【完結】野垂れ死ねと言われ家を追い出されましたが幸せです

kana

文字の大きさ
上 下
10 / 71

10

しおりを挟む
お、驚いた。
お昼寝から目覚めたら目の前に鋭い目つきの知らない男の人が覗き込んでいたから。

でも、私と同じ瞳の色だ。
だからなのか親近感が湧いてきた。
目が離せない。
知らない男の人も驚いた顔をして固まっている。

私の持っていたネックレスから叔父様が紙?を取り出したら想像もつかない内容だった。

「え?」

待って、ちょっと待って!
お母様はあの男と結婚する前に私を妊娠していて、私の本当の父親が目の前にいるこの人ってこと?

声も出さずに震えて涙を流す目の前の人から私だけに聞こえたのは小さな、とても小さな声で⋯⋯懺悔と愛を囁く言葉だった。

「信じてやれなくてごめん。⋯⋯俺もフィーナだけを今も愛している」

え?
本当にこの人が私の?

喜ぶべき?
うん、娘に野垂れ死ねって言うような男が父親じゃなくてよかったと素直に喜ぶべきだと思うが⋯⋯

でも、この人のことは何も知らない。
鋭い目の⋯⋯でもそれはそれでよく見ると見た目だけなら叔父様レベルでカッコイイと思う。
ただ、この人は突然現れた私を娘だと信じられるのだろうか?
あ!信じてもらえなくても私には叔父様がいる!
それに、ずっとここに住んでもいいって言ってくれたから今さら本当の父親が現れたところで変わらないな。
うんうん、こんなに居心地がいいところは手放せない。

「フ、フローラ?⋯⋯フローラって言うのか?」

「え?は、はい」

つッ!

突然抱きしめられたら痛いッ!痛い!痛い!
⋯⋯でも、泣いているんだよ。それに温かい。お母様が亡くなってから抱きしめられることなんてなかった。

「⋯⋯俺の、俺の娘なのか?」

「た、たぶん?」

「ははっ、ローレンスの言った通りだ。可愛い、存在が愛おしい。⋯⋯その、可愛い俺の娘がなんでこんな姿になっているのか説明しろ!」

こ、怖っ!
いきなり雰囲気が変わったよ。

「それを今から聞きたいと思いますが、フローラ?話せるかな?体調は大丈夫?」

「はい、大丈夫です」

そこから本当の父親?に抱かれソファに移動したのはいい。でもそのまま膝の上なんだけど⋯⋯それも後ろから抱きしめられた形で。

最初はお母様との10年間。お母様が亡くなるまでは幸せだったこと。
その頃によく初恋の人の話を聞かせてくれたこと。
(その間、お父様?は私の肩に顔を埋めて泣いていた)

あの男はお母様の葬式にも出なかったこと。
その2日後には義母と私より早く生まれた異母姉が来たこと。(お異母姉様と呼ばれていたこと)
その日から私の扱いが変わったこと。
父親だけではなく義母にまで暴力を受けるようになったこと。
ロクに食べさせてもらっていなかったこと。
使用人以下の生活だったこと。

王家から私に第三王子の婚約者候補にと打診があったこと。
そして、邸から追い出されたこと。
もちろん『野垂れ死ね』と言われたこと等、された事は包み隠さず話した。

「「殺す」」

話し終えたところで叔父様とお父様?は不穏な言葉を発していた。

「人殺しはダメですよ!それで叔父様が罰せられて居なくなったら私はどうすればいいの?⋯⋯もう一人になるのは嫌なの」

あの人たちには絶対に涙を見せなかったのに、一度温もりを知ったら失うのが怖くて涙がとめどなく出てしまった。

「この後は大人の僕たちに任せて、悪いようにはしないよ」

「そうだ。俺の可愛いフローラは何も心配しなくていい」

そんなこんなで長い話は終わったんだけれど、お父様?が帰る間際に困ったことになった。
私を連れて帰ろうとするお父様?と、渡さないと言い張る叔父様とで、どちらも譲らないから言い争いになったのだ。

「貴方はフローラをどこに連れて帰るつもりですか!」

「王宮だが?」

なぜ王宮が出てくるの?

「ダメですよ!王宮ではフローラが心を休めることができないでしょう!」

「⋯⋯なら、ここに俺も引っ越してくる」

え?私のお父様?って無茶苦茶な人なの?

「あの~王宮って?」

「ああ、俺は王弟ってやつだからな」

「王弟?王弟って?国王様の弟の王弟?」

「そうだ、まあ俺は側妃の子だが」

え~~!再び驚かされる。

叔父様の説得で何とか今日のところはお父様?に帰ってもらうことになったのだけれど「父様」と呼んで欲しいと懇願された。

「と、父様?」

あ、呼んでみたらしっくりきた。
それに父様の破顔した顔が本当に嬉しそうで、私まで嬉しくなった。

抱きしめてなかなか離さない父様は明日も必ず会いに来ると言って渋々帰っていった。

追い出されたのは昨日のことなのに、目覚めてから数時間の間に地獄から天国に来た感じだ。

マヤに温かいお風呂に入れてもらって、ふかふかのベットに入ってからまだ何か言い忘れている気が⋯⋯




あ!私、死んでいることになっているかも⋯⋯
しおりを挟む
感想 463

あなたにおすすめの小説

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

〖完結〗幼馴染みの王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。

藍川みいな
恋愛
婚約者のカイン様は、婚約者の私よりも幼馴染みのクリスティ王女殿下ばかりを優先する。 何度も約束を破られ、彼と過ごせる時間は全くなかった。約束を破る理由はいつだって、「クリスティが……」だ。 同じ学園に通っているのに、私はまるで他人のよう。毎日毎日、二人の仲のいい姿を見せられ、苦しんでいることさえ彼は気付かない。 もうやめる。 カイン様との婚約は解消する。 でもなぜか、別れを告げたのに彼が付きまとってくる。 愛してる? 私はもう、あなたに興味はありません! 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 沢山の感想ありがとうございます。返信出来ず、申し訳ありません。

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい

高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。 だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。 クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。 ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。 【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】

大好きなあなたを忘れる方法

山田ランチ
恋愛
あらすじ  王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。  魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。 登場人物 ・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。 ・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。 ・イーライ 学園の園芸員。 クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。 ・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。 ・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。 ・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。 ・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。 ・マイロ 17歳、メリベルの友人。 魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。 魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。 ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。

処理中です...