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ピンクのドレスをゴテゴテとリボンとフリルで着飾ってご機嫌なエリザベスとその様子を微笑ましく見つめる父親と義母。
伯爵家の馬車は広くもないが狭くもない。
私に矛先を向けられないように空気になる。
でもそれは無駄だった。
「おい、お前は名を呼ばれても目線を合わせるなよ!ずっと俯いておけ!分かったな!」
「⋯⋯はい」
「本当、薄気味悪い瞳ね」
お母様がいつも綺麗だと誉めてくれていた瞳よ。
「言われてみればお異母姉様の瞳と同じ色の人を見たことがないわ」
アメジスト色の紫の瞳は珍しいってこと?
邸から出たことがないから知らない。確かに使用人にも似た瞳の色の人はいなかった。
「⋯⋯分かったな。気味の悪い目を王族に向けるなよ」
執拗いな。一度言われれば分かるわよ。
「はい」
もう話は終わりだと、またエリザベスが中心の話題に変わった。心の中でため息をついて外を眺めることにした。
そのまま馬車に揺られていると幼い頃の記憶が蘇ってきた。
そうだ!この邸だ!門からかなりの距離だけれど奥にお母様と同じ瞳の色の緑色の屋根が見える。
ここがお母様の育った邸だ。
ここにお母様の弟が住んでいるのかな?
私からしたら叔父様になるんだよね?
どんな人なんだろう?いつか会えるかな?
久しぶりにワクワクと心が踊った。
でもその邸が見えなくなってしまえばすぐに興味は消えてなくなる。
そこからは壁、壁、壁⋯⋯高い壁で中の様子は窺えなくなった。きっと、これは城壁なのだろう。
そのまま数分壁が途切れたところにあった大きな門を潜ると、窓からは何処となく記憶にある巨大な白亜のお城。
馬車が止まるとまずは父親が降りた。
父親の差し出した手に手を添えて義母、その次にエリザベスが降りた。
もちろん私には誰も手を貸してくれない。
うん、分かっていた。
通路を歩く間もキョロキョロと見回し、ずっとはしゃいだ声を上げているのはエリザベス。
まだ12歳と見るか、もう12歳と見るか⋯⋯まあ落ち着きがないのは一目瞭然。
そんな娘を注意もしないのが父親と義母。
う~ん、二人とも恥だとは思っていなさそうだ。
それでも嫌な顔一つ見せず案内をしてくれている王宮侍女は流石だ。
それにしても広いな。
もう既に十分近くは歩いている。と思う。
結局薔薇に囲まれた庭園に着くまでエリザベスはキャッキャと騒いでいた。
そこには真っ白なテーブルが距離を置いて二つ。そのうちの一つには既に女性と私と年齢の変わらない男の子が座っていた。王妃様と第三王子だろう。⋯⋯ここからは顔を上げないことと『はい』と『いいえ』だけしか言葉を発せない。
ああ、名前を名乗ることは仕方がないよね。
「本日はお招き頂きありがとうございます。私は「貴方の挨拶はいいわ。⋯⋯それよりも今日はよく来てくれたわね。久しぶりねフローラ。⋯⋯それにエリザベスだったかしら?」
父親の挨拶をどうでもいいかのように王妃様が遮った。王妃様らしくないよね?⋯⋯それに少し不機嫌そう?
取り敢えず自己紹介はしないと。
「お久しぶりでございます。フローラ・フォネスでございます」
「ええ、元気⋯⋯そうには見えないわね」
「王妃様!フ、フローラはびょ、病弱で⋯⋯」
「そ、そうですわ!」
「あなた達には聞いていませんよ」
おおう!口調は穏やかだけれど確実に二人に怒っているわね。顔を上げられないから想像でしかないけれどね。
「もういいわ、フローラ招待状を送るから今度ゆっくり二人でお話しましょうね」
え?
「⋯⋯はい」
「次はエリザベス?だったわね」
「はぁい!王妃様ぁ!わたくしはエリザベス・フォネスと申しますぅ。呼んでいただき光栄ですわぁ!」
ん~大丈夫か?
