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「む、娘が申し訳ございませんでした」
「い、妹が申し訳ございませんでした」
今、私の目の前で震えながら頭を下げているのはあの夜会でド派手どピンクだった女性とアリスト伯爵夫妻。
最初はどピンクが衝撃的すぎて顔を見ても誰だか分からなかった。だって今日は控えめで落ち着いた紺色のドレスを着ていたから。
うん、こっちの方が彼女には似合っている。
そしてなぜ謝られているのか⋯⋯首を傾げてしまう。
私には意味が分からないけれど、隣に座っている父様は理由を知っていそうだ。
だって父様の顔が⋯⋯怖いって!また気絶させるつもりなの?
たぶんだけれどセリア・アリスト伯爵令嬢が何かしらを私にしたのだろう。思い当たる節はところどころにあったりする⋯⋯
冬期休暇が終わり新学期が始まった。その初日だ。
馬車から降りると以前クラスメイトのローゼリア様の元婚約者の浮気相手がいた。男爵令嬢だったと思う。名前は覚えていない。
婚約者がいると知っていて懇意にし、さらに冤罪までかけようとした人だ。
今まで一度も挨拶すらしたことがない人が「おはようございますランベル様。今日もお綺麗で羨ましいですわ」と、突然褒めちぎりながら話しかけてきた。私が警戒するのは当然よね。取り敢えず挨拶だけは返してまだ話しかけようとする令嬢に「ご機嫌よう」と続きは言わせなかった。
その日から移動をする度に声を掛けてくるようになった。あれはうちのクラスの時間割と私の行動パターンを把握していたのだろう。
寒くなったこの頃のお昼休憩はあの場所には行けなくなった。
そして今はフェイが教えてくれた部屋(王族専用だと後から知った)に向かっていたら着いてきた⋯⋯
入り口で警護の人に止められてからは彼女も着いてこなくなったけれど⋯⋯執拗い。
こうなると何かしら企んでいると更に警戒してしまう。
フェイはもちろん父様には報告済みね。
その日も彼女に付きまとわれウンザリしていたところに「いい加減になさいませ!ランベル様が困っているのが分かりませんの?」と、知らない令嬢が助けてくれた。
「失礼しました。わたくしセリア・アリストと申します。余計なお世話かと思いましたが最近のダルド男爵令嬢の行動にお困りかと思いまして⋯⋯」
ダルド男爵令嬢ね。
うん、困っていたよ。
でも困ってはいたけれど毎日だったからね、本人の意思で付き纏っているとは思えなくなったんだよね。
まるで誰かに命令されているような⋯⋯ね?
「アリスト様ありがとうございます。そしてダルド様。申し訳ございませんが、待ち伏せなどされると本当に困りますの。御用がございませんのでしたらコレっきりにして下さいませ」
「は、はい⋯⋯申し訳ございませんでした」
と逃げるようにどこかに行ってしまったけれど⋯⋯まだアリスト様は残っているわね。
「ではアリスト様。私もコレで失礼しますわ」
綺麗な令嬢だったわね。
真っ直ぐな黒髪に赤い瞳が印象的だった。
ダルド様と同じ青のリボンだから二年生ね。
あれ以来ダルド男爵令嬢が私の前に現れることはなくなった。その代わりにアリスト様をお見かけする頻度が増えた気がする。その度に会釈をするけれど話しかけられることはなかった。
フェイにも一応アリスト様のことは話しているけれどいい顔はされなかった。
どうもフェイは令嬢に追いかけられ過ぎてか女性不信なところがあるように見受けられる。
「アイツには気をつけろ。アイツだけではない、ルナを利用しようとする人間は何処にでもいると思っていた方がいい」
うん、私もそれぐらい分かっている。
だって私は王弟の娘で公爵令嬢だからね。
表の顔だけが全てではないことぐらいは私でも知っている。
それに⋯⋯私は人を信じられない人間かもしれない。
今も限られた人しか信じられないもの。
そしてフェイが卒業する日がやってきた。
結局フェイとは半年ほどの付き合いでしかないけれど、大人ばかりに囲まれて育った私にとって唯一友人と呼べる存在だ。
フェイが卒業してしまうとまた一人に戻るのかと思うと寂しく感じてしまう。フェイと過ごす時間があまりにも心地が良かったから⋯⋯だからそう思うのよね?ずっと一人でも平気だと思っていたのにな。
「ルナが卒業する時にパートナーがいなければ俺に声をかけろよ?必ず引き受けてやるからな」
そう、フェイに卒業パーティーのパートナーになって欲しいとお願いされたんだよね。
もちろん唯一の友人であるフェイの卒業を祝うのは当然なので快く引き受けたわ。
「いいの?じゃあ今から予約しておこうかな?⋯⋯でも、その時にフェイに婚約者がいたら無理だよね」
「⋯⋯ルナが俺の⋯いや大丈夫だ。俺はまだ誰とも婚約するつもりは無いからな」
「またフェイと踊れるんだ~そう思ったら嬉しくなっちゃう」
「ああ、約束だ」
ちょうど一曲目の音楽が終わった。⋯⋯楽しい時間が終わってしまった。残念に思っていたら「これは約束の印だ」とフェイに引き寄せられ、え?と思うと同時に額にキスされた。
周りからは悲鳴が聞こえたけれど、そんなものは関係ないとばかりに真っ直ぐに私だけを見つめるフェイの眼差しがまるで私を愛しい者を見るような⋯⋯
「ランベル様!」
え?
