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~子爵家三男視点~
最初はただの遊びのつもりだった。
たとえ彼女が僕を選んだとしても子爵家の三男の僕が公爵家の婿になれるなんて本気で思っていた訳ではなかった。
少しだけ夢を見てしまっただけなんだ。
僕は子爵家の三男に生まれ、学園を卒業したら家を出なければいけなくなることは、随分前から分かっていた。
下位貴族とはいえ、平民では考えられないくらいの生活をしてきた僕が⋯⋯特別勉学が優れてるわけでもなく、騎士になるほど腕が立つわけでもない。
だが今さら平民として長い人生を生きていくなんて無理だと思っていた。
だから唯一の取り柄でもある顔を利用して女性を口説き落とし、将来はどこかの貴族家に婿養子に迎えてもらうつもりだった。
そのための努力だけは怠ったことはない。
同じ下位貴族の令嬢でさえ、貴族というだけで傲慢な態度と見下した口調。そして我儘だ。
そんな彼女たちの扱いを僕は上手く出来ていたと思う。
それに見目好い僕は令嬢たちから人気があった。最初は警戒していても男慣れしていない令嬢など僕の話術と演技でイチコロだった。
そんな時だ、伯爵家の令嬢から声を掛けられたのは⋯⋯
彼女は不相応にも難攻不落と言われるフェリクス殿下を狙っていた。
そして彼女の姉もスティアート公爵を⋯⋯姉妹で格上で極上の男を欲するなんて馬鹿だと思った。
話を聞けば彼女たち姉妹は王子だから嫁ぎたいとか、高位貴族だから嫁ぎたいのではなく、本気で彼らが好きで手に入れたいと言うのだ。
そのせいか姉の方は婚期まで逃している。
本来ならそんな話に乗ったりしない。ただ相手が好きだから手に入れたいと思う一途な思いに少しだけ動かされてしまったんだ。
その姉妹の邪魔をする令嬢がランベル嬢だ。
彼女のことは僕でも名前は知っていた。
とても綺麗な子が入学してきたと噂になっていたからだ。
それに箱入り娘だと聞いて簡単に落とせると思った。
運が良ければ公爵家への婿入り⋯⋯は無理でも言伝を使って他家または金持ちの商家への紹介をしてもらえる。僕は相手が誰だろうが話術で言いくるめられる自信がはあった。
働かずして今以上の生活を手に入れられるなんて最高じゃないか!
上手く近づけたと思った。
遠巻きに見られる彼女はいつも一人だったから。
だから僕が優しく慰め傷ついた心を癒してあげればいい。僕にとっては簡単なことだと思っていた。
⋯⋯僕の失敗は最初の自己紹介を怠ったことだ。
モテる僕を知らない令嬢がいるなんて思いもよらなかった。
令嬢たちにチヤホヤされて天狗になっていた。
だからランベル嬢に『それに"以前のようにランチを一緒に"ですか?私はいつも一人で昼食をとっていますよ?たまたま貴方が同じ席にお座りになっただけですよ?それに⋯⋯私は貴方のお名前も知らないのですが?』なんて言われるまで相手にもされていなかった事に気づかなかった。
飛んだピエロだよ。
生徒たちの前で恥をかかされた僕はそこで手を引けばよかったんだ。
なのに⋯⋯伯爵令嬢に馬鹿にされムキになってしまった。
手段を選ばない。
汚い手を使おうとしたのが愚かだった。
計画を立てただけならまだよかった。
街のチンピラに依頼までしてしまったのが⋯⋯椅子に座らされ手足は縛られている状態なんだ。
フェリクス殿下⋯⋯なぜ彼が目の前にいるのか。
「お前が『ルナ』に近付いた時から見張っていた」
彼女は王子に愛称で呼ばれるほど近しい令嬢だったのか⋯⋯王弟の娘。
そうだ、王子たちとは血縁関係だった。こんな簡単な事実にも考えが及ばないから僕は愚か者なのだ。
「適当にその辺の女で手を打てばよかったものを、『ルナ』にまで手を伸ばしたのが運の尽きだ」
⋯⋯⋯⋯。
「命まで奪わない。だが覚悟はしておけ。彼等はお怒りだ」
彼等とは?