「ロイド、二人をあちらのテーブルに案内してさしあげて⋯⋯よく見定めなさい」
「はい、母上」
うん、分かっていたわ。
第一印象って大事よね。
ガリガリ、ボロボロの私よりも、綺麗に着飾って元気で可愛い子の方がいいよね。
ロイド第三王子様は迷うことなくエリザベスに手を差し出した。
伯爵家の馬車は広くもないが狭くもない。
私に矛先を向けられないように空気になる。
でもそれは無駄だった。
「おい、お前は名を呼ばれても目線を合わせるなよ!ずっと俯いておけ!分かったな!」
「⋯⋯はい」
「本当、薄気味悪い瞳ね」
お母様がいつも綺麗だと誉めてくれていた瞳よ。
「言われてみればお異母姉様の瞳と同じ色の人を見たことがないわ」
アメジスト色の紫の瞳は珍しいってこと?
邸から出たことがないから知らない。確かに使用人にも似た瞳の色の人はいなかった。
「⋯⋯分かったな。気味の悪い目を王族に向けるなよ」
執拗いな。一度言われれば分かるわよ。
「はい」
もう話は終わりだと、またエリザベスが中心の話題に変わった。心の中でため息をついて外を眺めることにした。
そのまま馬車に揺られていると幼い頃の記憶が蘇ってきた。
そうだ!この邸だ!門からかなりの距離だけれど奥にお母様と同じ瞳の色の緑色の屋根が見える。
ここがお母様の育った邸だ。
ここにお母様の弟が住んでいるのかな?
私からしたら叔父様になるんだよね?
どんな人なんだろう?いつか会えるかな?
久しぶりにワクワクと心が踊った。
でもその邸が見えなくなってしまえばすぐに興味は消えてなくなる。
そこからは壁、壁、壁⋯⋯高い壁で中の様子は窺えなくなった。きっと、これは城壁なのだろう。
そのまま数分壁が途切れたところにあった大きな門を潜ると、窓からは何処となく記憶にある巨大な白亜のお城。
馬車が止まるとまずは父親が降りた。
父親の差し出した手に手を添えて義母、その次にエリザベスが降りた。
もちろん私には誰も手を貸してくれない。
うん、分かっていた。
通路を歩く間もキョロキョロと見回し、ずっとはしゃいだ声を上げているのはエリザベス。
まだ12歳と見るか、もう12歳と見るか⋯⋯まあ落ち着きがないのは一目瞭然。
そんな娘を注意もしないのが父親と義母。
う~ん、二人とも恥だとは思っていなさそうだ。
それでも嫌な顔一つ見せず案内をしてくれている王宮侍女は流石だ。
それにしても広いな。
もう既に十分近くは歩いている。と思う。
結局薔薇に囲まれた庭園に着くまでエリザベスはキャッキャと騒いでいた。
そこには真っ白なテーブルが距離を置いて二つ。そのうちの一つには既に女性と私と年齢の変わらない男の子が座っていた。王妃様と第三王子だろう。⋯⋯ここからは顔を上げないことと『はい』と『いいえ』だけしか言葉を発せない。
ああ、名前を名乗ることは仕方がないよね。
「本日はお招き頂きありがとうございます。私は「貴方の挨拶はいいわ。⋯⋯それよりも今日はよく来てくれたわね。久しぶりねフローラ。⋯⋯それにエリザベスだったかしら?」
父親の挨拶をどうでもいいかのように王妃様が遮った。王妃様らしくないよね?⋯⋯それに少し不機嫌そう?
取り敢えず自己紹介はしないと。
「お久しぶりでございます。フローラ・フォネスでございます」
「ええ、元気⋯⋯そうには見えないわね」
「王妃様!フ、フローラはびょ、病弱で⋯⋯」
「そ、そうですわ!」
「あなた達には聞いていませんよ」
おおう!口調は穏やかだけれど確実に二人に怒っているわね。顔を上げられないから想像でしかないけれどね。
「もういいわ、フローラ招待状を送るから今度ゆっくり二人でお話しましょうね」
え?
「⋯⋯はい」
「次はエリザベス?だったわね」
「はぁい!王妃様ぁ!わたくしはエリザベス・フォネスと申しますぅ。呼んでいただき光栄ですわぁ!」
ん~大丈夫か?
「ロイド、二人をあちらのテーブルに案内してさしあげて⋯⋯よく見定めなさい」
「はい、母上」
うん、分かっていたわ。
第一印象って大事よね。
ガリガリ、ボロボロの私よりも、綺麗に着飾って元気で可愛い子の方がいいよね。
ロイド第三王子様は迷うことなくエリザベスに手を差し出した。
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