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新学期が始まってすぐ、アリスト伯爵夫妻と長女のリディア様が我が家を訪問してきた。
「む、娘が申し訳ございませんでした」
「い、妹が申し訳ございませんでした」
今、私の目の前で震えながら頭を下げているのはあの夜会でド派手どピンクだった女性とアリスト伯爵夫妻。
最初はどピンクが衝撃的すぎて顔を見ても誰だか分からなかった。だって今日は控えめで落ち着いた紺色のドレスを着ていたから。
うん、こっちの方が彼女には似合っている。
そしてなぜ謝られているのか⋯⋯首を傾げてしまう。
私には意味が分からないけれど、隣に座っている父様は理由を知っていそうだ。
だって父様の顔が⋯⋯怖いって!また彼女を気絶させるつもりなの?
たぶんだけれどセシル・アリスト伯爵令嬢が何かしらを私にしたのか、しようとしたのだろう。思い当たる節はところどころにあったりする⋯⋯が、彼女を最近見かけていない。
「ルナ、父様はアリスト伯爵と大切な話があるから部屋に行っていなさい」
「え?は、はい」
どんな話し合いが行われるのか気になるけれど⋯⋯
部屋を退室する前にリディア様が視界に入った。
瞳に涙を浮かべてはいるけれど、口を引き締めて涙を零さないように耐えている姿が痛ましい。
以前は父様を怖がっている様子だったのに、今は真っ直ぐに父様から目を逸らしていない⋯⋯
ド派手どピンクの時よりずっといい。
本来の彼女はこちらの方かもしれない。
先程のアリスト伯爵夫妻やリディア様を見て⋯⋯甘い考えなのかもしれないけれど、もしセリア様が取り返しのつかないことをしてしまったのだとしても、姉であるリディア様やご両親にまで責任の追求をして欲しくないと思ってしまう⋯⋯のは、私が公爵令嬢としての覚悟が足りないからなのかもしれない。
話の内容が気になるものの、父様の指示だもの大人しく私室に向かっていると前からロー兄様が歩いてくるのが見えた。
「おはようルナ」
「おはようロー兄様。父様に用事なら今は来客中なの」
「知っているよ。僕もアリスト伯爵家の人たちに大事な話があるからね」
「そうなんだ」
「じゃあ行くよ」
いつものロー兄様なんだけど、何か様子が違って見えた。ロー兄様まで加わると⋯⋯リディア様大丈夫かな?
ここからは大人の話なのね。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
~応接間での会話(ロー兄様視点)~
「失礼します。お待たせしてしまい申し訳ございません」
「まあ座れ」
部屋に入ってまず目に付いたのは、深々と頭を下げている落ち着いた紺色のドレスを着ているアリスト嬢とその両親。
「この度は我が娘が「そう何度も謝らなくていい」」
閣下の言葉にそれだけで僕が来るまでの状況が想像がついてしまう。
いつもなら僕を見つけると瞳を輝かせて嬉しそうな顔をするアリスト嬢が僕に見向きもせず、真っ直ぐに閣下を見ている。
彼女がここに居るということは妹の仕出かしたことを知っているのだろう。
「もう決めたのか?」
「は、はい。娘の行動に気が付かなかったのは親である私どもの責任です。我がアリスト家は爵位を返上することに決めました。⋯⋯スティアート公爵にも本当にご迷惑をおかけし申し訳ございませんでした。二度とリディアが貴方の前に現れることはございません」
「い、今まで⋯⋯ほ、本当に申し訳ご、ざいませんで⋯⋯した」
⋯⋯⋯⋯。
いつもは真っ直ぐに僕を見つめるピンク色の瞳は今は伏せられて見ることが出来ない。
「閣下。申し訳ないのですが少し席を外しても?」
「⋯⋯ああ。行ってこい」
「アリスト嬢、ちょっと話そうか」
「え?」
やっと僕を見たね。
でもいつものキラキラした瞳ではない。
「さあ」
僕が手を差し出しても、僕と僕の手を何度も交互に見て中々手を掴もうとしない。
仕方がないな~。
「行くよ」
彼女の手を強引に掴んだ。
⋯⋯君の手は握り潰してしまいそうな程、小さくて細かったんだね。
昔はぷくぷくしていたのにね。
今までずっと冷たくして⋯⋯ごめんね。
「む、娘が申し訳ございませんでした」
「い、妹が申し訳ございませんでした」
今、私の目の前で震えながら頭を下げているのはあの夜会でド派手どピンクだった女性とアリスト伯爵夫妻。
最初はどピンクが衝撃的すぎて顔を見ても誰だか分からなかった。だって今日は控えめで落ち着いた紺色のドレスを着ていたから。
うん、こっちの方が彼女には似合っている。
そしてなぜ謝られているのか⋯⋯首を傾げてしまう。
私には意味が分からないけれど、隣に座っている父様は理由を知っていそうだ。
だって父様の顔が⋯⋯怖いって!また彼女を気絶させるつもりなの?