フェリクス殿下はそれだけ言って部屋から出て行ったが、その後に入ってきた二人を見て絶望した。
ああ僕は彼らの怒りに触れたのだ。
もう僕は貴族ではいられない。
それどころかこの先の未来を夢見ることすら許されないだろう。
願わくば善良な両親と兄たちには迷惑が及ばないことを祈ることしか僕には出来ない⋯⋯
最初はただの遊びのつもりだった。
たとえ彼女が僕を選んだとしても子爵家の三男の僕が公爵家の婿になれるなんて本気で思っていた訳ではなかった。
少しだけ夢を見てしまっただけなんだ。
僕は子爵家の三男に生まれ、学園を卒業したら家を出なければいけなくなることは、随分前から分かっていた。
下位貴族とはいえ、平民では考えられないくらいの生活をしてきた僕が⋯⋯特別勉学が優れてるわけでもなく、騎士になるほど腕が立つわけでもない。
だが今さら平民として長い人生を生きていくなんて無理だと思っていた。
だから唯一の取り柄でもある顔を利用して女性を口説き落とし、将来はどこかの貴族家に婿養子に迎えてもらうつもりだった。
そのための努力だけは怠ったことはない。
同じ下位貴族の令嬢でさえ、貴族というだけで傲慢な態度と見下した口調。そして我儘だ。
そんな彼女たちの扱いを僕は上手く出来ていたと思う。
それに見目好い僕は令嬢たちから人気があった。最初は警戒していても男慣れしていない令嬢など僕の話術と演技でイチコロだった。
そんな時だ、伯爵家の令嬢から声を掛けられたのは⋯⋯
彼女は不相応にも難攻不落と言われるフェリクス殿下を狙っていた。
そして彼女の姉もスティアート公爵を⋯⋯姉妹で格上で極上の男を欲するなんて馬鹿だと思った。
話を聞けば彼女たち姉妹は王子だから嫁ぎたいとか、高位貴族だから嫁ぎたいのではなく、本気で彼らが好きで手に入れたいと言うのだ。
そのせいか姉の方は婚期まで逃している。
本来ならそんな話に乗ったりしない。ただ相手が好きだから手に入れたいと思う一途な思いに少しだけ動かされてしまったんだ。
その姉妹の邪魔をする令嬢がランベル嬢だ。
彼女のことは僕でも名前は知っていた。
とても綺麗な子が入学してきたと噂になっていたからだ。
それに箱入り娘だと聞いて簡単に落とせると思った。
運が良ければ公爵家への婿入り⋯⋯は無理でも言伝を使って他家または金持ちの商家への紹介をしてもらえる。僕は相手が誰だろうが話術で言いくるめられる自信がはあった。
働かずして今以上の生活を手に入れられるなんて最高じゃないか!
上手く近づけたと思った。
遠巻きに見られる彼女はいつも一人だったから。
だから僕が優しく慰め傷ついた心を癒してあげればいい。僕にとっては簡単なことだと思っていた。
⋯⋯僕の失敗は最初の自己紹介を怠ったことだ。
モテる僕を知らない令嬢がいるなんて思いもよらなかった。
令嬢たちにチヤホヤされて天狗になっていた。
だからランベル嬢に『それに"以前のようにランチを一緒に"ですか?私はいつも一人で昼食をとっていますよ?たまたま貴方が同じ席にお座りになっただけですよ?それに⋯⋯私は貴方のお名前も知らないのですが?』なんて言われるまで相手にもされていなかった事に気づかなかった。
飛んだピエロだよ。
生徒たちの前で恥をかかされた僕はそこで手を引けばよかったんだ。
なのに⋯⋯伯爵令嬢に馬鹿にされムキになってしまった。
手段を選ばない。
汚い手を使おうとしたのが愚かだった。
計画を立てただけならまだよかった。
街のチンピラに依頼までしてしまったのが⋯⋯椅子に座らされ手足は縛られている状態なんだ。
フェリクス殿下⋯⋯なぜ彼が目の前にいるのか。
「お前が『ルナ』に近付いた時から見張っていた」
彼女は王子に愛称で呼ばれるほど近しい令嬢だったのか⋯⋯王弟の娘。
そうだ、王子たちとは血縁関係だった。こんな簡単な事実にも考えが及ばないから僕は愚か者なのだ。
「適当にその辺の女で手を打てばよかったものを、『ルナ』にまで手を伸ばしたのが運の尽きだ」
⋯⋯⋯⋯。
「命まで奪わない。だが覚悟はしておけ。彼等はお怒りだ」
彼等とは?
フェリクス殿下はそれだけ言って部屋から出て行ったが、その後に入ってきた二人を見て絶望した。
ああ僕は彼らの怒りに触れたのだ。
もう僕は貴族ではいられない。
それどころかこの先の未来を夢見ることすら許されないだろう。
願わくば善良な両親と兄たちには迷惑が及ばないことを祈ることしか僕には出来ない⋯⋯
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