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あれからエリザベスの顔を見ることなく冬季休暇に入った。
彼女とフォネス伯爵夫妻がどんな決断をするのか、このまま脅迫され続けるのを耐えるのか、それとも自ら全てを告白して罪を償うか⋯⋯今さら私には関係は無いけれど、どちらを選んだとしても破滅は免れないだろう。
そして新年を祝う夜会の日がきた。
実はこの日を待ちわびていたんだよね。
それと言うのもフェイから夜会のお誘いがあったからだ。ドレスや装飾品の準備もすでに出来ていると。
手紙のやり取りはずっと続いていたけれど、実際に会うのは約三ヶ月ぶりで、朝から磨かれるのも少量の食事しか食べられなくてもドキドキとワクワクでそんな些細なことは気にもならなかった。
仏頂面の父様の相手はアリーがかって出てくれた。
今回も支度の最中にアリーの『もっと寄せて』だとか『背中からも持ってきて』の声が私の部屋にまで聞こえていた。
もう意味は分かっている。⋯⋯頑張って谷間を作っていたんだね。
父様にも聞こえていたのか、登場したアリーを見て呆れたように溜め息を吐いたのを見てしまった。
今回はエントランスで私たちがフェイの到着を待っていたのだけれど、そんなに待つことなくフェイが現れた。
⋯⋯コレって⋯⋯お揃いってやつでは。
一気に父様の機嫌が悪くなったけれど、それに構ってられないぐらい私の顔が熱くなった。
「ルナ会いたかった。俺の贈ったドレスもすごく似合っている。⋯⋯相変わらず綺麗だ」
う~私はこんなにドキドキしているっていうのにフェイの平気そうな顔がムカつく~!
「あ、ありがとう。フェイもいい感じよ」
「ははっルナ、やっと俺を意識したか?」
そんなのもっと前から意識してるってば!
しゃがんで私の顔を覗き込むフェイが顔を近づけてくるから恥ずかしくて「さあね」と顔を逸らしてしまう。
「もう、イチャイチャするなら馬車に乗ってからしなさいよ。これ以上見せたらブラッディ様が暴れてしまうわよ」
アリーってば父様が暴れるだなんて⋯⋯と、父様?
父様が凄い顔でフェイを睨んでいるわ!
「さ、さあルナ行こうか」
慌てたようにフェイに手を掴まれて待たせている馬車に向かった。
今回もフェイと私の乗る馬車と、父様とアリーの乗る馬車は別々なんだけど乗り込む前にもう一度父様に振り向くと⋯⋯寂しそうな顔で手を振ってくれていた。
父様⋯⋯そんな顔しなくても大丈夫なんだよ。私はどこにも行かないよ。ずっと、ずっとこの邸で父様と一緒に暮らすのだから寂しくないよ。
そう言って早く父様を安心させてあげたい。
「危なかった、叔父上を怒らせる一歩手前だったな」
「もう!あまり父様を刺激しないでね?父様が寂しそうな顔をしていたんだよ可哀想でしょう」
「悪かったって、久しぶりにルナに会えて嬉しすぎてテンションが上がってしまったんだ」
シュンっと反省するフェイが可愛い。
今、胸がキュンってなったよ。
「わ、私もフェイに会えて嬉しいよ?」
「はははっ、なんでそこは疑問形なんだよ」
他愛もない話をしていると目的地の王宮まではすぐだった。
フェイにエスコートされて父様とアリーの後に入場する。
前回同様会場中の視線を集めているけれど、私を除いた三人が王族と思えば注目されるのは当然だと。それにこの雰囲気にも慣れてきた。
ただ、前回と違ったことは王族の入場時、ロイド殿下の隣にエリザベスがいなかったことぐらい。
あの日エリザベスが帰ってからフォネス伯爵家でどんな話し合いがあったのか、どう決断したのか私は知らない。
派手で目立つのが好きだったエリザベスがこの場に参加していないってことは⋯⋯でも、ロイド殿下との婚約が白紙なっただとか、破棄になっただとかは父様からもロー兄様からも聞いていない。それにフォネス伯爵家のことも⋯⋯
まあ、私が気にすることではないと、気持ちを切り替えて王族に挨拶をしに行った。当然のように私の隣にはフェイがいるけれど、王妃様が嬉しそうな顔をしているからいいか。
そして今、私はフェイとファーストダンスを踊っているのだけれど⋯⋯上から私を見下ろすフェイの眼差しが優しくてドキドキが止まらない。
「フェ、フェイ?」
「なんだ?」
気持ちを早く伝えたいのに、こ、ここでは無理!
