43 / 71
43
しおりを挟む
~セリア・アリスト伯爵令嬢視点~
わたくしには馬鹿な姉がいる。
昔は7歳年の離れた姉のことが大好きだった。
優しくて頑張り屋でわたくしの自慢の姉だった。
それが軽蔑に変わったのは、初めて他家のお茶会にお母様と一緒に参加した時。
そこで知り合った令嬢と一緒にお花を摘みに行った帰りにお姉様の名前が聞こえてきたから思わず立ち止まって聞いてしまった。
「ねぇ知っています?噂のピンク令嬢のこと」
「ええ知っていますわよ!アリスト伯爵家のリディア様ですわよね」
「あのスティアート公爵家のローレンス様を執拗く追いかけ回していると聞きますわ」
「婚約の打診も何度も断られていると聞きましたわ」
「あの方にプライドってものはなのかしら?」
「いつも、いつもピンクのドレスばかり着て恥ずかしくないのかしら?」
この時、わたくしにとって優しい自慢の姉は、世間では嘲笑われ侮辱されていると知った。
隣で一緒に話を聞いていた令嬢に哀れみの視線を向けられた瞬間、羞恥でその場を走り去ってしまった。
帰りの馬車の中でお母様にその日に聞いた話を確認したら婚約の打診を断られたことも、外出にはピンクのドレスを着ることも本当だと⋯⋯
その日から姉を観察した。
普段は控えめなドレスで過ごすくせに、一歩外に出ることになれば頭からつま先までピンク一色にコーディネートして嬉しそうに出かけて行く。
帰ってきてからはスティアート子息がどうした、こうしたと興奮して話すお姉様はもうわたくしの自慢の姉とは思えなくなっていた。
いえ、令嬢たちから嘲笑われ侮辱されても笑っていられる姉が⋯⋯こんな人がわたくしの姉だなんて⋯⋯
何度もピンクはやめて!って姉にも言ったわ。
返事はいつも同じ『ローレンス様が褒めてくれたの』『彼にもう一度微笑んで欲しいの』『ローレンス様が好きなの』と言って聞こうとしなかった。
お父様とお母様はそんな恥ずかしい姉を微笑ましく見守っているだけで止めさせようともしない。
何不自由のない生活を与えられているから両親が姉ほど馬鹿だとは思わないけれど尊敬もできなくなった。
両親はわたくし達姉妹を分け隔てなく愛してくれているのは知っている。
でも、姉の所為でわたくしまで馬鹿にされるなんてプライドが許さなかった。
だから姉とは距離を置いた。
それでも姉がピンクのドレスでパーティーやお茶会に参加すれば、嫌でも陰口は耳に入ってしまう。
その度に『我が家の恥晒し』『行き遅れ』『アンタみたいな姉なら居ない方がいい』『この家から出て行け』と言った。
これだけ言っても変わろうとしない姉に、気付けば憎しみしか残っていなかった。
だって、だって、こんな姉がいたらフェリクス殿下も困るでしょう?
こんな姉が居なくなればわたくしを選んでくれるでしょう?
こんな恥ずかしい人が義姉になるのは嫌でしょう?
わたくしとフェリクス殿下との出会いは彼が14歳、わたくしが13歳の時だった。
その日お父様が書類を提出するために王宮に行くのを我儘を言ってついて行った時、お父様を待っている間美しい庭園を眺めていると、ザッと足音が聞こえて振り向くと金髪に青い瞳が鋭い素敵な⋯⋯そう、素敵な少年が泣きそうな、辛そうな顔で足早に去っていった。
目が合ったわけでもない、なんなら少年はわたくしの存在に気付きもしなかったと思う。
それでも少年のその時の表情に一瞬で心が奪われた。
その時はその少年が誰だか知らなかったけれど、父様に聞いて少年が第二王子だと知った。
三人の王子の中で鋭い目付きの人はフェリクス第二王子だと。
次に会えるのを楽しみに自分を磨いたわ。
学園に入学すれば簡単に近付けると思っていた。
たくさんの令嬢に囲まれても、追いかけられても⋯⋯フェリクス殿下は誰も傍に置かなかった。それどころか青い瞳に誰も映していなかった。
