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~エリザベス視点~
「お前は馬鹿なのか!我が家を潰す気か!」
お父様に呼ばれ執務室に入るなり怒鳴り声が飛んできた。
いつもわたくしに優しいお父様のこんなに怒った顔は生まれて初めてで、何故怒鳴られたのかわたくしが何かしてしまったのか聞くことも出来なくて体が震えてしまう。
お父様の隣にいるお母様も庇ってくれる気配もなく顔は真っ青なのにわたくしを睨んでいるの。
「ご、ごめんなさい」
謝れば許してくれる⋯⋯いつもはそうだから。
でも今回は違った。
「お前の所為で⋯⋯お前の所為で我が家は脅されたんだぞ!」
脅される?
わたくしは脅されるようなことをした覚えはないわ。
訳が分からない。
「アリスト伯爵家の次女と言えば分かるか?」
「え?アリスト様は知っているけれどそれが何?」
アリスト様は良い人よ。
だってわたくしの話をずっと微笑んで聞いてくれたもの。
あの方とは仲良くなれると思うわ。
「その小娘が脅してきたんだ!」
「え?」
「フローラが生きていることをバラされたくなければ次の夜会用のドレスを買ってくれとな」
「え?」
「その次は宝石か金か⋯⋯」
「え?」
「⋯⋯何を話したんだ?」
「え?」
何をって⋯⋯ロイド様のことか、自慢のアクセサリーのこととか、王子妃教育の愚痴だとか⋯⋯あとは何だったかな?
「フローラのことを話しただろ?」
ああ!そうだわ。
ランベル様はお異母姉様だと思うって言ったわ。名前も似ているし顔だってフローラとそっくりだもの。
でも、お異母姉様は何年も前に家を追い出されて死亡届も出しているってアリスト様に教えたわ。
それだけよ?
わたくしの話を聞いてお父様が頭を抱えてしまったわ。
お異母姉様のことは話したらいけなかったの?
「フローラを追い出したことは誰にも言うなと何度も言ったよな?アイツは死亡届を提出したのだぞ!虚偽の死亡届を出すことは重罪だと教えたよな?我が家が罪に問われたらエリザベスが王族に嫁ぐことも出来なくなるのだぞ!分かっているのか!」
え?重罪?それって犯罪ってこと?
ロイド様と結婚出来なかったら王族になれないってこと?
「そ、それは嫌!わたくしはお姫様になるのよ!」
「だったら何故フローラのことを話したんだ!」
「だって⋯⋯だってアリスト様は優しくて⋯⋯」
「優しい?優しい女が脅迫なんてするか!」
「ど、どうすればいいの?」
「今回はドレスを与えるしかないだろう。次は何を要求されるか⋯⋯一度味を占めると調子に乗ってどんどん集られることになるはずだ」
わかんない!今からあれは嘘だと言えばいいの?
「何度も要求が続くと我が家はいずれ破産する。拒否すれば告発されて罪に問われる。よくて鉱山送りか爵位の剥奪⋯⋯最悪は処刑だ」
「え?しょ、処刑?それはわたくしもなの?」
「当たり前だ!お前のせいだろうが!」
え?やっぱりわたくしが原因になるの?
「ロ、ロイド様に相談すれば何とかならない?我が家を脅すような人だもの反対にアリスト様を処刑してもらいましょうよ!」
「だからお前は馬鹿なんだ!ロイド殿下にそんな権利はない。大体そんな話をしたらフローラの死の真相を調査されるだろ!」
じゃあどうすればいいの?
「分かったわ!アリスト様のお願いをずっと聞けばいいのよ!そうすれば黙っていてくれるわ」
「もういい⋯⋯部屋で謹慎していろ。学園もしばらく休むんだ」
あとはお父様が何とかしてくれるってことよね。
勉強も嫌いだから学園を休むことは問題ないわ。
それにその間は王子妃教育もないだろうし、部屋で謹慎なら一日中好きなことをして寝るのを繰り返せばいいわ。
わたくしは軽く考えていた。
アリスト様と話せば分かってくれると、脅しなんてやめてくれると、仲良くなれるとさえ思っていた。
それが甘い考えだと分かったのは王宮てデビュタントの夜会が開かれる前日⋯⋯我が家にアリスト様が訪問してきたの。
応接間に通してテーブルを挟んで向かいに座るアリスト様は、あの日話を聞いてくれた時とは別人のように感じた。
挨拶をするよりも早くアリスト様は⋯⋯
「逃がさないわよ?」
「な、なんで?」
「うふふ、わたくしには絶対に手に入れたいものがあるの。フォネス家の犯罪をバラされたくなければ協力してもらうわよ」
怖い、これが脅迫⋯⋯わたくしが余計なことを話したばかりに。
「⋯⋯い、嫌だと言ったら?」
「別にいいわよ?貴女たちフォネス伯爵家が破滅するだけだもの。わたくしは何も困らないわ」
どうしたら許されるの?
「⋯⋯」
「それだけ言いたかったの。帰るわ」
「どうすればいいの?」
アリスト様は席を立って扉の手前で立ち止まると振り向いてこう言ったの。
「そのうち指示を出すわ。もう、貴女はわたくしの言いなりになるしかないの。⋯⋯明日も、明後日も、ずっとエリザベスを見ているわ。逃げようだなんて思わないことね」と言って帰って行った。
アリスト様はずっと見てると言っていた。
アリスト様が欲しいものが手に入るまで続くの?
手に入っても解放されなかったら?