たぶんだけれどセシル・アリスト伯爵令嬢が何かしらを私にしたのか、しようとしたのだろう。思い当たる節はところどころにあったりする⋯⋯が、彼女を最近見かけていない。
「ルナ、父様はアリスト伯爵と大切な話があるから部屋に行っていなさい」
「え?は、はい」
どんな話し合いが行われるのか気になるけれど⋯⋯
部屋を退室する前にリディア様が視界に入った。
瞳に涙を浮かべてはいるけれど、口を引き締めて涙を零さないように耐えている姿が痛ましい。
以前は父様を怖がっている様子だったのに、今は真っ直ぐに父様から目を逸らしていない⋯⋯
ド派手どピンクの時よりずっといい。
本来の彼女はこちらの方かもしれない。
先程のアリスト伯爵夫妻やリディア様を見て⋯⋯甘い考えなのかもしれないけれど、もしセリア様が取り返しのつかないことをしてしまったのだとしても、姉であるリディア様やご両親にまで責任の追求をして欲しくないと思ってしまう⋯⋯のは、私が公爵令嬢としての覚悟が足りないからなのかもしれない。
話の内容が気になるものの、父様の指示だもの大人しく私室に向かっていると前からロー兄様が歩いてくるのが見えた。
「おはようルナ」
「おはようロー兄様。父様に用事なら今は来客中なの」
「知っているよ。僕もアリスト伯爵家の人たちに大事な話があるからね」
「そうなんだ」
「じゃあ行くよ」
いつものロー兄様なんだけど、何か様子が違って見えた。ロー兄様まで加わると⋯⋯リディア様大丈夫かな?
ここからは大人の話なのね。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
~応接間での会話(ロー兄様視点)~
「失礼します。お待たせしてしまい申し訳ございません」
「まあ座れ」
部屋に入ってまず目に付いたのは、深々と頭を下げている落ち着いた紺色のドレスを着ているアリスト嬢とその両親。
「この度は我が娘が「そう何度も謝らなくていい」」
閣下の言葉にそれだけで僕が来るまでの状況が想像がついてしまう。
いつもなら僕を見つけると瞳を輝かせて嬉しそうな顔をするアリスト嬢が僕に見向きもせず、真っ直ぐに閣下を見ている。
彼女がここに居るということは妹の仕出かしたことを知っているのだろう。
「もう決めたのか?」
「は、はい。娘の行動に気が付かなかったのは親である私どもの責任です。我がアリスト家は爵位を返上することに決めました。⋯⋯スティアート公爵にも本当にご迷惑をおかけし申し訳ございませんでした。二度とリディアが貴方の前に現れることはございません」
「い、今まで⋯⋯ほ、本当に申し訳ご、ざいませんで⋯⋯した」
⋯⋯⋯⋯。
いつもは真っ直ぐに僕を見つめるピンク色の瞳は今は伏せられて見ることが出来ない。
「閣下。申し訳ないのですが少し席を外しても?」
「⋯⋯ああ。行ってこい」
「アリスト嬢、ちょっと話そうか」
「え?」
やっと僕を見たね。
でもいつものキラキラした瞳ではない。
「さあ」
僕が手を差し出しても、僕と僕の手を何度も交互に見て中々手を掴もうとしない。
仕方がないな~。
「行くよ」
彼女の手を強引に掴んだ。
⋯⋯君の手は握り潰してしまいそうな程、小さくて細かったんだね。
昔はぷくぷくしていたのにね。
今までずっと冷たくして⋯⋯ごめんね。
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