「い、妹が申し訳ございませんでした」
今、私の目の前で震えながら頭を下げているのはあの夜会でド派手どピンクだった女性とアリスト伯爵夫妻。
最初はどピンクが衝撃的すぎて顔を見ても誰だか分からなかった。だって今日は控えめで落ち着いた紺色のドレスを着ていたから。
うん、こっちの方が彼女には似合っている。
そしてなぜ謝られているのか⋯⋯首を傾げてしまう。
私には意味が分からないけれど、隣に座っている父様は理由を知っていそうだ。
だって父様の顔が⋯⋯怖いって!また気絶させるつもりなの?
たぶんだけれどセリア・アリスト伯爵令嬢が何かしらを私にしたのだろう。思い当たる節はところどころにあったりする⋯⋯
冬期休暇が終わり新学期が始まった。その初日だ。
馬車から降りると以前クラスメイトのローゼリア様の元婚約者の浮気相手がいた。男爵令嬢だったと思う。名前は覚えていない。
婚約者がいると知っていて懇意にし、さらに冤罪までかけようとした人だ。
今まで一度も挨拶すらしたことがない人が「おはようございますランベル様。今日もお綺麗で羨ましいですわ」と、突然褒めちぎりながら話しかけてきた。私が警戒するのは当然よね。取り敢えず挨拶だけは返してまだ話しかけようとする令嬢に「ご機嫌よう」と続きは言わせなかった。
その日から移動をする度に声を掛けてくるようになった。あれはうちのクラスの時間割と私の行動パターンを把握していたのだろう。
寒くなったこの頃のお昼休憩はあの場所には行けなくなった。
そして今はフェイが教えてくれた部屋(王族専用だと後から知った)に向かっていたら着いてきた⋯⋯
入り口で警護の人に止められてからは彼女も着いてこなくなったけれど⋯⋯執拗い。
こうなると何かしら企んでいると更に警戒してしまう。
フェイはもちろん父様には報告済みね。
その日も彼女に付きまとわれウンザリしていたところに「いい加減になさいませ!ランベル様が困っているのが分かりませんの?」と、知らない令嬢が助けてくれた。
「失礼しました。わたくしセリア・アリストと申します。余計なお世話かと思いましたが最近のダルド男爵令嬢の行動にお困りかと思いまして⋯⋯」
ダルド男爵令嬢ね。
うん、困っていたよ。
でも困ってはいたけれど毎日だったからね、本人の意思で付き纏っているとは思えなくなったんだよね。
まるで誰かに命令されているような⋯⋯ね?
「アリスト様ありがとうございます。そしてダルド様。申し訳ございませんが、待ち伏せなどされると本当に困りますの。御用がございませんのでしたらコレっきりにして下さいませ」
「は、はい⋯⋯申し訳ございませんでした」
と逃げるようにどこかに行ってしまったけれど⋯⋯まだアリスト様は残っているわね。
「ではアリスト様。私もコレで失礼しますわ」
綺麗な令嬢だったわね。
真っ直ぐな黒髪に赤い瞳が印象的だった。
ダルド様と同じ青のリボンだから二年生ね。
あれ以来ダルド男爵令嬢が私の前に現れることはなくなった。その代わりにアリスト様をお見かけする頻度が増えた気がする。その度に会釈をするけれど話しかけられることはなかった。
フェイにも一応アリスト様のことは話しているけれどいい顔はされなかった。
どうもフェイは令嬢に追いかけられ過ぎてか女性不信なところがあるように見受けられる。
「アイツには気をつけろ。アイツだけではない、ルナを利用しようとする人間は何処にでもいると思っていた方がいい」
うん、私もそれぐらい分かっている。
だって私は王弟の娘で公爵令嬢だからね。
表の顔だけが全てではないことぐらいは私でも知っている。
それに⋯⋯私は人を信じられない人間かもしれない。
今も限られた人しか信じられないもの。
そしてフェイが卒業する日がやってきた。
結局フェイとは半年ほどの付き合いでしかないけれど、大人ばかりに囲まれて育った私にとって唯一友人と呼べる存在だ。
フェイが卒業してしまうとまた一人に戻るのかと思うと寂しく感じてしまう。フェイと過ごす時間があまりにも心地が良かったから⋯⋯だからそう思うのよね?ずっと一人でも平気だと思っていたのにな。
「ルナが卒業する時にパートナーがいなければ俺に声をかけろよ?必ず引き受けてやるからな」
そう、フェイに卒業パーティーのパートナーになって欲しいとお願いされたんだよね。
もちろん唯一の友人であるフェイの卒業を祝うのは当然なので快く引き受けたわ。
「いいの?じゃあ今から予約しておこうかな?⋯⋯でも、その時にフェイに婚約者がいたら無理だよね」
「⋯⋯ルナが俺の⋯いや大丈夫だ。俺はまだ誰とも婚約するつもりは無いからな」
「またフェイと踊れるんだ~そう思ったら嬉しくなっちゃう」
「ああ、約束だ」
ちょうど一曲目の音楽が終わった。⋯⋯楽しい時間が終わってしまった。残念に思っていたら「これは約束の印だ」とフェイに引き寄せられ、え?と思うと同時に額にキスされた。
周りからは悲鳴が聞こえたけれど、そんなものは関係ないとばかりに真っ直ぐに私だけを見つめるフェイの眼差しがまるで私を愛しい者を見るような⋯⋯
「ランベル様!」
え?
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