もう⋯⋯終わりかもしれない。
「お前は馬鹿なのか!我が家を潰す気か!」
お父様に呼ばれ執務室に入るなり怒鳴り声が飛んできた。
いつもわたくしに優しいお父様のこんなに怒った顔は生まれて初めてで、何故怒鳴られたのかわたくしが何かしてしまったのか聞くことも出来なくて体が震えてしまう。
お父様の隣にいるお母様も庇ってくれる気配もなく顔は真っ青なのにわたくしを睨んでいるの。
「ご、ごめんなさい」
謝れば許してくれる⋯⋯いつもはそうだから。
でも今回は違った。
「お前の所為で⋯⋯お前の所為で我が家は脅されたんだぞ!」
脅される?
わたくしは脅されるようなことをした覚えはないわ。
訳が分からない。
「アリスト伯爵家の次女と言えば分かるか?」
「え?アリスト様は知っているけれどそれが何?」
アリスト様は良い人よ。
だってわたくしの話をずっと微笑んで聞いてくれたもの。
あの方とは仲良くなれると思うわ。
「その小娘が脅してきたんだ!」
「え?」
「フローラが生きていることをバラされたくなければ次の夜会用のドレスを買ってくれとな」
「え?」
「その次は宝石か金か⋯⋯」
「え?」
「⋯⋯何を話したんだ?」
「え?」
何をって⋯⋯ロイド様のことか、自慢のアクセサリーのこととか、王子妃教育の愚痴だとか⋯⋯あとは何だったかな?
「フローラのことを話しただろ?」
ああ!そうだわ。
ランベル様はお異母姉様だと思うって言ったわ。名前も似ているし顔だってフローラとそっくりだもの。
でも、お異母姉様は何年も前に家を追い出されて死亡届も出しているってアリスト様に教えたわ。
それだけよ?
わたくしの話を聞いてお父様が頭を抱えてしまったわ。
お異母姉様のことは話したらいけなかったの?
「フローラを追い出したことは誰にも言うなと何度も言ったよな?アイツは死亡届を提出したのだぞ!虚偽の死亡届を出すことは重罪だと教えたよな?我が家が罪に問われたらエリザベスが王族に嫁ぐことも出来なくなるのだぞ!分かっているのか!」
え?重罪?それって犯罪ってこと?
ロイド様と結婚出来なかったら王族になれないってこと?
「そ、それは嫌!わたくしはお姫様になるのよ!」
「だったら何故フローラのことを話したんだ!」
「だって⋯⋯だってアリスト様は優しくて⋯⋯」
「優しい?優しい女が脅迫なんてするか!」
「ど、どうすればいいの?」
「今回はドレスを与えるしかないだろう。次は何を要求されるか⋯⋯一度味を占めると調子に乗ってどんどん集られることになるはずだ」
わかんない!今からあれは嘘だと言えばいいの?
「何度も要求が続くと我が家はいずれ破産する。拒否すれば告発されて罪に問われる。よくて鉱山送りか爵位の剥奪⋯⋯最悪は処刑だ」
「え?しょ、処刑?それはわたくしもなの?」
「当たり前だ!お前のせいだろうが!」
え?やっぱりわたくしが原因になるの?
「ロ、ロイド様に相談すれば何とかならない?我が家を脅すような人だもの反対にアリスト様を処刑してもらいましょうよ!」
「だからお前は馬鹿なんだ!ロイド殿下にそんな権利はない。大体そんな話をしたらフローラの死の真相を調査されるだろ!」
じゃあどうすればいいの?
「分かったわ!アリスト様のお願いをずっと聞けばいいのよ!そうすれば黙っていてくれるわ」
「もういい⋯⋯部屋で謹慎していろ。学園もしばらく休むんだ」
あとはお父様が何とかしてくれるってことよね。
勉強も嫌いだから学園を休むことは問題ないわ。
それにその間は王子妃教育もないだろうし、部屋で謹慎なら一日中好きなことをして寝るのを繰り返せばいいわ。
わたくしは軽く考えていた。
アリスト様と話せば分かってくれると、脅しなんてやめてくれると、仲良くなれるとさえ思っていた。
それが甘い考えだと分かったのは王宮てデビュタントの夜会が開かれる前日⋯⋯我が家にアリスト様が訪問してきたの。
応接間に通してテーブルを挟んで向かいに座るアリスト様は、あの日話を聞いてくれた時とは別人のように感じた。
挨拶をするよりも早くアリスト様は⋯⋯
「逃がさないわよ?」
「な、なんで?」
「うふふ、わたくしには絶対に手に入れたいものがあるの。フォネス家の犯罪をバラされたくなければ協力してもらうわよ」
怖い、これが脅迫⋯⋯わたくしが余計なことを話したばかりに。
「⋯⋯い、嫌だと言ったら?」
「別にいいわよ?貴女たちフォネス伯爵家が破滅するだけだもの。わたくしは何も困らないわ」
どうしたら許されるの?
「⋯⋯」
「それだけ言いたかったの。帰るわ」
「どうすればいいの?」
アリスト様は席を立って扉の手前で立ち止まると振り向いてこう言ったの。
「そのうち指示を出すわ。もう、貴女はわたくしの言いなりになるしかないの。⋯⋯明日も、明後日も、ずっとエリザベスを見ているわ。逃げようだなんて思わないことね」と言って帰って行った。
アリスト様はずっと見てると言っていた。
アリスト様が欲しいものが手に入るまで続くの?
手に入っても解放されなかったら?
もう⋯⋯終わりかもしれない。
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