「フェイに⋯⋯話があるの」
!!
「⋯⋯ああ、聞かせてくれるか?」
何の話かフェイには分かったみたいで一瞬目を見開いてから頷いた。
一曲が終わり次は父様と踊る約束だと、周りを見渡しても父様が見つからない。父様と踊っていたアリーもロー兄様まで⋯⋯。
何百人と集まっているもの見つけられなくても当然と言えば当然か。
「フェイ、父様たちが見つかるまで一緒にいてくれる?」
「当たり前だろ?ルナを一人になんかしないさ」
私たちはホールの隅に寄り暫く会話を楽しんでいたところに、給仕の方が父様からの伝言を伝えに来てくれた。
「ねえ、用を済ませてから帰るって何かあったのかしら?」
「さあ?アイリーン王女も一緒だし父上も交えて何か話でもあるんじゃないか?」
「そうかな」
先に帰るようにって伝えられたけれど、父様を置いて帰ってもいいのかな~
「叔父上なら大丈夫だ。ダンスも踊ったしルナ送るよ」
「え、ええ」
何となく冷静なフェイは何が起こっているのか知っているような気がするけれど、今は父様の指示に従って帰った方がいいと判断してフェイと二人会場を後にした。
結局、この日は父様たちのことが気になってフェイに気持ちを伝えることをすっかり忘れてしまったと気付いた時はベッドの中だった⋯⋯
フェイごめんね。
次に会った時にはちゃんと気持ちを伝えるから、それまで待っていてね。
おやすみなさい。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
~フェイ視点~
ルナの話ってなんだったんだよ!
この間の返事だよな?それとも違う話なのか?気になって仕方がない。
が、今はこっちに集中だ。
目の前の女が俺に媚びた目を向けている。
⋯⋯馬鹿な女だ。
俺はルナだけが欲しい。
ルナ以外に興味はない。
ルナに暗殺者を向けるよう命令するような女だ。
さあ、この女をどうしてやろう?
彼女とフォネス伯爵夫妻がどんな決断をするのか、このまま脅迫され続けるのを耐えるのか、それとも自ら全てを告白して罪を償うか⋯⋯今さら私には関係は無いけれど、どちらを選んだとしても破滅は免れないだろう。
そして新年を祝う夜会の日がきた。
実はこの日を待ちわびていたんだよね。
それと言うのもフェイから夜会のお誘いがあったからだ。ドレスや装飾品の準備もすでに出来ていると。
手紙のやり取りはずっと続いていたけれど、実際に会うのは約三ヶ月ぶりで、朝から磨かれるのも少量の食事しか食べられなくてもドキドキとワクワクでそんな些細なことは気にもならなかった。
仏頂面の父様の相手はアリーがかって出てくれた。
今回も支度の最中にアリーの『もっと寄せて』だとか『背中からも持ってきて』の声が私の部屋にまで聞こえていた。
もう意味は分かっている。⋯⋯頑張って谷間を作っていたんだね。
父様にも聞こえていたのか、登場したアリーを見て呆れたように溜め息を吐いたのを見てしまった。
今回はエントランスで私たちがフェイの到着を待っていたのだけれど、そんなに待つことなくフェイが現れた。
⋯⋯コレって⋯⋯お揃いってやつでは。
一気に父様の機嫌が悪くなったけれど、それに構ってられないぐらい私の顔が熱くなった。
「ルナ会いたかった。俺の贈ったドレスもすごく似合っている。⋯⋯相変わらず綺麗だ」
う~私はこんなにドキドキしているっていうのにフェイの平気そうな顔がムカつく~!
「あ、ありがとう。フェイもいい感じよ」
「ははっルナ、やっと俺を意識したか?」
そんなのもっと前から意識してるってば!
しゃがんで私の顔を覗き込むフェイが顔を近づけてくるから恥ずかしくて「さあね」と顔を逸らしてしまう。
「もう、イチャイチャするなら馬車に乗ってからしなさいよ。これ以上見せたらブラッディ様が暴れてしまうわよ」
アリーってば父様が暴れるだなんて⋯⋯と、父様?