そのフェリクス殿下が⋯⋯夜会に顔も出さないフェリクス殿下が今年デビュタントした令嬢と楽しそうに会話をしながら笑顔を見せていた。
鋭い目は令嬢だけしか映していなかった。
わたくしはまだフェリクス殿下の声すら知らないのに⋯⋯
ルナフローラ・ランベル公爵令嬢。
学園に入学するまで大切に隠されていた王弟の娘。
フェリクス殿下の従兄妹。彼に一番近い存在。
邪魔なのよ。
だからね、女の扱いに長けている子爵家の男を使って傷物にしようとしたのにランベル様に相手にもされていなかった。
彼を追い込み誘導したのに⋯⋯いつの間にか学園を退学していた。
最後まで中途半端で役に立たない男だった。
新年を迎える夜会でもフェリクス殿下と踊ったのはランベル様だけ。
彼女だけにしかあんな顔を見せない。
やっぱりルナフローラ・ランベル公爵令嬢は邪魔だ。
次は誰を使おうか⋯⋯
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
す、すみませんm(_ _)m
公開予定時間を設定していませんでした。
わたくしには馬鹿な姉がいる。
昔は7歳年の離れた姉のことが大好きだった。
優しくて頑張り屋でわたくしの自慢の姉だった。
それが軽蔑に変わったのは、初めて他家のお茶会にお母様と一緒に参加した時。
そこで知り合った令嬢と一緒にお花を摘みに行った帰りにお姉様の名前が聞こえてきたから思わず立ち止まって聞いてしまった。
「ねぇ知っています?噂のピンク令嬢のこと」
「ええ知っていますわよ!アリスト伯爵家のリディア様ですわよね」
「あのスティアート公爵家のローレンス様を執拗く追いかけ回していると聞きますわ」
「婚約の打診も何度も断られていると聞きましたわ」
「あの方にプライドってものはなのかしら?」
「いつも、いつもピンクのドレスばかり着て恥ずかしくないのかしら?」
この時、わたくしにとって優しい自慢の姉は、世間では嘲笑われ侮辱されていると知った。
隣で一緒に話を聞いていた令嬢に哀れみの視線を向けられた瞬間、羞恥でその場を走り去ってしまった。
帰りの馬車の中でお母様にその日に聞いた話を確認したら婚約の打診を断られたことも、外出にはピンクのドレスを着ることも本当だと⋯⋯
その日から姉を観察した。
普段は控えめなドレスで過ごすくせに、一歩外に出ることになれば頭からつま先までピンク一色にコーディネートして嬉しそうに出かけて行く。
帰ってきてからはスティアート子息がどうした、こうしたと興奮して話すお姉様はもうわたくしの自慢の姉とは思えなくなっていた。
いえ、令嬢たちから嘲笑われ侮辱されても笑っていられる姉が⋯⋯こんな人がわたくしの姉だなんて⋯⋯
何度もピンクはやめて!って姉にも言ったわ。
返事はいつも同じ『ローレンス様が褒めてくれたの』『彼にもう一度微笑んで欲しいの』『ローレンス様が好きなの』と言って聞こうとしなかった。
お父様とお母様はそんな恥ずかしい姉を微笑ましく見守っているだけで止めさせようともしない。
何不自由のない生活を与えられているから両親が姉ほど馬鹿だとは思わないけれど尊敬もできなくなった。
両親はわたくし達姉妹を分け隔てなく愛してくれているのは知っている。
でも、姉の所為でわたくしまで馬鹿にされるなんてプライドが許さなかった。
だから姉とは距離を置いた。
それでも姉がピンクのドレスでパーティーやお茶会に参加すれば、嫌でも陰口は耳に入ってしまう。
その度に『我が家の恥晒し』『行き遅れ』『アンタみたいな姉なら居ない方がいい』『この家から出て行け』と言った。
これだけ言っても変わろうとしない姉に、気付けば憎しみしか残っていなかった。
だって、だって、こんな姉がいたらフェリクス殿下も困るでしょう?
こんな姉が居なくなればわたくしを選んでくれるでしょう?
こんな恥ずかしい人が義姉になるのは嫌でしょう?
