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あれからエリザベスに絡まれることが無くなった。
そして、誰にも邪魔されることなく、楽しいお一人様を満喫していた。
気付けば明日からの学期末試験が終われば夏季休暇に入る。
本当、あっという間だったな。

このお気に入りの場所に来れるのも今学期は今日が最後ね。
なんて思いながらいつものポジションにすっぽりと収まる。
よかった、今日が晴れていて。
まあ、収まってしまえば秒で瞼が重くなって眠ってしまう。
そして、予鈴のチャイムに起こされて午後の授業に向かうのが、いつものルーティーン。

何故だが名残惜しくって今日に限って振り向いた。

⋯⋯ん?誰かいる?
いつも私が収まる木の根元の反対側に他の生徒も居たようだ。制服から男子生徒。
ピクリとも動かない⋯⋯もうすぐ授業が始まってしまう。誰だか知らないけれど起こした方がいいのかな?

そ~と忍び足で近付いた。なぜ忍び足だったのかは半分驚くかな?なんてイタズラ心が湧いちゃったから。

ん~美形だ。
木漏れ日の光に照らされてキラキラ光る短めの金髪がそよ風にさらさらと靡く。
すっと通った鼻筋に薄い唇。
座っていても長身だと分かる。
それに、何となく父様に似ている気がする。
唯一気になるのは眉間にできている皺。嫌な夢でも見ているのかも。時間も無いしさっさと起こしてあげよう。
顔を覗き込むように声を掛けた。

「起きて下さい遅刻しますよ?」

バッと音が聞こえそうな勢いで目を覚ました彼の透き通るような碧眼はお化けでも見たかのように見開いている。

「ふふふっびっくりしました?授業に遅れますよ?」

⋯⋯⋯⋯。

ん~驚き過ぎて声も出ないみたいだけど一応起きたみたいだし私も急がないと遅刻しちゃう。
では、失礼します。と言って今度は振り向くことなく教室に向かった。



♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


~フェリクス第二王子視点~




いつも見る夢がある。

銀髪をぴょんぴょん跳ねさせてトテトテと走る笑顔の可愛い幼女。
微笑ましくてずっと見ていたくなる。

次は場所は変わらないのに見たくない光景に切り替わると知っている。
ガリガリに痩せて色褪せたドレスを着せられ、頬の腫れを隠すために厚化粧を施された少女。

そして、死を知らされ絶望したあの日。

繰り返し見る夢は後悔のせいか、それとも助けられなかった罰か⋯⋯







「起きて下さい遅刻しますよ?」

優しく囁くような声に意識が浮上する。
っ!
目覚めたはずなのに、まだ夢を見ているのか?
目に映るのは亡くなったあの子と同じ珍しい紫の瞳。

幼女だったあの子が成長したらこんな感じになるのじゃないだろうか?

「ふふふっびっくりしました?授業に遅れますよ?」

サラりと彼女の銀髪が俺の頬を掠める。くすぐったい。
コレは夢では⋯⋯ない?
何も言葉を発さない俺に失礼しますと去って行く後ろ姿は、ココ最近では見慣れたもの。

「⋯⋯フ、フローラ?」

小さく呟いたその問いに応える者はここにはいない。
夢でも見間違いでもなければ、あれはフローラだ。
生きていたのか?
いや⋯⋯生きていたんだ。
俺があの瞳の色を間違えることは絶対にない!
俺がひと目で惹かれたアメジスト色の瞳。





教師に6歳年上の兄上と比べられて、王宮の庭園で隠れて蹲って泣いていた俺は突然『よしよし』と頭を撫でられて慌てて顔を上げた。

『えへへっびっくりした?お兄ちゃん』

そこには光を反射させた銀髪に神秘的な紫の瞳の幼女がいた。

『わたしはフローラ。お兄ちゃんは?』

『フェ、フェリクス』

突然自己紹介を始めたフローラ。
周りにいる大人たちの俺に対する作り笑顔とはまったく違う、本物の笑顔に見惚れて素直に名乗ってしまった。

『フェ、フェイクシュ?』

『ははっ、フェイでいいよ』

フェリクスと上手く言えないフローラにフェイでいいと言った。

『フェイ!』

その日、誰にも、両親にも呼ばれない俺の呼び名はフローラ限定で『フェイ』になった。それが最初で最後になるとも知らずに⋯⋯また会えると信じて疑っていなかった。





「ま、待って!待ってくれ!フローラ!」

過去の出来事に意識を持っていかれていた俺が気付いた時には、もう後ろ姿も見えなくなっていた。


学期末試験の間も毎日この場所に通ったが彼女に会えることはなかった。
もっと早く声を掛けていればと悔やまれた。

アレは俺の願望が見せた幻だったのだろうか?
それとも夏季休暇が開ければ、またココに現れるだろうか?

繰り返す不安と期待が、喜びに変わるのはすぐそこまで来ていた。
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