父様が凄い顔でフェイを睨んでいるわ!
「さ、さあルナ行こうか」
慌てたようにフェイに手を掴まれて待たせている馬車に向かった。
今回もフェイと私の乗る馬車と、父様とアリーの乗る馬車は別々なんだけど乗り込む前にもう一度父様に振り向くと⋯⋯寂しそうな顔で手を振ってくれていた。
父様⋯⋯そんな顔しなくても大丈夫なんだよ。私はどこにも行かないよ。ずっと、ずっとこの邸で父様と一緒に暮らすのだから寂しくないよ。
そう言って早く父様を安心させてあげたい。
「危なかった、叔父上を怒らせる一歩手前だったな」
「もう!あまり父様を刺激しないでね?父様が寂しそうな顔をしていたんだよ可哀想でしょう」
「悪かったって、久しぶりにルナに会えて嬉しすぎてテンションが上がってしまったんだ」
シュンっと反省するフェイが可愛い。
今、胸がキュンってなったよ。
「わ、私もフェイに会えて嬉しいよ?」
「はははっ、なんでそこは疑問形なんだよ」
他愛もない話をしていると目的地の王宮まではすぐだった。
フェイにエスコートされて父様とアリーの後に入場する。
前回同様会場中の視線を集めているけれど、私を除いた三人が王族と思えば注目されるのは当然だと。それにこの雰囲気にも慣れてきた。
ただ、前回と違ったことは王族の入場時、ロイド殿下の隣にエリザベスがいなかったことぐらい。
あの日エリザベスが帰ってからフォネス伯爵家でどんな話し合いがあったのか、どう決断したのか私は知らない。
派手で目立つのが好きだったエリザベスがこの場に参加していないってことは⋯⋯でも、ロイド殿下との婚約が白紙なっただとか、破棄になっただとかは父様からもロー兄様からも聞いていない。それにフォネス伯爵家のことも⋯⋯
まあ、私が気にすることではないと、気持ちを切り替えて王族に挨拶をしに行った。当然のように私の隣にはフェイがいるけれど、王妃様が嬉しそうな顔をしているからいいか。
そして今、私はフェイとファーストダンスを踊っているのだけれど⋯⋯上から私を見下ろすフェイの眼差しが優しくてドキドキが止まらない。
「フェ、フェイ?」
「なんだ?」
気持ちを早く伝えたいのに、こ、ここでは無理!
「フェイに⋯⋯話があるの」
!!
「⋯⋯ああ、聞かせてくれるか?」
何の話かフェイには分かったみたいで一瞬目を見開いてから頷いた。
一曲が終わり次は父様と踊る約束だと、周りを見渡しても父様が見つからない。父様と踊っていたアリーもロー兄様まで⋯⋯。
何百人と集まっているもの見つけられなくても当然と言えば当然か。
「フェイ、父様たちが見つかるまで一緒にいてくれる?」
「当たり前だろ?ルナを一人になんかしないさ」
私たちはホールの隅に寄り暫く会話を楽しんでいたところに、給仕の方が父様からの伝言を伝えに来てくれた。
「ねえ、用を済ませてから帰るって何かあったのかしら?」
「さあ?アイリーン王女も一緒だし父上も交えて何か話でもあるんじゃないか?」
「そうかな」
先に帰るようにって伝えられたけれど、父様を置いて帰ってもいいのかな~
「叔父上なら大丈夫だ。ダンスも踊ったしルナ送るよ」
「え、ええ」
何となく冷静なフェイは何が起こっているのか知っているような気がするけれど、今は父様の指示に従って帰った方がいいと判断してフェイと二人会場を後にした。
結局、この日は父様たちのことが気になってフェイに気持ちを伝えることをすっかり忘れてしまったと気付いた時はベッドの中だった⋯⋯
フェイごめんね。
次に会った時にはちゃんと気持ちを伝えるから、それまで待っていてね。
おやすみなさい。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
~フェイ視点~
ルナの話ってなんだったんだよ!
この間の返事だよな?それとも違う話なのか?気になって仕方がない。
が、今はこっちに集中だ。
目の前の女が俺に媚びた目を向けている。
⋯⋯馬鹿な女だ。
俺はルナだけが欲しい。
ルナ以外に興味はない。
ルナに暗殺者を向けるよう命令するような女だ。
さあ、この女をどうしてやろう?
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