わたくしとフェリクス殿下との出会いは彼が14歳、わたくしが13歳の時だった。
その日お父様が書類を提出するために王宮に行くのを我儘を言ってついて行った時、お父様を待っている間美しい庭園を眺めていると、ザッと足音が聞こえて振り向くと金髪に青い瞳が鋭い素敵な⋯⋯そう、素敵な少年が泣きそうな、辛そうな顔で足早に去っていった。
目が合ったわけでもない、なんなら少年はわたくしの存在に気付きもしなかったと思う。
それでも少年のその時の表情に一瞬で心が奪われた。
その時はその少年が誰だか知らなかったけれど、父様に聞いて少年が第二王子だと知った。
三人の王子の中で鋭い目付きの人はフェリクス第二王子だと。
次に会えるのを楽しみに自分を磨いたわ。
学園に入学すれば簡単に近付けると思っていた。
たくさんの令嬢に囲まれても、追いかけられても⋯⋯フェリクス殿下は誰も傍に置かなかった。それどころか青い瞳に誰も映していなかった。
そのフェリクス殿下が⋯⋯夜会に顔も出さないフェリクス殿下が今年デビュタントした令嬢と楽しそうに会話をしながら笑顔を見せていた。
鋭い目は令嬢だけしか映していなかった。
わたくしはまだフェリクス殿下の声すら知らないのに⋯⋯
ルナフローラ・ランベル公爵令嬢。
学園に入学するまで大切に隠されていた王弟の娘。
フェリクス殿下の従兄妹。彼に一番近い存在。
邪魔なのよ。
だからね、女の扱いに長けている子爵家の男を使って傷物にしようとしたのにランベル様に相手にもされていなかった。
彼を追い込み誘導したのに⋯⋯いつの間にか学園を退学していた。
最後まで中途半端で役に立たない男だった。
新年を迎える夜会でもフェリクス殿下と踊ったのはランベル様だけ。
彼女だけにしかあんな顔を見せない。
やっぱりルナフローラ・ランベル公爵令嬢は邪魔だ。
次は誰を使おうか⋯⋯
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
す、すみませんm(_ _)m
公開予定時間を設定していませんでした。
4,786
お気に入りに追加
8,415
あなたにおすすめの小説
【完】前世で種を疑われて処刑されたので、今世では全力で回避します。
112
恋愛
エリザベスは皇太子殿下の子を身籠った。産まれてくる我が子を待ち望んだ。だがある時、殿下に他の男と密通したと疑われ、弁解も虚しく即日処刑された。二十歳の春の事だった。
目覚めると、時を遡っていた。時を遡った以上、自分はやり直しの機会を与えられたのだと思った。皇太子殿下の妃に選ばれ、結ばれ、子を宿したのが運の尽きだった。
死にたくない。あんな最期になりたくない。
そんな未来に決してならないように、生きようと心に決めた。
裏切りの代償
志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。
家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。
連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。
しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。
他サイトでも掲載しています。
R15を保険で追加しました。
表紙は写真AC様よりダウンロードしました。
旦那様、離婚しましょう
榎夜
恋愛
私と旦那は、いわゆる『白い結婚』というやつだ。
手を繋いだどころか、夜を共にしたこともありません。
ですが、とある時に浮気相手が懐妊した、との報告がありました。
なので邪魔者は消えさせてもらいますね
*『旦那様、離婚しましょう~私は冒険者になるのでお構いなく!~』と登場人物は同じ
本当はこんな感じにしたかったのに主が詰め込みすぎて......
【完結】恋人との子を我が家の跡取りにする? 冗談も大概にして下さいませ
水月 潮
恋愛
侯爵家令嬢アイリーン・エヴァンスは遠縁の伯爵家令息のシリル・マイソンと婚約している。
ある日、シリルの恋人と名乗る女性・エイダ・バーク男爵家令嬢がエヴァンス侯爵邸を訪れた。
なんでも彼の子供が出来たから、シリルと別れてくれとのこと。
アイリーンはそれを承諾し、二人を追い返そうとするが、シリルとエイダはこの子を侯爵家の跡取りにして、アイリーンは侯爵家から出て行けというとんでもないことを主張する。
※設定は緩いので物語としてお楽しみ頂けたらと思います
☆HOTランキング20位(2021.6.21)
感謝です*.*
HOTランキング5位(2021.6.22)
【完結】初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
お父様、お母様、わたくしが妖精姫だとお忘れですか?
サイコちゃん
恋愛
リジューレ伯爵家のリリウムは養女を理由に家を追い出されることになった。姉リリウムの婚約者は妹ロサへ譲り、家督もロサが継ぐらしい。
「お父様も、お母様も、わたくしが妖精姫だとすっかりお忘れなのですね? 今まで莫大な幸運を与えてきたことに気づいていなかったのですね? それなら、もういいです。わたくしはわたくしで自由に生きますから」
リリウムは家を出て、新たな人生を歩む。一方、リジューレ伯爵家は幸運を失い、急速に傾いていった。
別れてくれない夫は、私を愛していない
abang
恋愛
「私と別れて下さい」
「嫌だ、君と別れる気はない」
誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで……
彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。
「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」
「セレンが熱が出たと……」
そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは?
ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。
その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。
「あなた、お願いだから別れて頂戴」
「絶対に、別れない」
比べないでください
わらびもち
恋愛
「ビクトリアはこうだった」
「ビクトリアならそんなことは言わない」
前の婚約者、ビクトリア様と比べて私のことを否定する王太子殿下。
もう、うんざりです。
そんなにビクトリア様がいいなら私と婚約解消なさってください――――……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる