェリクスに抱かれても、閣下に抱かれてもすやすやと気持ちよさそうに眠っていたのだが、僕が抱くとうっすらと目を開けた⋯⋯。青い瞳だが血の繋がりを強く感じた。
⋯⋯僕に似ている気がする。
もしかしたら⋯⋯この子が僕の息子になってくれるかも知れない。
直感と言うべきなのか、願望と言うべきなのか⋯⋯確かに特別な何かをカーティスに感じた。

一ヶ月、二ヶ月、半年、一年⋯⋯双子が成長するごとに愛しさはどんどん増していった。
二人ともが可愛い。

二歳になる頃には個性も出てきた。
ルナが大好きなアレックス。
カーティスがルナに抱かれるのはいいのだが⋯⋯父親のフェリクスがルナとイチャイチャしようものなら「とーたまはだめ」と阻止しようとする。
ルナがアレックスを優先すると、まだ二歳のアレックスがフェリクスに向かって勝ち誇った顔をするのが⋯⋯少し前の少し前のフェリクスが閣下に向けていた顔とそっくりなのが面白い。

そのへんカーティスはいつもニコニコでのんびりマイペースだ。
嬉しいのは僕を見つけるとてとてと覚束無い足取りで走ってくる?んだ。そしてぷくぷくの手を伸ばして抱っこを催促する。
自分で言うのもなんだが僕はカーティスに好かれている。


その後サイラスが生まれ、フィーナが生まれた。
サイラスはフランチェスカ様が大好きだ。
可愛らしい顔立ちで大人しそうに見えるが実は兄弟の中で一番のやんちゃだ。
すごくいい笑顔でイタズラをする。
怒られても笑顔で謝るから可愛くてそれ以上怒れなくなるそうだ。

そしてフィーナ。
銀髪に緑色の瞳。僕と姉上と同じだ。
初めての女の子でしかもルナに似ているとなれば閣下とフェリクスの溺愛が止まらない。
それはアレックスやカーティス、サイラスも同じだ。ちなみに僕もだが⋯⋯


双子の七歳の誕生日会のお祝いをしていた時だった。
本当に突然だった。
祝いの席でカーティスが皆に向かって言ったんだ。

「僕は皆が大好きだよ。でも僕はローおじ様の子供になりたい」

いつかは三人の中で誰かを養子にしたいと思っていた。
だが、もっとずっと先だと思っていた。

「ローおじ様⋯⋯僕が子供になるのはイヤ?」

嫌なわけがない!
でも、カーティスはまだ幼い。
こんな幼い時期に親元を離れていいのか?
それよりもフェリクスやルナは可愛い我が子を手放せるのか?
恐る恐る二人の顔を見た。

「もう行くのか?」

「うん」

「そう、カーティスが決めたなら反対しないわ。ロー兄様になら安心して任せられるもの」

フェリクスもルナも反対はしなかった。

「そうだな」

「お隣だもの毎日でも会えるわ」

閣下とフランチェスカ様も止めない。

いいのか?本当に僕は父親になれるのか?父親になってもいいのか?

「いいでしょう?」

僕によく似た顔で⋯⋯まだ小さな手で僕の袖を引っ張る。

周りを見渡せば皆が頷いている。
まだ分かっていないサイラスとフィーナは大きなケーキに夢中だった。

「ローおじ様、もう一人じゃないよ。僕がいるよ」

『もう一人じゃないよ』カーティスの言葉が心に響いた。

姉上が突然嫁に出され、父上は仕事仕事で僕を顧みない人だった。
僕の身内は姪のルナだけだった。
ルナが可愛いくてランベル公爵家に入り浸り、フランチェスカ様やフェリクスが加わり、子供たちが生まれランベル公爵家は賑やかに。
楽しい時間を過ごさせてもらって、一人スティアート公爵家に戻る⋯⋯孤独を感じない日はなかった。

「ありがとう、カーティス」

気付けばカーティスの小さな体を抱きしめて泣いていた。




一ヶ月後、カーティス・ランベルはカーティス・スティアートになった。

この一ヶ月の間にカーティスの部屋を用意し、必要なものを買い足し、父親になる実感がわいてきた。



カーティスが僕の養子になってからもランベル公爵家には毎日のように訪問していた。もちろんカーティスを連れてだ。

幸せな夢を見ているのではないかと不安になり、夜中にカーティスの寝顔を見に行くのも近頃は減った。

今では『義父上』と呼ばれることに違和感は感じない。

そしてカーティスが僕の息子になって三年が経った。






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